[社説]改正地方自治法 危うい分権逆行の動き
沖縄タイムス+プラス / 2024年6月21日 4時0分
地方分権に逆行し「対等」を原則とする国と地方との関係を揺るがす。
大規模な災害などの非常時に自治体に対する国の指示権を拡大する改正地方自治法が、参院本会議で自民、公明などの賛成多数により可決、成立した。9月下旬にも施行される。
指示権とは、国が必要な事務処理などを指示できる権限で、自治体には対応する法的な義務が生じる。現在も災害対策基本法や感染症法など個別の法律の規定に基づき行使できる。改正法の成立によって今後は「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」であれば、個別法に規定がなくても国が自治体に必要な対策を指示できるようになる。
「重大な事態」というのは極めて漠然とした表現だ。時の政権による恣意(しい)的な判断が生じる恐れがある。国の不当な介入につながりかねない。
衆院や参院での審議を通じて、政府は「想定できない事態が生じた場合に備えるものだ」と繰り返した。
松本剛明総務相は「現時点で想定し得るものはない」と言う。対象となる事例や法改正の根拠となる「立法事実」も明らかにしていない。
政府は、コロナ禍での行政の混乱を踏まえ、国が迅速な対応を取れるようにすると説明した。だが、唐突な一斉休校や「アベノマスク」の全戸配布は、非常時における国の判断の危うさを示す。検証や反省も十分とはいえない。
2000年の地方分権一括法によって国と地方の関係は「上下・主従」から「対等・協力」に改められた。国による指示権の拡大は分権改革の成果を骨抜きにする。
■ ■
中央集権回帰の流れは、自衛隊の「南西シフト」で基地強化が進む沖縄にとって、重大な懸念を抱かせるものだ。
平時から自衛隊などが訓練で利用するのと引き換えに政府が公共インフラを整備する「特定利用空港・港湾」に、今年4月、那覇空港や石垣港が指定された。今後さらに広がる見通しだ。
国の指示権拡大は「台湾有事」を巡る政府の対応に沖縄の自治体を従わせる法的な根拠にもなりかねない。
過去に前例がない、辺野古の新基地建設に伴う代執行が可能になったのは、地方自治法改正によって自治体への法定受託事務に関して国の関与を定めたためだ。これが、沖縄では国の介入を招いた。
今回の改正では、地方公共団体が広範に処理する自治事務にまで、指示権が及ぶことになる。
■ ■
戦後、憲法が地方自治を保障したのは、中央集権体制が結果的に戦争の惨禍を招いたという反省に基づくものだ。
成立した改正地方自治法は、指示権の行使は閣議決定で決まり、事前に自治体から意見を求めることは努力義務にとどまる。事前の国会承認も義務付けていない。
国と自治体が対等な関係の下、意思疎通を図り対処するのが本来の姿だ。指示権強化は、こうした関係を根本から突き崩す。
地方分権と民主主義を後退させる改正である。抜本的な欠陥の是正を求める。
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