日本を“音楽の輸出国”へ NiziUの楽曲も担当した音楽制作会社 社長・稲福さんの描くビジョン
沖縄タイムス+プラス / 2024年9月6日 7時0分
那覇市出身の音楽家で、音楽制作会社「福プロダクション」(東京都)の社長を務める稲福高廣さん。アーティストへの提供楽曲をはじめ、映画や舞台の劇伴音楽、新人アーティストの育成発掘などを手がけており、10月から放送開始のアニメ「妖怪学校の先生はじめました!」の音楽も担当した。稲福さんの他に国内に10人、海外に12人のクリエイターを抱える福プロダクション。常に海外市場を意識し、日本を“音楽の輸出国”にする明確なビジョンがある。
大手事務所とタッグ 海外市場への強み
海外のクリエイターは、韓国、シンガポール、フランス、スペイン、イギリス、オーストラリア、アメリカにそれぞれ居住しており、国内のクリエイターも語学に堪能で国際感覚に明るいメンバーがそろう。福プロダクションとしてはアイドルグループ「NiziU」の韓国デビュー作の収録曲「Lucky Star」を担当するなど、海外のプロジェクトも積極的に行う。
特に今年は音楽制作のみならず、新人の発掘・育成にも力を入れており、海外での展開を視野に入れているという。ソニーミュージックグループやアミューズといった大手音楽事務所と共に楽曲を制作しており、大手事務所が抱く海外進出の狙いと、福プロダクションの方向性や強みが合致した。稲福さんは「日本のアーティストを国内外に出していくサポートをしています。楽しいんですよ」とうれしそうだ。
海外に強いつながりがあることで、各国の音楽事情やトレンドなどの情報を現地で敏感に察知して国内の音楽事務所に紹介できる。「結局、どこまでいっても人が人をつないでいます」とにっこり笑う稲福さんは、人を助け、助けられての半生を歩んできた。
アメリカと中国のショービジネスに衝撃
首里高校から進学した東京音楽大学では「いろんな人にかわいがってもらった」という稲福さん。大学関係者や音楽関係者に限らず幅広い分野の人々に世話になった。そんな中で大きな衝撃を受けたのが、海外のショービジネスを直接体感させてもらったことだ。「特にニューヨークや北京、上海はすごかったですね。アメリカと中国での経験は大きかったです」
今まで見てきたものとは質そのものが違ったという。「ニューヨークのブロードウェイのミュージカルからは『この作品で一生食い続けるんだ』という強い意志を感じられたんですよね。一つの演目に命を懸けているというか」
その市場で動くお金の額も全く違った。スポンサーや投資家が出す金額が桁違いだった。「アメリカでは、劇団そのものに年間1億円払い続けますって人が数万人もいます。お金を出すだけではなくてその人たちによる批評記事が新聞にも載ります。だからこそプライドを持ってキャストやスタッフもみんな必死でやるんですよ。激戦です」
世界の音のトレンドを意識
そんな現実を見てきた稲福さん。日本の音楽やエンタメが日の目を見るためには、やはり海外市場を意識することが大事だと常々感じている。
「アジアのどの国でも、基本的には『世界のトップランキングを聴いて、自国の音楽を作る』というスタンスでやっています」と稲福さん。海外の多くの音楽家は、音のトレンドをインターナショナルなものに合わせていきながら、世界的なマーケットを意識しているという。「やっぱり国内人口が1億人を切ると、国内需要だけではやっていけなくなると言われていますし、稼げる限界が見えています」と危惧する。
その上で「海外のアーティストを日本に呼ぶ動きはよく見られますが、僕は海外で通用するアーティストをつくりたいという気持ちが強いです」と決意を話す。いま力を入れているアーティストとして挙げられるのは、エイベックスとアミューズが共同で育てている4人組ガールズグループ「@onefive(ワンファイブ)」だ。2000人規模の会場を埋めるほどの人気グループに成長している。海外市場を意識して、楽曲の半分ほどは福プロダクション所属のクリエイターが制作しているといい、音楽の“輸出”に精を出す。
育てたい「日本のGDPを増やせるアーティスト」
人材育成の一環として、福プロダクションはアカデミーを始動させた。作編曲家の育成・新人ボーカリストのレッスンのみならず、音楽関係者との接点をつくったり、オーディションへの道筋をつくったりと総合的にサポートするものだ。
稲福さんが世に出したいアーティスト像は、驚くほど明快だ。「日本のGDPを増やせるようなアーティスト」。近年のK-POPの大躍進は韓国のエンタメ産業が盛り上がっただけでなく、観光関連や語学関連などさまざまな分野での経済効果を生んでいる。「海外の人がお金を落としたくなるような魅力あるクリエイター・アーティストを育てたいです」と野心に燃えている。
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