[社説]宮森小墜落事故65年 悲劇 過去の話ではない
沖縄タイムス+プラス / 2024年6月30日 4時0分
「我らはおとなしく引き下がらない」
うるま市石川で起きた戦後最大の米軍機墜落事故。被害を受けた宮森小学校の校長だった故仲嶺盛文さんが、備忘録につづった決意だ。
1959年6月30日午前10時40分ごろ、嘉手納基地を離陸した米空軍のF100ジェット戦闘機が住宅地に墜落した。機体は爆発の衝撃で跳ね上がり、家々を引きずって近くの宮森小に激突。民家27棟と校舎3教室が大量のジェット燃料で炎上した。
この事故で児童11人、住民6人(後に後遺症で1人)の18人が犠牲となり、210人の重軽傷者が出た。
メモは被害児童の補償について交渉していた仲嶺校長が、米軍の高圧的な態度に負けじと自身を奮い立たせるため書いたものだ。
米軍統治下の県内では、基地を安定的に運用する目的の前に、県民の命さえも軽んじられた。米軍から提示された補償額はあまりに低く、交渉は難航を極めた。
事故から2年後、仲嶺校長は米軍に、教訓を後世に残すために平和祈念館の建設への協力も要請した。
しかし米国民政府(USCAR)は「米軍の致命的な事故が永久に記憶される」としてこれを拒否したのである。
「(事故当時)私は頭髪も歯も抜け落ちて10年も年を取った。あれ以来、人相も悲しみに包まれている」。後の手記で仲嶺校長は児童を失い癒えぬ悲しみと長きにわたる米軍交渉の厳しさを表現した。
広大な米軍基地を抱える県内では、こうした米軍事故の悲劇と困難な補償問題が今も続いている。
■ ■
ようやく事故の全容解明の兆しが見えたのは2019年のことだ。
NPO法人「石川・宮森630会」が翻訳した米公文書館所蔵の米軍資料によると、米軍が当初「エンジントラブルだった」と不可抗力を主張した事故原因は、「整備不良」という人的ミスによるものだった。
事故機は直前の5月から6月の間、台湾に配備されていた。そこで機体の安全に関する問題が見つかり嘉手納に移されて整備を受けた。
初のテスト飛行の最中に事故は起きた。整備中の注意義務違反が幾重にも重なった末の惨事だったのである。
前年の1958年には、中国と台湾が武力衝突する第2次台湾海峡危機が勃発していた。これに米国は台湾への武力援助を表明。中台の緊張が高まり米軍の活動が活発化する中の事故でもあった。
■ ■
あれから65年。米軍機の事故は今も繰り返し起きている。加えて「台湾有事」を念頭にした急速な防衛力強化の下で、自衛隊でも重大な事故が相次いでいる。
日米の軍事訓練が激しさを増す県内で、米軍機は低空で飛行し、嘉手納でのパラシュート降下訓練は常態化。先島諸島では公道を使った初めての自衛隊訓練も実施された。
「新たな戦前」ともいわれる中、軍事訓練は生活圏をも侵食している。石川・宮森小の惨劇は決して過去のものではない。
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