[社説]警察の情報収集で判決 市民運動「敵視」を断罪
沖縄タイムス+プラス / 2024年9月19日 4時0分
警察による特定の個人に対する情報収集を違法と認め、抹消を命じた画期的な判決だ。
岐阜県で計画された風力発電事業を巡り、反対する地域住民の個人情報を地元の警察署が収集し、事業者に提供していた問題を巡る裁判。住民4人が岐阜県に損害賠償などを求めた訴訟の名古屋高裁判決は、情報収集が警察官の裁量権を逸脱していたことを認め、情報の一部抹消も命じた。
被告の岐阜県側は、住民らの活動が無秩序な運動に発展する可能性があったとして、秩序維持のため、情報収集が必要だったと主張していた。
一審の岐阜地裁判決は、事業者への情報提供は違法と認めた一方で、情報収集については、警察の責務に照らして必要性があったとして住民側の訴えを退けていた。
控訴審判決が画期的だったのは、警察による情報収集が「一切許されないとまではいえない」としつつも「市民運動やその萌芽(ほうが)の段階にあるものを際限なく危険視して、情報収集し、監視を続けることが、表現の自由などを保障する憲法21条1項に反することは明らか」と一蹴した点にある。
世の中で起きている問題に反対の立場で意見を表明したり、周囲に賛同を求めたりするだけで、警察から監視され、個人情報を収集されることなど許されてはならない。
民主主義の根幹たる言論を萎縮させることは明らかで、控訴審が一審判決を覆した意義は大きい。
■ ■
併せて名古屋高裁は、警察による情報収集活動が、どのような場合にどのような情報が収集、保有の対象になるのか基準がないことを指摘。捜査機関による情報収集や利用の要件を明確化した法律上の規定がないことを問題提起した。
警察庁や公安委員会の監督は期待できず、「警察の自浄作用は全く機能していない」と厳しく批判し、監視・監督する第三者機関の必要性を説いた。
犯罪捜査など、必要な情報収集がある一方で、表現の自由や内心の自由などに関わる情報に、収集や保管の制限がない現状に警鐘を鳴らした。
違法な情報の取り扱いが明らかになった今、このまま運用が警察の裁量に委ねられれば、国民の疑問や不信は払拭できない。
公安委員会の在り方を見直すなど、監視・監督の仕組み作りが必要だ。
■ ■
県内では名護市辺野古の新基地建設を巡る市民運動の現場で、警察によるビデオカメラを使った撮影が当然のごとく行われている。市民を撮影し、映像をどう扱うのか、現状は警察の裁量次第ということになる。
市民の自由な表現活動は憲法が保障する国民に当然の権利で、名古屋高裁判決にある通り、市民運動によって広く問題への関心が高まることも期待できる。
警察法は警察活動の「不偏不党、公平中正」をうたう。警察が市民の表現活動に敵対することなどあってはならないことを常に肝に銘じるべきである。
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