[社説]「鉄の暴風」を読む 今も変わらぬ住民犠牲
沖縄タイムス+プラス / 2024年7月11日 4時0分
戦場の様相を住民の視点で生々しく記録した「沖縄戦記 鉄の暴風」(沖縄タイムス社編)が、筑摩書房から、ちくま学芸文庫として出版された。
沖縄人自身の手によって沖縄戦記が書かれ出版されたのは、1950年に発行されたこの本が最初である。
取材から印刷発行に至るまで、多くの制約に直面し、困難の連続だった。
軍用車両をヒッチハイクしたり、軍用トラックを改造した公営バスを利用したり、当時の劣悪な交通事情が取材にも影響した。
「現地人による沖縄戦記」というサブタイトルのついた初版本は、軍政府の許可を得るため全文を翻訳して提出した。
印刷機器を焼失したことから朝日新聞社に印刷・出版をお願いし、ようやく刊行にこぎつけた。
「この戦争において、いかに苦しんだか、また、戦争がもたらしたものは、何であったかを、ありのままに、うったえたいのである」
前書きにはそう記されている。反響は大きかった。
米軍がつくった日本語のラジオ放送局「琉球の声」(AKAR)は、50年10月1日の午後7時45分から、毎晩決まった時間に「鉄の暴風」の朗読番組を流した。
担当したのは川平朝清さん。「ラジオの前に正座して聞いている」との声が寄せられるなど、大きな関心を集めた。
「鉄の暴風」は、戦後復興期の出版・放送史を照らし出す貴重な素材でもある。
■ ■
今、この時期に「鉄の暴風」が本土の大手出版社から、手に取りやすい文庫本の形で出版される意義は、どこにあるだろうか。
「住民が戦争に巻き込まれると、どんなことが起きるのか。今だからこそ、多くの人に知ってもらいたい」と、編集を担当した藤岡泰介さんはインタビューに答えている(AERA7月1日号)。
同書の初版が刊行された翌年の51年、ひめゆり学徒隊の戦場体験を記録した仲宗根政善著「沖縄の悲劇-姫百合の塔をめぐる人々の手記」が刊行された。
「鉄の暴風」と「沖縄の悲劇」には、住民による体験記というだけでなく、他にも共通点がある。
版を重ねるたびに、前書きを増補したり、一部書き改めたりして、その時代の危険な動きに警鐘を鳴らしていることだ。
そこに脈打っているのは、二度と戦争を起こしてはならないという強い思いである。
■ ■
改めて注目したいのは「鉄の暴風」という本のタイトルだ。
米軍は天文学的と形容されるおびただしい量の砲弾を容赦なく撃ち込んだ。
執拗(しつよう)な砲爆撃によって地形そのものが一変し、多くの非戦闘員が砲弾の犠牲になった。
「鉄の暴風」とは、その状況を住民側から見たときの表現なのである。
ウクライナやガザの現実は決してよそ事ではない。その地の住民も今、「鉄の暴風」にさらされているのだ。
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