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高校無償化で生徒が公立から私立へ流出? 専門家が警鐘“新たな格差”を生む可能性も

日テレNEWS NNN / 2025年2月12日 17時10分

慶應義塾大学 経済学部 赤林英夫教授こどもの機会均等研究センター(CREOC)センター長

国会では、自民党と公明党の与党と日本維新の会の間で“所得制限なし”の高校授業料の無償化をめぐって議論が行われている。すでに東京都や大阪府が実質無償化の政策を打ち出す中、住む場所によって高校授業料の差が生まれていることから「公立・私立問わず全国一律で無償化すべき」との声もあがる。私立を含め無償化が実現した場合にどんな影響や課題があるのか。教育経済学に詳しい慶応義塾大学の赤林英夫教授に聞いた。

■公立高校と私立高校の関係が変わる?

公立・私立問わず全国一律で高校の授業料が無償化されることは、保護者の収入などの経済環境に左右されず、進学の選択肢が広がるという点で大きなメリットがある。「お金がないから私立に行けない」という状況はもしかするとなくなるかもしれない。

赤林教授は、所得制限なしの無償化に基本的に「賛成」の立場をとる一方で「私立高校まで無償となる政策は単なる授業料無償化政策ではなく、公立・私立の関係を大きく変える」と指摘する。賛成するにあたって必要な“条件”があるというのだ。

赤林教授がポイントとしてあげるのが、「教育の質の向上」と「教育機会の格差の是正」だ。

■無償化によって「教育の質」は上がるのか?

まず、第一に授業料無償化によって教育の質は向上するのかという点。私立を含む無償化を主張する側の意見として「費用ではなく学校の魅力で進学先を選ぶようになれば、公立・私立の自由競争が促され、結果的に“教育の質の向上”につながる」という考えがある。

ただ、赤林教授は「危ない議論だ」と警鐘を鳴らす。

「公立高校というのは、たとえば人件費にしても先生の給与にしても私立高校のように独自財源を持つことはできません。また学習指導要領の縛りを意識して授業を組み立てざるを得ません。いくら質を上げたいと思ってもできることは限られています」

競争を公平にするには、公立高校の財源や運営の自由度を私立並みに改革する必要があるとの指摘だ。

「公立高校の授業の組み立て、お金・人材の使い方を、たとえば私立並みに自由化する。そうすれば同じような条件で本当の意味での“公平な競争”になると思います」

実際に、日本テレビが取材をした都立高校の教員のひとりは「印刷機は老朽化し、紙折り機は壊れたまま。定期テストは教員が手で折っています。このような環境で私立と競争しろと言われても無理があります」と悲痛な胸の内を明かしている。

■私立高校人気で「公教育」が損なわれる懸念

また、赤林教授は「私立高校が無償化された場合、授業料以外の他の条件が一定であれば、公立から私立に受験生が流れる可能性が高い」と指摘する。

実際に、東京都独自の政策として2024年度から私立を含む高校無償化を取り入れた東京では、今年1月に公表された都内の公立中学3年生の進学希望調査で、都立高校の志望率が調査開始以来、最も低くなっている。

その背景の一つに高校入試では、私立高校の方が公立高校より受験科目が少ない傾向にあることを指摘する人もいる。赤林教授は次のように話す。

「中学生が3科目受験に特化することが教育の質を上げることになるのかは簡単にはわかりません」「中学・高校時代に基礎的な科目を広くやっておくということが、これから新しい技術や新しい社会に適応していくためには必要ではないかという議論もあります。生徒に人気があるから、それは良い教育なんだということも単純にはいえません」

■授業料無償化で必ずしも「教育機会の格差」は縮まらない

第二に、赤林教授は高校の完全無償化が「必ずしも教育の機会の格差を縮めるということではない」と指摘する。

仮に公立・私立高校の授業料が無償化された場合、金銭的な事情で私立への進学を諦めた世帯にも選べる学校の幅が広がるという意見がある。だが、赤林教授が懸念するのは、私立の完全中高一貫校の存在だ。

「高校からの入学枠を設けていない私立の完全中高一貫校が首都圏で増えていますが、入学を希望する方は私立中学の受験と授業料が必要。授業料無償化の恩恵を受ける私立の中高一貫校は一定程度の高校の入学枠を維持するべきだと考えています。それによってどの高校に入学を望む子どもにとってもチャンスが広がることになります」

■中学受験が過熱し“新たな格差”が生まれる懸念

さらに、赤林教授はこう語る。

「高校無償化で余裕が出たお金で中学受験が過熱することで、そこに一層のお金が必要になるかもしれません。中学受験にお金を出せる世帯は少なくとも比較的裕福な世帯なので“新たな格差”が生じるかもしれません」

「低所得層にとってはいまだに中学受験には手が届きませんから、低所得層と中所得層の間では“格差が広がる”可能性があります。余裕が出たお金で早い時期から学習塾や家庭教師などを使った場合、必ずしも親の教育費負担が大きく減るわけではありません」

赤林教授は、私立を含む高校無償化を進める場合、「全ての子どもに恩恵がきちんと行き渡る制度設計が重要」だと強調する。

「授業料そのものが負担になっているのではなく、塾に行かなければいけないという不安が親にとって心理的負担となっているかもしれません」

「高校授業料の無償化というのは、そこ(塾などの問題)に必ずしも手をつけられる政策ではない。長期的には学習塾や家庭教師に頼らなくてもいい教育を受けられる、そして自分の望んだ道に行けるような教育制度全体をつくっていかなければいけないと思います」

■高校授業料無償化の政策目的・制度設計は?

少数与党の今、石破政権は予算を成立させるため、野党の「賛成」を取り付けないといけない。野党のうち、日本維新の会の賛成を得るためには維新が強く主張する“完全な”高校無償化をめぐる協議で一定の妥協が避けられない情勢だ。

ただ、無償化をめぐる協議で、教育全体への影響を考慮し、政策目的を明確にした具体的な制度設計が議論されているのか。自民・公明・維新の3党にはそうした懸念についても丁寧に説明することを期待したい。

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