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[社説]袴田さん再審無罪 検察は控訴を断念せよ

沖縄タイムス+プラス / 2024年9月27日 4時0分

 誤った捜査により、人生を奪われ、心の均衡をも失った。時間は取り戻せないが、検察は控訴を断念し、無罪を確定させるべきだ。

 静岡県で1966年に一家4人を殺害したとして強盗殺人罪などで死刑が確定した袴田巌さんに、静岡地裁は再審無罪の判決を言い渡した。

 確定判決で犯行時の着衣とされた「5点の衣類」に残っていた血痕を巡って「捜査機関によって加工された」として捏造(ねつぞう)と断じた。

 みそ製造会社専務宅で夫婦と子ども2人の命が奪われた事件だ。発生から1年2カ月後に隣接する製造工場のタンク内からみそに漬かった状態で見つかったシャツやズボンなど5点の衣類に付着した血痕の赤みが、再審請求審と再審公判の主な争点になっていた。

 事件後の初公判で無罪を訴えてから58年、死刑確定後の81年の第1次再審請求から40年以上が過ぎた。袴田さんは既に88歳。48年にわたる収容による拘束と死刑への恐怖から心身をむしばまれ、拘禁症状が残る。意思疎通は困難な状況だ。支える姉ひで子さんも91歳の高齢となっている。

 袴田さんの再審公判で、検察は、改めて死刑を求刑していた。

 警察、検察は判決を真摯(しんし)に受け止めて、違法な捜査がなぜ実行されたのか検証しなければならない。

■    ■

 判決は、袴田さんの自白も「非人道的な取り調べで獲得された」と批判した。

 殴る、蹴る、トイレにも行かせず取調室で用を足させる。袴田さんは長時間の取り調べと誘導で、調書に署名させられたという。

 静岡地裁は調書に関して「肉体的・精神的苦痛を与えて供述を強制する非人道的な取り調べで作成された。実質的な捏造」と踏み込んだ。

 死刑判決を言い渡した68年の一審静岡地裁判決でも違法捜査が認定されていた。自白調書45通のうち44通が不採用。担当裁判官が後に「袴田さんは無罪だと思った」と証言している。 しかし、高裁も最高裁も死刑判決を追認した。司法の責任もまた重大だ。

 袴田さんに代わり出廷した姉ひで子さんに、国井恒志裁判長は「審理に時間がかかったことは本当に申し訳ない」と謝罪した。

 せめて、残りの人生をきょうだい二人で穏やかに過ごしてほしい、と願わずにはいられない。

■    ■

 刑事訴訟法に、再審手続きに関する規定は少ない。

 袴田さんの第1次再審請求で検察は、証拠の開示に応じなかった。2008年の第2次請求で裁判所の勧告を受け開示した写真に、血痕が付いた衣類があり、再審への道が開かれた。他の再審事件でも、証拠開示が無罪へのきっかけとなる例は多い。

 検察に全ての証拠の開示を義務付け、抗告を制限することも審理の公正と迅速化につながる。

 冤罪(えんざい)は国家による最大の人権侵害である。これ以上被害者を出さないためにも、再審制度の抜本的見直しが必要だ。

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