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病気で仕事を休んだ後、復職した話。42歳グルメブロガー、がんになる。毎日ビール.jp ユッキー(16)

沖縄タイムス+プラス / 2024年9月5日 7時0分

 

 先日、仕事が忙しすぎて、夕食時に食卓を囲めない日がありました。適度に忙しいのは良いけれど、超過気味な状態が続きました。この状態が継続しないよう調整力を高めねば…と思っている今日このごろです。ということで今回は、休職から職場復帰をした時のことを思い出してみました。今回も最後までお付き合いくださいませ。

胃がないのに胃が痛い

 昨年12月に復職したわたしは勤務時間を少しずつ延ばし、この7月からフルタイム勤務となった。そして、その1カ月後には「胃が痛い」と感じるようになった。ご存じの方も多いと思うが、改めて書いておく。わたしには胃がない。

 四肢切断した患者の多くが、手足が残っている感覚を覚えたり、痛みやしびれを感じる「幻肢痛」を経験するという。胃全摘したわたしが胃が痛いというのも、もしかすると似た経験なのかもしれない。よくわからないので、次回の外来時に主治医に報告するつもりだ。

 20代からずっと胃が痛かった。社会に馴染(なじ)めないわたしはいろいろとストレスを抱えがちで、いつも似たような場所に胃潰瘍があったのだろう。しょっちゅう左側の横隔膜周辺にじわじわと鈍痛を感じていた。スキルス胃がんが見つかった時の胃カメラでも、同じ場所に胃潰瘍が確認されている。

 復職し、時短勤務を経てフルタイムに戻り、しばらくたった頃。あのお馴染みの鈍痛が復活した。胃がないのになぜなのか。ついでに大腸もチクチクと過敏になった気がする。原因は特定できていたので対処し、現在は胃痛も大腸過敏もなく過ごせている。それにしても仕事のストレスで胃痛的な症状を感じるとは。人間の体は不思議なものだ。

すぐにフルタイム勤務とはならなかった

 休職制度から復職したわたしに対し、勤務先の人事担当者はメンタルを病まないよう配慮してくれたと思う。

 厚生労働省は、がん患者の雇用を後押しするガイドラインを通じて、企業に治療と仕事を両立する体制を求めている。主治医からも「どんどん働いて大丈夫」と言われていたし、自分の体力を考えても問題なくフルタイムで現場復帰できる自信があった。

 にもかかわらず、人事や産業医から止められた。体の次に心を病まないようにという配慮からだ。病院で受ける血液検査・内視鏡検査・CT検査の結果を踏まえつつ、しばらく「まずは4時間」「次は5時間」と時短勤務で働いた。

 最後は人事と産業医に「収入に関わるので、フルタイムに戻してくれ」と懇願し、押し切った。「美容代や食費を削るなどして、もう少し様子を見た方が…」とアドバイスを受けたが、それには反発した。身だしなみを整えることで日常のモチベーションが上がる。生活費を抑えるにも限界があるし、推し活を継続しないとわたしは生きる糧を失う。全てかなえるためには、稼ぐ方法を模索するのがよっぽど健全だ。個人差があるだろう。わたしの場合はそれで正解だった。

 繰り返しになるが、人事担当も産業医もわたしの様子を見ながら配慮をしてくれた。ただ、わたしのやりたいことを維持するには、時短勤務では収入が足りなかった。だから一刻も早くフルタイムに戻りたかった。完全に個人の希望であると、ここに記述しておく。

お金の心配がつきまとう

 わが家には小学生男子がいる。小学校の雑費や給食費、学童、習い事など、毎月の固定費をざっと計算した。4万円だった。え、びっくりー! 成長期で食べ盛りの彼は、焼肉やラーメンなど1人前をペロリと平らげる。食費は青天井だ。四次元ポケット級の胃袋と聞く中高生になるのが、いまから怖い。

 胃全摘後、自分の食費が高くなった。ダンピングを避けるため、米・パン・麺など炭水化物メインを控え、肉・魚・野菜をメインにしている。これだとどうしても1食の単価が高くなる。

 ダンピング症状 胃を切除したことにより、食べ物が消化不十分なまま腸へ落ちてしまうことで起きる腹痛や下痢、めまい、頭痛、手指の震えなどの不快な症状。食事中や直後に現れる「早期」と、食後数時間で現れる「後期」がある。

 老犬の闘病や介護にもお金が必要だ。通院代やおむつ代、療法食、保険代など、計算したところ毎月4万円近くかかっていた。わ〜、すっご〜い! 薄々気付いていたけれど、計算しなければ良かった!

 生きるだけでお金がかかる。生活するためにお金を工面しなければならない。病気休業中は健康保険組合の傷病手当金に助けられたし、がん保険に加入していたので、抗がん剤治療を受けると給付される保険金にも助けられた。

 しかし、復職すると傷病手当金はもらえない。時短勤務で手取りが半分近くに減っても、その差分の補塡(ほてん)はない。復職するより傷病手当金をもらっていた方が、使えるお金が多かった。それにがん治療が終わったことで、がん保険の給付金もなくなった。こうなるとわかっていたのであらかじめ準備はしていたものの、時短勤務が想定より長引き、貯蓄を崩すことになった。

 お金はないよりあった方がいい。お金があれば心に余裕が生まれる。わたしの場合、自転車操業が続くことでどんどん視野が狭まり、一時的にIQが低くなった。切羽詰まった状況でロクな判断なんてできない。だからいち早くフルタイム勤務に戻り、お金の心配にオサラバして、心に余裕を持ちたかった。

お金以外に困ったこと

 お金以外の面で、復職後に困ったのは、「食事」だ。

 胃を切った患者ごとに事情は異なると思うが、わたしの場合、食べ物や食事の取り方によって早期・後期ダンピングが生じる。体調にも左右されるし、100%のコントロールは難しい。ダンピング症状が出たら60〜120分ほど横になるのがベストで、場合によってはトイレにこもることもある。在宅勤務だと横になれるけれど、職場にはそんな休憩スペースはない。会議室も埋まりがちだし、デスクに突っ伏すしかない。

 なるべくダンピングを避けようと、食べ物を模索した。バナナ、ゆで卵、サラダチキン、高タンパクヨーグルト、高タンパク飲料、チョコレートあたりはダンピングが起きにくかった。1日5回の分食のうち、職場では朝おやつ・ランチ・昼おやつの3回が必要となる。試しに、わたしのおなかを満たす量をコンビニでそろえてみたところ、3回分で2000円オーバーだった。時短勤務で手取りが少ない自分には痛手だった。

 職場にお弁当を持ち込んでみた。豆腐、バナナ、ゆで卵、ゆで鶏などを持参し、デスクで頬張る。雑炊の日もあった。涼しい時期はまだ良かった。夏場になるとお弁当の鮮度が気になってきた。胃全摘者は胃酸による殺菌ができない。だから食中毒などを起こしやすくなる。現代医療の力でつないでもらった命だ、食中毒で死にたくない。

 外食はどうか。幸い、職場周辺にはたくさんの飲食店がある。会社員の多いエリアだからパッと提供され、パッと食べられる食事処が多い。ラーメン、沖縄そば、パスタ、定食屋さん、それに路上で売られるお弁当も。しかし、思い出してほしい。わたしの体は炭水化物中心だとダンピングが起こり、具合悪くなりがちだ。さらにアンコントロールな睡魔に襲われる可能性もある。怠慢じゃないの。体の仕組み上、気絶レベルの睡魔が起こったりするわけなの。

 一通り試したが、コンビニ、弁当、外食、どれもしっくりこない。完全に詰んだ。

 人事やマネージャー、産業医にも相談したが、明確な回答は得られなかった。そりゃあそうだ。誰も胃全摘経験がないのだから、役立つアドバイスなんて出やしない。それでつい「出勤した日は、何も食べない方がマシでは」と漏らすと、産業医に「食事を抜いてはいけません」とピシャリ叱られた。

 孤独な模索がしばらく続いたが、ついに最適解を見つけた。それは、カロリーメイトとプロテインバーだった。炭水化物の含有量が多めなのに、おなかを下すことも強烈な眠気に襲われることもなく、わたしの体に合う。これならどこでも手に入るし、暑さで傷むこともなさそうだし、驚くほどの高単価でもない。世紀の大発見にホッとした。

結局、頼れるのは自分だけ

 お財布事情、日々の業務やストレス、食事。経過観察に入った今も、真の「理解」なんて誰にも無理だと思っている。そりゃあそうだ、胃なしはレアキャラだし、胃がない生活なんて想像できないし、個人差も大きいのに「わかってくれ」という方が無理なのだ。だから、がんサバイバーや胃全摘者との会話は率直に深い話ができて、共感し合える。この点はどうしようもない。仕方がないのだ。

 人事や産業医は仕事上、さまざまな休職者と会話しているはずだ。だから有益な情報は持っていると思うが、それを引き出せなかったコミュニケーション能力の低いわたしに課題があったのかもしれない。もしくは、人事や産業医との面談は限られた時間内でしか行えず、双方ともに必要以上の介入は難しいのかもしれない。

 何度も面談した産業医には、数回「大病を経験しているのに、いつも明るく元気そう」と言われた。それは本音に聞こえたし、わたしも常にそうありたいと思っている。自分の体のアップダウンをうまく捉え、対処しながら生きていくしかない。結局のところ、頼れるものは自分しかいない。周りがなんと言おうと人生の荒波を乗り越えていくのは自分だし、好きな方向に舵(かじ)を取った責任を負うのも自分なのだ。

 がんサバイバーは悩むことも多いし、それでいて答えが見つからないことも多い。その中でどう生き、残りの時間をどう楽しむか。職場復帰やフルタイム勤務をし、改めてサバイブしていくことを考える晩夏でございます。

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