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「建設業の2025年問題」迫る危機 大工職人の高齢化と人手不足が招く未来

日テレNEWS NNN / 2025年1月5日 7時0分

日テレNEWS NNN

建設業が大きな岐路に立っている。大工職人の人手不足や高齢化などといった問題が山積する中、いよいよ「建設業の2025年問題」が襲来する。専門家は「この状況を放置すれば、経済や社会基盤への影響は避けられない」と警鐘を鳴らす。一体、何が起きているのか。

(社会部 栁原潤)

■押し寄せる熟練大工の「大量引退」

大工の大量引退が押し寄せる中、いかにして若手の入職者を増やすことができるのか。建設業界は苦悩が多い(写真提供 桃山建設)

かつて、子どものなりたい職業の上位常連だった「大工職人」は、鳴りを潜めている。

「この市況で新築住宅を受注できてありがたい限りです。でも結局、大工が足らない。工期通りになんとか間に合わせようとしているんですが、現場が回らないんですよ。依頼がきても受注を制限せざるを得ない状況です」

東京都世田谷区にある工務店、桃山建設で専務取締役を務める川岸憲一さんが吐露する。

2025年、建設業界は、熟練の大工職人の大量引退が押し寄せる。若手の担い手も増えず、人手不足がいっそう進んでいく。長らく建設業界では、「職人の育成・確保が一丁目一番地」(住宅関連団体の幹部)としながらも、これまで数多ある施策は有効打に欠いている。

職人の人手不足を背景に、住宅や施設建築などの工期遅れや施工費用の上昇が続くなど、すでに問題が見え隠れしつつある。こうした「建設業の2025年問題」は待ったなしの状況にある。

■大工の平均年齢54歳超え「若手がいない…」

大工就業者の推移。約40年前と比べても約3分の1の水準まで大工が減少している。(引用:総務省「国勢調査」から抜粋したもの)

内閣府によると2025年は、いわゆる「団塊の世代」(1947~1949年生まれ)が全員75歳以上の後期高齢者になる。国民の約3人に1人が65歳以上で、約5人に1人が75歳以上となる。文字通り“高齢化社会”を迎えた。

総務省の最新の国勢調査によると、大工の就業者数は2020年時点で29.8万人。戦後ピークとなった1980年が93.7万人となり、約40年前と比べても約3分の1の水準だ。2040年には約13万人まで落ち込む見通しだという。

他の産業と比較しても高齢化が顕著で、2020年時点で60歳以上が12.8万人で大工全体の43%を占め、平均年齢は54.2歳まで上昇した。30歳未満は7.2%にとどまる。

企業が人手不足を解消するために人材派遣を利用するのは一般的だが、建設業では「現場作業に直接従事する労働者」は派遣が禁止されている。例えば、木造住宅を建てる大工職人は、法規制によって人材派遣ができず、また、転職エージェントなどの有料職業紹介の対象外となっている。

建設業界は人手不足に苦しんでいるにもかかわらず、大工を正規職員の社員として雇用する企業は僅かだ。多くが「一人親方」として囲い込む。なぜか。

当然、大工を社員として雇うと、毎月の給与や社会保険料、厚生年金などの固定費が発生する。繁忙期であれば効率よく働けるが、例えば、閑散期で工務店が新築住宅を受注できなければ、大工の手があまり、人件費が重くのしかかる。こうした状況から、大工の社員雇用は「経営リスク」と見なす風潮が根強く、若手の大工希望者が安定した雇用を得るのが難しいのが現状だ。

この商習慣が業界全体で常態化していて、識者からは「もはや問題意識すら持たない工務店が多い」という指摘もある。建設業界の構造的な課題が、持続可能な人材育成を阻んでいる面も否めない。

建設業の労働問題に詳しいクラフトバンク総研の高木健次所長は「技能承継の問題が大きい」と述べた上で、「大工技能を学ぶ公的な職業訓練校がここ20年で相次いで閉鎖、統合され全国で1/3近く減少している。そもそも大工技能を学ぶ場が減っている。そして、一人親方も弟子を取らなくなった。さらに企業から評価の高く就職率の高い大学の工学部、工業高校などが減り、文系大卒・普通科の学生が増えたことも影響している。大工が急加速的に減っていくこの状況が続けば、経済や社会基盤への影響も避けられない」と問題点を指摘する。

■「学び」と「働く」を両立する新たな学校教育

マイスター高等学院で学ぶ生徒たち。工務店で大工修業しながら高卒資格の取得に向けて、勉学との両立を図っている(写真提供 四方継)

こうした状況に事業者サイドは、ただ手をこまねいているだけではない。兵庫県神戸市で工務店を経営する高橋剛志社長は、2023年4月、社会課題となっている職人不足の根本解決を目指し、通信制高校と職業訓練校を掛け合わせた「マイスター高等学院」を開校した。同校は、生徒が授業のカリキュラムとして、大工見習いとして働き、高校卒業と専門技能の習得を両立できるという、これまでにない独自の教育プログラムを確立している。

具体的には、生徒は週4日を提携する工務店で大工の見習いとして過ごし、実際の現場で家を建てたり、リフォームの作業を手伝ったりすることで、実践的な技術を習得する。残りの1日は、提携先の学校で一般的な高校の授業を受け、卒業に必要な単位を取得する仕組みだ。

高校生としてOTJで教わる大工見習い期間中は時給が支払われるため、働きながら学費を稼ぐことも可能だ。卒業後には、提携する全国の住宅会社に正社員として就業する道も用意されている。

同校代表の高橋氏は、大工を育成していくという取り組みだけでなく、「非行や不登校などで行き場を失い、学歴社会という壁にぶつかった子などに光を当てることで、将来のキャリア形成が困難になるという社会的な問題を解決したい」と述べる。

同校の教育プログラムを導入する提携の通信制高校は、近畿地方を中心に20校まで拡大、今後は全国への普及拡大を目指している。現在は大工職人に限らず、深刻な人手不足が危惧される製造業や介護福祉、林業にも裾野を広げている。

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