[社説]五輪SNS中傷 選手守る対策の充実を
沖縄タイムス+プラス / 2024年8月8日 4時0分
開催中のパリ五輪で選手に対するSNSでの誹謗(ひぼう)中傷が問題化している。公にさらされるネット上での不当な非難は個人の尊厳を傷つけるだけでなく、選手のコンディションにも影響を与えかねない。
国際オリンピック委員会(IOC)など関係団体は、誹謗中傷から選手らを守る抜本的な仕組み作りを急ぐべきだ。
5日のバレーボール男子準々決勝。日本はイタリアに競り負け敗退した。試合が終わると、選手を名指しして「サーブミスとかゴミ」「もう引退でお願いします」などの投稿が次々と寄せられた。
競技の結果や選手の態度を非難する投稿は、五輪開幕直後から相次いでいる。
先月下旬には、陸上競歩の柳井綾音選手が混合団体に専念するため個人種目を辞退すると発表したことに対し、「身勝手だ」など中傷のメッセージが寄せられた。
辞退は体調などを検討した上でのアスリートとしての決断であろう。
柔道では、敗退で号泣するなど女子52キロ級に出場した阿部詩選手の試合後の振る舞いにさまざまな意見が飛び交い、阿部選手が自身のSNSで「情けない姿を見せてしまい申し訳ありませんでした」とつづる事態ともなった。
若い選手の、勝利に懸ける意気込みの強さから出た感情の発露だったのではないか。謝罪に追い込まれた選手の気持ちを考えると胸が痛む。
■ ■
こうした事態を受け日本選手団は「行き過ぎた内容には、警察への通報や法的措置も検討する」との声明を出した。
SNSでの誹謗中傷は侮辱罪や名誉毀損(そきん)罪に当たる可能性がある。厳正な対処は重要だ。
ただ、受けた側の不安や恐怖を考えると、悪質な投稿を見た後の選手の心のケアも必要となる。
日本オリンピック委員会(JOC)は、IOCが設けた「セーフガーディングオフィサー(SGO)」も活用する。
暴力やハラスメント、SNSなどのリスクから選手を守るため、IOCの講座を受けて資格を得た専門人材で、初めて選手団に同行している。
専門家によるケアはもちろんのこと、被害が日常化していることを考えれば、一人一人の選手に寄り添う形で支援する人材を追加してほしい。
■ ■
誹謗中傷する投稿そのものを減らす取り組みも必要だ。柔道やバスケットボールの試合では、微妙な判定を巡り審判への誹謗中傷も相次いだ。
IOCは今回、人工知能(AI)を活用したSNSの監視態勢を敷く。
法律などに反する投稿を自動的に削除する仕組みだが、中傷が相次ぐ状況を見れば不十分と言わざるを得ない。
ネット上の誹謗中傷は今や世界共通の社会問題だ。SNSを利用する全ての人が、発信は「言葉の暴力」となり得ることを自覚しなければならない。
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