[社説]強制不妊訴訟結審 「人権の砦」たる判断を
沖縄タイムス+プラス / 2024年5月31日 4時0分
最高裁の大法廷で被害者が語った悲しみ、悔しさ、怒りを真摯(しんし)に受け止め、「被害者の尊厳を回復する」判断を求めたい。
旧優生保護法下で不妊手術を強いたのは憲法に違反するとして、男女12人が国に損害賠償を求めた五つの訴訟が結審した。
「人生は戻らない。せめて国は間違いを認めて」「被害者を救う判決を。幸せを持ち帰り、亡くなった妻や親に伝えたい」。原告らは最高裁の弁論で、子どもを生む権利を勝手に奪われた憤りや、人生の中で味わい続けた苦しみを語った。
法廷には手話通訳者が配置され、点字資料が手配され、発言の要約を映し出す大型モニターが設置された。原告の訴えはしっかり伝わったはずだ。
強制不妊手術を巡る一連の訴訟では、2018年以降、39人が全国12の地裁・支部に提訴。各判決では「戦後最大の人権侵害」といわれる旧法の違憲性が指摘された一方、損害賠償請求権が20年で消滅する「除斥期間」が壁となってきた。
今回の5件の訴訟のうち4件の高裁判決は、除斥期間の適用について「著しく正義・公平の理念に反する」として、国に賠償を命じた。
何も知らずに手術された事実を知った後、どんな思いで生きてきたのか。被害者を沈黙させた歴史を振り返れば、当然の判断である。
国の過ちで個人の尊厳を奪われた人々を線引きせずに、全員に謝罪し補償する必要がある。
■ ■
昨年6月に公表された、旧法に基づく強制不妊手術に関する国会の調査報告によると、不妊手術を受けさせられた人は約2万5千人。そのうち約65%が本人の同意なしで行われていた。
19年には、被害者に対し一律320万円を支給する救済法が施行されたが、認定者は約千人にとどまっている。
「不良な子孫の防止」というゆがんだ優生思想は、ハンセン病患者に対する強制断種や堕胎、強制隔離なども含めた誤った国策に結び付き、差別偏見を助長させた。被害を訴えるため名乗り出ようにも世間の目が恐ろしく、多くの当事者は口をふさいでじっと耐えるしかなかった。
旧法下では国が不妊手術を推奨し、被害者の補償についても積極的に動かなかった。
被害者側は補償に関する情報を得る手段が限られ、自ら声を上げる機会も少なかった。国の責任と同時に、問題を放置してきた私たち社会の責任も大きい。
■ ■
原告団の名簿によれば、手術年齢は10代前半から30代までと幅広い。現在は皆60~90代と高齢だ。すでに6人は亡くなり、取り下げたケースもある。残された時間は決して長くはない。
見えなくても、聞こえなくても、体を動かすことが不自由でも、「自分で人生を決めたかった」という訴えは、人間として当然の叫びだ。
最高裁の判決は夏ごろの見通しである。「人権の最後の砦(とりで)」として、全面解決につながる判断を待ちたい。
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