沖縄の精神医療の歩み、一冊に 琉大名誉教授の小椋力さん、予防を重視した思いとは
沖縄タイムス+プラス / 2024年2月22日 11時19分
琉球大学名誉教授で精神科医の小椋力(おぐら・ちから)さん(86)がこのほど、「沖縄の精神医療 『ゼロ』から健康で幸福な明日へ」(沖縄タイムス社、1980円)を出版した。戦前から米軍統治下、日本復帰後の沖縄の精神医療の歴史をまとめた。また、県内の関係者16人がそれぞれの立場から現状と展望を記しており、沖縄の精神医療の歩みを網羅した一冊となっている。小椋さんは1984年に鳥取大学医学部から琉球大学医学部に教授として赴任。人材を育成しながら、日本精神障害予防研究会(現・日本精神保健予防学会)を立ち上げるなど、病気予防の大切さを訴えてきた。40年間、沖縄の人々の健康を願ってきた小椋さんの思いを聞いた。(出版コンテンツ部・城間有)
―この本は沖縄での仕事の総括となっている。
「僕は大阪で生まれ、小学校2年生の時に両親の古里である鳥取に疎開させられた。父親は召集されて沖縄戦で亡くなった。糸満の真壁という所だ。沖縄戦では県民が十数万人、日本とアメリカの軍人を含めると20万人以上が命を落とした。何とか戦争が起こらないようにしないといけない、というのが根底にある。医者である僕ができるのは、人々が病気にならない、けがをしない、ということ。沖縄の人に幸せになってほしい、という思いがあった」
「沖縄は琉球王国の歴史や、日本から独立した立場を生かして、幸せになる方法があると思った。沖縄ならできるのではないかという開拓者魂もあった」
―日本精神障害予防研究会を1996年に沖縄で立ち上げ、「予防」の大切さについて啓発してきた。
「病気にならないことが最も大切。1次予防は病気にならないこと、2次予防は早期発見と早期治療、3次予防は障がいを克服するリハビリテーション。これを何とか沖縄県内で確立し、日本、そして世界に進めていきたいと思った。研究活動にとどまらず、県民や国民を巻き込んだムーブメントにする狙いがあった」
「精神医療では予防という言葉が、ちょっとしたタブーみたいなところがあった。まだ発症していない人に、『あなたは危ないですよ』とレッテルを貼ることが受け入れられないという考えがある。それでも、僕は発症予防が一番大事だと考えて活動してきた」
―現在は、沖縄が「病気予防先進地域」になることを目指した県民運動の準備を進めている。
「精神医療に関して、数値的には沖縄の水準は全国平均以上に来ている。これは医療関係者の努力で医師や看護師などの数が増えたため。しかし医療関係者の努力だけでは限界がある。これからは県民が主体的に、自分たちで健康に、幸せになろうという気持ちになってほしいと考えている」
―がんの闘病をされながらの執筆だった。
「ほとんど毎日、患者さんからの励ましの電話を受けている。1人暮らしの私に、道具全部持って行きますから一緒に鍋をつつきましょう、とか、先生との出会いは家族が1人増えたようなものです、とか。私が病気に向き合う前向きな姿勢が伝わっているのか、患者さんから気持ちをサポートしてもらっている」
「患者さんも僕もみんな一緒。みんな一所懸命生きている。僕なんか欠点だらけ、でもいいところもある。欠点とみられる癖はいい方向に働くこともある。長所を見つけて、それを伸ばすことを大事にしている」
―精神医療に関することはハードルが高いようにも見える。
「それが偏見になってしまうと、入院が長期化する原因となる。本当は必要ないのに、サポートする人がいないために退院できない人がいる。日本は世界的に見て精神科の入院期間が断トツで長く、ベッド数が多い。病気を治して退院させるという、病院の本来の役割が果たせていない」
―本を読む人たちにメッセージを。
「沖縄だから、日本を動かすことができる。琉球王国時代に小舟でアジアを行き来した、熱く燃えた大交易時代や、現代では世界中に広がるウチナーンチュネットワークがある。本土に追いつけ追い越せではなく、世界を見て、沖縄から世界に発信する。健康長寿で、戦争もない。そんなことが実現できる地域だということを発信してほしい」
小椋力編著「沖縄の精神医療 『ゼロ』から健康で幸福な明日へ」は各書店(インターネット書店含む)、沖縄タイムス社、沖縄タイムス販売店、沖縄タイムスギャラリーショップhttps://shop.okinawatimes.co.jp/group_top/event/BWで販売している。問い合わせは出版コンテンツ部、電話098(860)3591。
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