多様性“尊重しすぎ”は「間違った認識」トランプ政権で企業のDE&I後退も…日本企業で「多様性は必要不可欠」な理由
日テレNEWS NNN / 2025年1月31日 11時0分
「性別は男性と女性の2つだけ」。就任初日にこのような大統領令を出したトランプ大統領。トランプ氏の多様性見直しを見越して、アメリカ企業ではトランプ政権始動前から多様性目標を撤回する動きが相次ぎました。これを受けて、経団連でDE&I推進に取り組む企業トップからは、「多様性は必要不可欠」「日本で間違った認識がされないか非常に懸念している」と訴える声が上がりました。
◾️「人種」や「性別」の多様性排除へ…トランプ大統領の就任演説
報道局ジェンダー班 庭野めぐみ解説委員:トランプ氏の就任演説ですが。
経済部デスク 安藤佐和子解説委員:驚きの連続で、こんな発言をしていました。
──私は今週、公私のあらゆる場面に「人種」と「性別」を社会的に組み入れようとする政府の政策を終わらせます。私たちは、能力に基づいた社会を築きます。よって今後は、性別は「男性」と「女性」の2つだけというのがアメリカの公式方針です。
アメリカではこれまでパスポートなどの身分証明書の性別欄は男性と女性以外にもXが選べるようになっていたんですが、それが「無し」となるということです。アメリカが今まで進めてきた多様性の推進と逆行する動きですよね。
庭野:アメリカ最大のLGBTQの権利擁護団体は声明で『我々は引き下がることも言いなりになることも拒否する。これらの有害な措置に全力で反撃する』と述べています。
■アメリカで進む多様性目標撤回の動き
安藤:DE&Iという言葉があります。日本語にすると多様性(=Diversity)、公平性(=Equity)、包摂性(=Inclusion)。人種、国籍、性別、年齢、障害の有無、宗教、文化、そういった違いにかかわらず、多様な人たちが生きやすい社会をつくろうというものです。その実現のため、米企業などは白人ばかりに偏らないようにと、白人以外の人の採用を増やしたり、あるいは役員の中で女性の割合を何%以上と定めたりというような数値目標を作って発表していました。
庭野:それがトランプ氏の就任で変わってしまっているのですね。
安藤:次々と有名な企業が多様性目標を撤回したり縮小したりしています。ボーイングやウォルマート、アメリカの日産、マクドナルドアメリカ本社など有名な企業が、数値目標の撤回やDE&Iを推進するイベントへの協賛取りやめ、DE&I推進の実績を第三者機関に提示することをやめるなどの動きが相次いでいます。
庭野:アメリカは日本よりもかなり理解が進んでいる中で、なぜこの動きなんでしょうか?
安藤:トランプ氏は第一次政権のときに「人種と性別のステレオタイプとの闘いを終わらせる大統領令」を出しています。その中身は、「人種差別をしないようにするトレーニング教材などが、逆に白人を悪者にして、社会を分断させるから、けしからん!」というようなことでした。
また、これとは別に保守派の団体が起こしていたアファーマティブ・アクションに反対する裁判もあり、2023年にアメリカ連邦裁判所から「憲法違反」という判決が出ました。当時大統領であったバイデン氏は「残念だ」と遺憾の意を示した一方、トランプ氏は「アメリカにとって素晴らしい日になった」と声明を出しています。
◾️目標撤回も本心は…「大統領の任期は所詮4年」
安藤:さらにこのところ過激な“物言う株主”が多様性を推進している企業を標的にして、Xなどで「職場に社会的な問題を持ち込むな」と攻撃し、企業に目標を取り下げさせる動きも出てきていました。あるグローバル企業の幹部の言葉を借りれば、「目立つとターゲットにされる」「アメリカ企業は先回りして目標を引っ込めているんだ」と言っていました。
庭野:今まで頑張って多様性を推進してきた企業が、本当に方針を転換してしまうのでしょうか?
安藤:「大統領の任期は所詮4年。4年間を乗り切ろう!」と。表向きはトランプ氏におもねるような形をとっていますが、「実際には全部やめるわけではない」と説明していました。「職場に多様な人材を入れて、みんなが働きやすくすることは、『慈善事業』ではなく、企業自体が強くなるために必要だ」と分かっている企業が多いと思います。
庭野:商品を開発するにしても、女性とか、介護や子育てをしている人、あるいは外国人のニーズがわかるとかすれば、新しい商品につながりますが、経営側が60代、70代の男性たちだけだったら新しい発想が生まれないですもんね。
◾️日本とアメリカでは「置かれている状況が全く違う」
安藤:経団連のダイバーシティ推進委員長を務める、サニーサイドアップグループ社長の次原悦子さんに聞いたところ、「今回のアメリカの報道を受けて、日本で間違った認識がされないか非常に懸念している」と話していました。
次原さんは「日本とアメリカではまず置かれている状況が全く違う」といいます。日本はジェンダーギャップ指数が146か国中118位で、アメリカは43位。日本はアメリカのレベルまで全然至っていません。
庭野:下から数えた方が早いですからね。
安藤:次原さんは、「 “日本人”で“シニア”で“男性”たちだけで経営というのは限界がある」「様々なリスクに耐えうる強靭な企業をつくっていくためには、多様性は必要不可欠です」と力説していました。
庭野:アメリカみたいに進んでいないのに、「どこから後退するのか?」と思いますね。
◾️日本企業はDE&I目標を取り下げるのか?
庭野:日本企業の動きはどうなっていますか?
安藤:日本マクドナルドは、2030年度末までに管理職の女性比率を40%にするという目標を掲げてきて、このまま維持してやるということです。また、日産も2030年に向けて、工場スタッフなどを除く従業員の3割を女性にするという目標を取り下げないということです。
庭野:やらないと生き残れないということでしょうか?
安藤:日本の大企業、特にプライム市場では、やるのが当たり前という状況です。
東京証券取引所は、プライム市場上場企業に対して、
①2025年を目途に、女性役員を1名以上選任するよう努める。
②2030年までに、女性役員の比率を30%以上とすることを目指す。
ということを求めています。
ただどちらも、上場維持の『条件』ではなく、『努力目標』です。東証関係者に聞いたところ、「できればやっていただきたい」ということで、推奨しているスタンスでした。
企業の株を買う投資家が見ているのは、DE&Iの数値目標を達成するかではなく、それが企業の生き残りや価値向上につながるかという部分であり、そうでないと評価されません。業種によって、女性が多い化粧品メーカーがあったり、逆に建設系なら女性が少なかったりするので、画一的に「何割」という数値目標達成が大事なのではなく“優秀な人がちゃんと活躍しやすい環境になっているのか”が見られるといいます。
庭野:厚生労働省が従業員101人以上の企業に対して、女性の管理職比率の公表を義務付ける法改正を目指す動きもあります。公表することで、企業もやらざるを得なくなります。日本は結構横並びを気にするので、他の企業が女性の管理職比率を公表して比率が上がっているのに、自分の企業だけがいつまでも女性管理職が少ないとなると問題になります。
安藤:多様性目標を撤廃するリスクについて、企業経営に詳しい一橋大学の円谷昭一教授に話をきいたところ「企業・投資家ともに急激に新卒が採用できなくなって来ています。当然ながら女子学生の考え・主張も取り入れていかなければならず、トランプ政権うんぬんとは別に、今後もDE&Iを重視していかないと若手採用という点で会社の存続の危機を迎えると感じています」と警鐘を鳴らしていました。
庭野:働き方改革は多様性とマッチすると思うんですね。バリバリの365日働き続ける男性は少数派になっていて、育児や介護をしている人もいます。均一な男の人たちじゃなく、多様な誰でも働きやすい、効率がいい働き方になっていけば、結果として業績が上がったという例が結構あります。
アメリカ企業では今後、表面上DE&Iが後退しそうですが、日本はどうするのか。誰もが生きやすい社会というのはみんなのためになるし、結果的には企業が儲かることにつながるかもしれません。
安藤:つながりますね。
■Talk Gender~もっと話そう、ジェンダーのこと~
日テレ報道局ジェンダー班のメンバーが、ジェンダーに関するニュースを起点に記者やゲストとあれこれ話すPodcastプログラム。MCは、報道一筋35年以上、子育てや健康を専門とする庭野めぐみ解説委員と、カルチャーニュースやnews zeroを担当し、ゲイを公表して働く白川大介プロデューサー。 “話す”はインクルーシブな未来のきっかけ。あなたも輪に入りませんか?
番組ハッシュタグ:#talkgender
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