[社説]公表されない米兵事件 政府説明に不信感募る
沖縄タイムス+プラス / 2024年7月1日 4時0分
米兵による女性への性犯罪が「プライバシー保護」を理由に公表されなくなり、事件発生自体が深い霧に覆われ始めている。
本紙の調べでは、昨年から今年にかけて逮捕または書類送検された性犯罪は少なくとも5件(起訴2件、不起訴3件)あり、いずれも公表されていない。
以前は、県警が逮捕した時点で報道機関に広報するケースが多かった。
公表を控える傾向について県警の担当者は「昔よりも被害者を守ろうとする意識が強くなった」ことを背景に挙げる。
県に通知しなかったことについて林芳正官房長官は、被害者のプライバシーに配慮した、との見解を示した。
だが、政府がそのような見解を持つこと自体、問題だ。
日米は1997年、在日米軍の「事件・事故発生時における通報手続き」に合意している。
昨年12月の米空軍兵の事件と今年5月に起きた海兵隊員の事件を県に通知しなかったことは、明らかに合意に反する。
被害者のプライバシーは最大限に守らなければならないが、それが県に通知しない理由にはならないのである。
そもそも性犯罪の非公表は、犯罪抑止や再発防止の面からマイナスの効果をもたらしかねない。
非公表の方針が定着した場合、政権や米軍にとって不都合な情報が「プライバシー保護」の名の下に隠蔽(いんぺい)され、情報が政治的に操作される危険性も高まる。
■ ■
外務省、防衛省、県警、那覇地検、在日米大使館、在沖米総領事館。今回の事件に対する関係機関の対応はふに落ちないことばかりだ。
事件の通報時期や米軍、米大使館への申し入れ時期について防衛大臣や沖縄防衛局長、外務省沖縄担当大使は「答えを差し控える」の一点張りだ。
県民には、この期に及んで時期を語らない理由がまったく分からない。
米国務省の報道担当者は共同通信の取材に「非常に深刻に受け止めている」と語っている。
ところが肝心のエマニュエル駐日米大使とマシュー・ドルボ在沖米総領事はいまだに事件に対する見解を明らかにせず、謝罪もしていない。これもまた不可解極まりない。
県民の安全に責任を負う県に通知しなかったのはなぜなのか。誰が通知しなくてもいいという判断を下したのか。
■ ■
沖縄戦から今年で79年。この間、性犯罪を含む米軍の事件事故が相次いだ。
戦争が終わっても冷戦の最前線となった沖縄に文字通りの平和は来なかった。
米統治下にあって多くの住民が事件事故によって命を失い、人権を侵害された。
日本政府が施政権を回復した復帰後も、基地優先の政策は変わらず、事件事故はやまない。
米兵による性犯罪が79年にわたって絶え間なく続くというのはあまりにも異常である。問題をうやむやにしてはならない。
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