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[社説]人間国宝に新垣さん 幻の上布復活の道開く

沖縄タイムス+プラス / 2024年7月20日 4時0分

 沖縄の伝統文化の価値がまた一つ、公式に認められた。

 国の文化審議会が「八重山上布」を重要無形文化財に指定し、新垣幸子さん(78)=石垣市=を同保持者(人間国宝)に認定するよう盛山正仁文部科学相に答申した。

 八重山上布は、イラクサ科の苧麻(ちょま)を原料にした、八重山地域の伝統的な麻織物である。すがすがしい白地に藍や茶褐色の絣(かすり)模様が施された、気品に満ちたデザインが特徴だ。

 琉球王府時代、厳しい監督下で品質管理が行われ、技術的な洗練と発展を遂げた。

 背景にあったのが、1637年から宮古・八重山諸島の15~50歳に課された人頭税である。女性は米の代わりに「貢納布」を納めることが求められた。皮肉にも、過酷な搾取が技術発展につながった。八重山経済を支える産業にまで育ったが、昭和に入って衰退した。

 新垣さんは1973年に石垣市内に工房を開き、八重山上布の制作を続ける傍ら、古文書などを基に調査・研究を重ね、途絶えかけていた「括染(くくりぞめ)」の技法を、糸の代わりにビニールを使うなど独自に工夫を加え復活させた。

 八重山上布の復興・伝承の他、独自の感性を生かした斬新な絣構成の作品を発表したり、後進の育成に尽力していることが評価された。

 沖縄県の人間国宝は18人目、工芸技術部門では7人目になる。

 指定・認定を機に注目され、さらに発展することを期待したい。

■    ■

 八重山上布は、八重山諸島の豊かな自然が育んだ織物である。糸も染料も主に石垣島で育つ植物を使う。

 新垣さんは「八重山の自然そのものの素材で八重山の文化や生活、自然を表現している」と語る。さらに「八重山の風土、花の香りまで表現したい」と向上心は尽きることがない。

 一方、制作の現場は過酷だ。糸が乾燥して切れてしまうため、猛暑でも、工房ではエアコンが使えない。作業が夜中まで続くこともある。

 括染は計算が命で、図案を描いて、電卓をたたきながら模様がしっかり合わさるように織っていくなど、緻密さが求められる。

 新垣さんはこれまで「現代の名工」に選ばれ、伝統文化ポーラ賞や沖縄タイムス芸術選賞を受賞しているが、八重山上布の重文指定、人間国宝認定は初である。

 これを機に、作り手の努力の結晶である一反の価値を改めて認識したい。

■    ■

 八重山上布は、原料の刈り入れから糸作り、デザイン、染色や織りまで気の遠くなるような多くの工程を経て完成する。熟達するまでには相当な年月を要する。担い手をどう育てていくかは大きな課題だ。

 新垣さんは後進の指導・育成に取り組んできたが、一人の力には限界がある。

 独り立ちできるまでの経済支援など担い手が制作に打ち込める環境づくりが必要だ。沖縄の貴重な伝統文化を絶やさないため、県や国には積極的な方策を講じてほしい。

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