辻堂ゆめ 連載小説『ふつうの家族』<第51話>
沖縄タイムス+プラス / 2024年3月5日 7時0分
連載小説『ふつうの家族』
自分の好きな体操で、いつか輝かしい成績を獲とってみたい。表彰状だけでなく、メダルを持ち帰って部屋に飾りたい。その一心で、練習に励み続けた。
その夢は、まだ果たされていない。小学生のときも、中学生のときも、そして高校でも結局実現できなかった。だから、もう少しだけ、挑戦させてほしい。
「でも……寂しいな。みっちーも、体操やめちゃうんだ」
「資格の勉強よりは、体操をやってたいけどねー。でも 親がうるさいしなぁ」
「みっちーは頭いいんだから、勉強もスポーツも両立できそうなのに」
「頭いい? ふざけて言ってる? そう見えるのは周りがヤバいからでしょ。中学のときは全然勉強できないって凹へこんでたのに、ここに来たら体育以外のどの教科も中一レベルからのスタートで、自分なんかが優等生になれて驚いちゃったもんね」
三階へと続く階段を上りながら、みっちーが冗談めかして言った。同じクラスの水泳部の男子らがちょうど脇を通りかかり、「わ、バカにすんじゃねえぞ!」とこちらを振り返りながら舞花まいかたちを抜かしていく。
みっちーのように定期テストでクラス一位や二位を取ったことはないけれど、毎回四位から六位くらいにはつけている舞花にも、その気持ちは理解できた。勉強が得意だなんて、中学までは思ったこともなかった。いつも一緒にいる家族の影響もあったかもしれない。有名大学を出ている両親と、やる気がないように見えるわりにそこそこ要領よく勉強をこなす兄。あの三人には正攻法じゃ到底勝てないから、自分が輝ける場所を別のところに見いだそうとした、というのも、舞花が今の今まで体操を続けてきた理由の一つだったりする。
「舞花が試合に出るときは、見にいくからね。四歳の頃から体操やってたくせして、なんにも花開かなかった私の分まで、夢をまるっと託しちゃおうっと」
「えー、やめてよ、プレッシャーに弱いってさっき言ったばかりなのに……」
連載小説『ふつうの家族』
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