[社説]2023墓碑銘 平和のバトン渡された
沖縄タイムス+プラス / 2023年12月30日 5時0分
戦後78年のことし、沖縄戦継承の支柱になってきた人たちが相次いで旅立った。
白梅同窓会の会長だった中山きくさん(享年94)はその代表的な人物だ。
県立第二高等女学校4年生だった16歳の時、第32軍の野戦病院の補助看護要員となり、切断した手足の廃棄や排せつ物の処理に当たった。
後に「白梅学徒隊」と呼ばれる生徒は56人のうち22人が犠牲になった。生き残った負い目から長く沈黙した。転機になったのが、夫の転勤のため教員を辞め、49歳から3年間移り住んだ広島と長崎。苦しみながらも体験を語る被爆者に触発され、自身の体験を語る決意をする。帰沖後は学徒の体験集をまとめ、県内外で精力的に講演した。
2007年の教科書検定意見撤回を求める県民大会の実行委員会に名を連ね、15年の辺野古新基地建設に反対する県民大会で登壇するなど戦争につながる動きに異を唱え続けた。
本村つるさん(享年97)は「ひめゆり学徒隊」の生き残り。沖縄師範学校女子部の最上級生だった19歳に戦場に駆り出され、沖縄陸軍病院で伝令役などを担った。
被弾して動けなくなった後輩を「後で迎えに来るから」と置いたまま、約束を果たせなかったことを終生悔いた。
戦後は、糸満市の「ひめゆり平和祈念資料館」の開館に中心になって関わった。長く館長を務めるなど、平和学習に欠かせない場となった資料館の礎を築いた。
■ ■
疎開船「対馬丸」の生存者、平良啓子さん(享年88)は9歳で過酷な体験をした。乗船した対馬丸が米潜水艦の魚雷攻撃を受け、6日間漂流した後、救出された。
一緒に乗った家族やいとこを失った。「あなたは元気で帰ってきたのに、うちの子は太平洋に置いてきたの」といとこの母親に言われ、罪悪感に苦しんだ。
戦後は小学校教師の傍ら、学校などで語り部として精力的に活動した。講演回数は千回に及ぶ。大宜味村憲法九条を守る会の代表を務め、改憲の動きや辺野古新基地建設に反対した。
沖縄戦や日本復帰などを文学で表現したノーベル文学賞作家の大江健三郎さん(享年88)も逝った。米施政権下の沖縄の実態や日本との関係を書いた「沖縄ノート」を刊行。「集団自決(強制集団死)」の記述を巡り、旧日本軍の戦隊長らから名誉毀損(きそん)などで訴えられた裁判に毅然(きぜん)と立ち向かい、最高裁で勝訴した。
■ ■
「思っているだけでは、平和は来ない。行動しなさい」
中山さんは生前、口癖のようにこう言っていたという。
4人に共通するのはその行動力だ。高齢になっても、体験を語り、戦争につながる動きに警鐘を鳴らし続けた。「沖縄を二度と再び戦場にしない」という強い信念があったからに違いない。
沖縄では、南西防衛を理由に、自衛隊基地が新設され、日米合同訓練が増加するなど、軍事力強化が急ピッチで進んでいる。
どう行動するか。私たちの手にバトンは渡された。
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