[社説]袴田さん無罪確定 冤罪生まぬ司法改革を
沖縄タイムス+プラス / 2024年10月11日 4時0分
1966年の静岡県一家4人殺害事件で死刑判決を受けた袴田巌さん(88)の無罪判決が確定した。
冤罪(えんざい)は国家による最大の人権侵害である。警察、検察、裁判所それぞれが猛省し二度と繰り返さないよう徹底的に検証しなければならない。それが、袴田さんに対する最低限の責務だろう。
姉ひで子さん(91)に支えられながら裁判のやり直しに40年余りを費やした。あまりにも、残酷で、長い時間が過ぎた。一人の人生を狂わせ、家族へかけた負担は想像を絶する。
一貫して否認・無罪を主張していた袴田さんの心身がむしばまれたのは、最高裁で死刑が確定してからだ。隣の独房の死刑囚が連れ出されたまま、戻らない。死と直面する毎日が続き、拘禁症状で意思疎通は困難となった。
再審判決は、自白調書について、検察と警察が連携し連日の長時間に及ぶ「非人道的な取り調べ」で獲得した「実質的な捏造(ねつぞう)」と厳しく批判。犯行時の着衣とされた「5点の衣類」、実家で押収されたズボンの端切れとともに「三つの捏造」と指摘した。
だが、畝本直美検事総長は、控訴断念の談話で、証拠の捏造を認定された点に「強い不満を抱かざるを得ない」と表明。袴田さんが「相当な長期間、法的地位が不安定な状況に置かれてきた」ことを考慮したことを強調、人道的見地からの判断であることをにじませた。組織の体面にこだわったままでは検証は難しい。 まずは直接、謝罪することが信頼回復への一歩だ。
■ ■
袴田さんに起きたことは、決して過去の出来事でも特殊な事例でもない。冤罪事件や捜査機関による不適切な取り調べは、現在も後を絶たないからだ。
再審制度の抜本的な見直しが必要だ。
刑事訴訟法は再審の規定がほとんどなく、裁判所の裁量に頼る「再審格差」が深刻化している。明確な規定を設ける必要がある。検察に全ての証拠開示を義務付けたり、抗告を禁止したりする法改正が急務だ。捜査段階での録音や録画拡大といった取り調べの可視化など課題は多い。
超党派の国会議員連盟が、再審手続きの根拠規定の明文化が必要とする要望書を法相に提出した。国民の声も高まっている。
袴田さんの冤罪の教訓を生かすためにも、再審規定の拡充、法改正は一刻も早く進めるべきだ。
■ ■
責任は司法にとどまらない。メディアは袴田さんの逮捕や「自白」を巡り、捜査機関の情報に依拠し、犯人視する報道をしていた。
報道各社は80年代から呼び捨てをやめ「容疑者」に変更。裁判員裁判が始まって以降、容疑者や被告の言い分を伝える「対等報道」に努めている。
被疑者や被告人について、裁判で有罪が確定するまでは推定無罪の原則を徹底する中で、司法権力の監視と事実を報道機関として検証する、不断の取り組みが求められていることを肝に銘じたい。
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