[社説]日米共同統合演習 緊張高めない外交こそ
沖縄タイムス+プラス / 2024年10月25日 4時0分
南西諸島を中心に、自衛隊と米軍4万5千人が参加する日米最大規模の共同統合演習「キーン・ソード25」が始まった。米軍基地、自衛隊基地だけでなく、民間の空港や港湾、道路も使用する。県内では那覇、新石垣、与那国の3空港と中城、那覇、平良、石垣、久部良の5港湾が使われる。
安全性への懸念から県が自粛を求める中、日米のオスプレイが初めて、与那国島に飛来。また、県の要請を無視する形で米軍は、新石垣島空港を使用し、ウクライナでも使われている高機動ロケット砲「ハイマース」を輸送した。米軍が訓練のため同空港を使用するのも石垣島で緊急展開部隊が活動するのも初めてだ。
米海兵隊の小規模部隊を島々に臨時配備する「遠征前方基地作戦」(EABO)に沿った戦略だ。
演習の大きな特徴は、沖縄本島、宮古島、石垣島に自衛隊の西部、北部、東北方面から地対艦ミサイル部隊が動員されたことだ。
嘉手納弾薬庫と自衛隊那覇基地では「滑走路修復訓練」が実施される。那覇空港も攻撃される事態を想定しているとみられる。離島の重症者をオスプレイで自衛隊那覇病院や本土の医療拠点に搬送したり、日米で「CBRN」(化学剤、生物剤、放射線、核)に対処したりする訓練も実施する。
有事に備えるというが、沖縄の戦場化や住民の犠牲を前提にした訓練である。沖縄戦のつらい記憶を思い起こす人も少なくないだろう。
■ ■
在日米軍専用施設の7割が集中する沖縄では、すでに空や海の広大な領域が米軍に提供され、自衛隊施設も数多く存在する。民間インフラ使用は新たな負担で反発も大きい。現に陸自与那国駐屯地周辺では交通規制が敷かれ、島の巡回バスも路線を変更するなど生活への影響が広がっている。
今回の日米演習を前に、防衛省制服組トップの吉田圭秀統合幕僚長は「力による現状変更を決して認めない強い意志を示す」と強調。中国軍による領空侵犯や領海侵入事案に触れ、南西諸島防衛の必要性を訴えた。
中国軍は今月、台湾周辺で大規模な軍事演習を実施。海自艦艇は先月、初めて豪艦艇などと共に台湾海峡を通過するなど互いに強くけん制し合っている。
国境付近での大規模な演習は周辺国を刺激し、緊張を高めかねない。
■ ■
「台湾有事」が日本に波及した場合、巻き込まれるのは、南西諸島だけではない。日本全土が中国のミサイル射程圏内にあるからだ。
敵基地攻撃能力保有を前提に「抑止力」を過信した防衛力増強に頼れば、相手も軍拡に走る安全保障のジレンマに陥り、地域の緊張を高める。
県内外19の市民団体は、演習の中止を求める声明を発表。「沖縄全体が戦場になる。県民は生き残れるでしょうか」と訴えた。
対話のチャンネルを確保し、信頼醸成のための外交に、政治はかじを切る必要がある。
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