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「日本人も買った」ミャンマー人身売買の闇…中国系組織に監禁された男性“実態”証言

日テレNEWS NNN / 2025年1月18日 10時0分

日テレNEWS NNN

ミャンマーでは犯罪組織の拠点に外国人が監禁され、詐欺行為に加担させられているとされ、日本人も含まれている可能性が指摘されている。こうした組織にだまされ中国からミャンマーへ密入国したという中国人男性が、人身売買から詐欺グループに監禁されるまでの経緯を語った。

(NNN上海支局 渡辺容代)

■「極秘ドラマ制作」だまされ…“国境越え”ミャンマーへ

ミャンマーの国境地帯

中国・上海で取材に応じた許博淳さん(38)。長身で、はつらつとした話しぶりからは、2年前に彼の身に起きた事態を想像するのは難しい。2023年7月、アルバイトでドラマなどのエキストラをしていた許さんは、SNSで“ドラマの撮影スタッフの募集広告”に申し込み、ミャンマーとの国境の街・雲南省のシーサンパンナを訪れた。集合場所となったマンションの一室では「最上位クラスの極秘ドラマだ」との説明を受け、身分証と携帯電話を預けさせられたという。

「部屋には自分のほかにも若者が数人いて、カードゲームなんかをしていたよ。撮影現場ではこれまでにも携帯を預けるということはあったし、不自然だとは思わなかったんだ」

異変があったのは到着した日の夜だ。ほかの若者たちと車に乗せられ、月明かりを頼りに木が茂る山道を奥へと進んだ。行き止まりになった場所で車から降りると、ナイフを腰に携えた迷彩服の男たちに囲まれていたという。

そのうちの1人が笑って話しかけてきた。

「怖がらないで。一緒にこの山に登ってほしいんだ。山の向こうには“密輸品”がたくさんあって、それを受け取ってきてほしいんだ。報酬は払う」

許さんは断ることもできず、脅されるように山中を移動したという。夜が明ける頃に山を越え、その後、何度も車を乗り換えさせられ到着したのは、農家と高層ビルが混在するアンバランスな印象の町だった。商店の看板は中国語で書かれていたが、行きかう人の見た目が違う。許さんははっきりと「国境を越えた」と悟った。

■人身売買の拠点で“処罰” 暴行の様子を撮影しライブ配信も

取材に応じる許博淳さん

車を降り、農民たちが田畑を耕すのどかな風景の中をしばらく歩くと、許さんらは突然、平屋建ての建物の中に押し込まれた。中庭を取り囲むように部屋が配置されていて、入り口が閉じられると外からは完全に遮断される。中庭には兵士のような恰好をした男らがライフル銃を手に立ち、周辺の部屋には手錠をかけられた若者たちが70~80人くらい、しゃがみこんでいた。棒などでたたかれ、うめき声をあげる人もいたという。

「その時、頭が真っ白になったんだ。私たちも部屋の1つに入れられ、手錠をかけられた。『ここは、どこか』と聞いた途端、顔を平手で思い切り打たれた」

その後も棒で執拗に殴られ、許さんは抵抗する意欲を失ったという。

「部屋はコンクリートの床の上に布団が敷かれていて、血の跡がいくつも残っていた。とても嫌な臭いもした」

摘発された拠点での暴力行為

許さんが監禁されたのは、ミャンマー北東部にある人身売買が行われる拠点だったという。一日2回の食事は見張り役の食べ残しで、手錠をかけたまま手で口に運び、拒否すれば暴力を振るわれる。さらに預金を引き出し、ローンを組み、友人や親戚をだまして連れて来るよう要求される。金銭や人間関係を徹底的に搾取された後、「売りに出される」というのだ。

暴行も日常的に行われ、抵抗した人が銃殺されたこともあったという。

「何人かの若者が耐えられず手錠をつけたまま抵抗したんだ。すると管理者が発砲の指示を出して、4人がその場で死んだ。管理者は“処罰”の様子を撮影し、取引相手にライブ配信していた」

毎日、ミャンマーに拠点のある犯罪組織の“リクルーター”が人を選びに来たという。彼らの要求は2つで「パソコンが使えるか」と「中国語が話せるか」。組織の人間が「30日間、選ばれなければ臓器売買の闇市場に回す」と話すのも耳にしたという。許さんは半月ほどで詐欺グループのリクルーターに“買われ”、拠点を移ることになった。

■脅され詐欺に加担…「日本人も買った」 20人以上の日本人も監禁か

詐欺グループ拠点の見取り図

男性が連れていかれたのは、中国系の詐欺グループの拠点となっていたミャンマー北東部の街にあるホテルだ。各地から集められた数百人規模の人々が詐欺に加担させられていたという。

「1階はカジノで、2階から7階までは詐欺をするグループが担当エリアごとに2つずつ配置されていた。自分たちのグループは100人ぐらいで、午前10時半から深夜2時まで働かされた。一日2回、あわせて30分の食事の時間を除き、自由はなかった」

組織から指示された手口は、主にインターネットを通じた「投資詐欺」だ。一人につき4台のスマートフォンとパソコンが支給され、無作為に詐欺のメールを送る。関心を持った人から返信があれば、男女関係などを匂わせて信用させ、偽の投資に誘いこむ。拠点の中には近代的なオフィスのように整えられた「撮影部屋」があり、相手に疑われた場合にはここで衣装に着替え、“投資に成功したビジネスマン”を装い、テレビ電話で会話することもあったという。

犯罪組織の拠点

「午前2時を過ぎると“成果”を確認され、悪ければたたかれたり蹴られたり…それぞれのフロアに銃を持った警備が24時間、警戒している。やらざるを得なかったんだ。逃走することも死ぬこともできない」

そうした中、組織の人間が「日本人も買った」と話すのを聞いたという。

「ボスの話では『大金で何人かの日本人と韓国人を買って、仮想通貨の詐欺をやっている。日本人をだますには、やはりネーティブでないとうまくいかない』って」

政情不安が続くミャンマーでは、北部を中心に中国系犯罪組織が拠点を形成していると指摘されている。中には外国人も監禁され、詐欺行為に加担させられるケースもあるという。タイで人身売買の被害者支援にあたる市民団体によると、監禁されているのは21か国6000人以上で、中には日本人20人以上が含まれている可能性があるという。

■国際社会から孤立のミャンマー 中国系犯罪組織の温床に

中国の警察当局が摘発した詐欺の容疑者ら

許さんは3か月ほど詐欺グループの拠点に監禁された後、救出されたという。中国にいる家族が中国当局に訴え、ミャンマー側の華人団体を通じて身代金など100万元(約2000万円)以上を支払ったためだ。

中国でも特殊詐欺被害が深刻化する中、中国の警察当局もミャンマー側と合同で摘発に乗り出している。これまでに中国人の容疑者5万3000人以上を拘束したと強調しているが、許さんの証言によると、地元の支配勢力や一部の住民も金品などで買収され、犯罪組織を黙認しているといい、構造は根深い。国際社会から孤立し、対中依存を深めるミャンマーで、犯罪の温床を一掃するのは簡単ではない。

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