キティちゃん生みの親 “原点は戦争体験” 97歳サンリオ創業者が伝える「みんななかよく」『every.特集』
日テレNEWS NNN / 2025年1月18日 7時2分
国境を超えて愛されるサンリオのキャラクターには、平和への願いが込められています。キティちゃんたちとともに「みんななかよく」歩んできた、創業者の辻信太郎名誉会長(97)。原点にある戦争体験から、戦後80年に若い世代へ伝えたい特別な思いとは。
■“人と人が仲良くなる”ために
1974年に誕生した、ハローキティ。国境も性別も年代も超えて、多くの人に愛されています。キティちゃんの“生みの親”はサンリオの創業者、辻信太郎名誉会長、御年97。
企業理念は「みんななかよく」
サンリオ創業者 辻 信太郎 名誉会長(97)
「キティちゃんを好きになるっていうことは、みんな仲良くなってもらうっていうことだから」
■キティちゃんとともに「みんななかよく」
今でも週1回は会社を訪れ、社員とコミュニケーションを重ねています。
辻さん
「はい、じゃあ頑張って」
「いいね、じゃあよろしく」
社内パーティー(2024年3月)
「はい、キティ」
ハローキティとともに歩んできた97歳は根っからのエンターテイナー。
■終戦の8月に寄せる特別な思い
そんな辻さんには、毎年8月、大切にしていることがあります。サンリオの月刊紙「いちご新聞」に寄せるメッセージです。
――「戦争だから仕方がない」78年前に、王さまの周りの大人たちは王さまにそう言いました。王さまの実家も燃えてしまいました(いちご新聞2023年8月号)。
「いちごの王さま」は、辻さん本人をキャラクター化したもの。終戦の日を迎える8月号に毎年綴る、特別な思い…
辻さん
「悪いことはしちゃいけないんだと、だからみんなが仲良く生きていくということ、それを子どものうちから教えたい」
■太平洋戦争末期「甲府空襲」を体験
昭和2年、山梨県の料亭「三省楼」の跡取りとして生まれた辻さん。早くに母親を亡くし、父と弟、妹の4人家族で少年時代を過ごしました。
辻さんが大学生だった終戦1か月前。1945年7月6日の夜から7日にかけ甲府市内は、アメリカ軍の爆撃機131機による空襲を受けました。
およそ2時間にわたって落とされた焼夷弾。死者は1127人、市街地の7割以上が焼け落ちました。
辻さん
「焼いちゃう爆弾、焼夷弾をばらばら落としていった。僕は妹を肩車して逃げ始めた」
火の手から逃げる中、目にした光景は…
「おぶさったような形で死んでいた人がいたんです。どこかの人がその人を起こしたら、その下に赤ちゃんがやっぱり死んでいた。熱いから赤ちゃんを水の所へ入れて、自分がおっかぶさって焼け死んだ…」
普通に、ただ懸命に生きていた人たちが戦争の犠牲になっていく…
■「戦争はよくない」と思いを込めて
夜が明けた甲府のまちは灰色と黒でできた“闇の世界”に変わっていました。そのとき周囲の大人たちが口にしたのは…
辻さん
「戦争だからしょうがないって僕はずっと言われてきたの。僕はなぜ戦争するんだ、戦争はよくないって言うと、戦争はしょうがない、相手を倒す(方法で)しか自分たちは生きていけない」
「そんなバカなことはない、話し合ってくれと、それでコミュニケーションの会社をつくっていったんです」
「サンリオという会社は、コミュニケーションの会社なんです」
■グリーティングカードも“戦争体験”が原点
終戦から15年、1960年に創業したサンリオ。辻信太郎社長、56歳(当時)。
“人と人が仲良くなる仕事をしよう”――戦争を体験した辻さんの原点です。
その取り組みの1つが、誕生日などに贈るグリーティングカード。小さなプレゼントを贈り合えばコミュニケーションが生まれ、関係を築いていける。
辻さん(現在は名誉会長)
「鉛筆1本でも消しゴム1つでもいいから、あげることによって仲良しの輪を広げていけるよ」
■97歳が伝える、戦争の記憶
2024年6月、辻さんは同級生に会うため、山梨・甲府にある高齢者施設を訪れました。
辻さん
「4歳からだからね、4歳」
幼なじみの大森昭次さんも、戦争に青春を奪われました。
辻さんの同級生 大森 昭次さん(97)
「今考えればひどいよね、人間を兵器の代わりに使ったんだからね」
「命令が出れば行かなければならないからね」
太平洋戦争末期、大森さんは予科練を経て特攻隊に配属。あすにも出撃というタイミングで終戦を迎えました。
大森さん
「黙っていても無鉄砲にやたらたたかれたね」
「最後の決戦の時の盾になる部隊だから、並大抵の努力じゃ間に合わないぞと」
■同級生も…戦争に奪われた青春
辻さん
「同級生みんな死んじゃった。だってみんな兵隊に行くことが名誉だと思ったんだ」
「戦争だからしょうがない」――そう言われ続けながら戦中・戦後を生き抜いた2人の話は尽きません。
辻さん
「俺と大森さんだけかね? 頑張っているのは」
大森さん
「本当にみんないなくなっちゃったね」
辻さん
「じゃあ握手しよう」
80年という年月が経ち、薄まっていく戦争の記憶。
■キャラクターに込めた“平和の種”
一方で辻さんも、長い年月をかけて平和の種をまき続けてきました。
キャラクターが勢ぞろいするサンリオピューロランド。パレードの中で、闇の女王に立ち向かうハローキティは暴力を振るいません。
ダニエル
「ひどすぎる。闇の女王を倒すんだ」
ハローキティ
「待ってー、倒すなんてやめて」
「誰だって暗い気持ちになることもある。光を見たくないときも」
「思い出して、みんな! いちごの王さまは教えてくれたわ。やさしさと思いやりの心があれば、どんな時も誰とでも、仲良く助け合って生きていけるって」
◇
2024年の「いちご新聞8月号」。いちごの王さま、辻さんからのメッセージは若い世代の人たちに贈る言葉でした。
いちごの王さまからのメッセージ(2024年8月号)
「1番いいのは最初から『戦わない、争わない』ことではないかと王さまは考えます。そんなこと出来ないって思いますか?」
「王さまは、普段から仲良く信頼関係を築いていれば出来ると信じています。『なかよく』は『争い』より、ずっとずっと強くて揺るがないものです。『争い』は破滅に向かうけれど、『なかよく』は世界中を笑顔で結び付ける力を持っています」
「だから、王さまはこれからもずっとずっと『みんななかよく』と言い続けていきたいと思います」
■戦後80年…いまを、戦前にさせない
辻さんがまいた平和の種は、今では約130の国や地域に。平和の願いを込めたキャラクターは、世界中で人と人とのつながりを取り持っています。
しかし、私たちの世界ではまだ戦争はなくなっていません。
――攻めてきたから「しょうがない」正義を守るためには「しょうがない」
辻さんは、あの時と同じ空気が世界を満たし始めていないかと危惧しています。
辻さん
「戦争なんて人を殺すんだ。人を殺すことがいいはずがないのにもかかわらず、もう戦争だから仕方ないとかなんとか言いながら、どんどんいまだに…」
「普通の動物は気に入らなければ、かみついたりいろいろやりますよ。でも人間は違う。知能を持っているわけですから、話し合いを…。絶対に武力で解決しようとしてはならない」
鉛筆1本、カード1枚からめざす平和。ハローキティとともに訴え続けます。
「みんなが仲良く助けあって、思いやりを持って生きていかなければだめだよ」
(2025年1月8日『news every.』特集より)
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