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「沖縄を戦場にしない」が原点 総選挙後に伝承すべきものとは[金平茂紀のワジワジー通信 2024]

沖縄タイムス+プラス / 2024年11月1日 14時12分

陸上自衛隊与那国駐屯地から離陸を試みる陸自V22オスプレイ。機体が左右に大きく揺れ、左翼が地面と接触した=27日、沖縄県・与那国島(基地いらないチーム石垣提供)

[金平茂紀のワジワジー通信 2024](22)

 総選挙が終わった。与党大敗、過半数割れ。立憲、国民民主が大躍進。「裏金」に対する有権者の怒りが自民・公明の「与党に鉄槌(てっつい)を下した」(玉城デニー知事)。国政は一気に流動化し、第2次安倍政権以来、当たり前のようにずうっと続いてきた自民「一強政治」は終わることになった。さあ、面白くなったぞ、これで希望が持てるぞ、ワジワジーの素は解消されるぞ、と皆さんはお考えですか?

 沖縄県だけに限ってみると、小選挙区では玉城知事を支える「オール沖縄」と、自民支持陣営(公明も含む)は2勝2敗という結果だった。けれども比例復活で議員になった候補4人、比例単独の1人を加えると、計9人の衆議院議員が選出された。4人が自民(いずれも前職)、あとは、公明、共産、社民、立民、れいわが各1人ずつ。自公に鉄ついが下されたとはとても言い難いのではないか。

 東京をベースに仕事をしている立場から着目したのは、沖縄1区の共産党・赤嶺政賢氏(76)と、沖縄2区の社民党・新垣邦男氏(68)がともに選挙区で選ばれたことだ。というのも、共産党と社民党にとっては、小選挙区で所属候補が選出された全国で唯一の場所がこの沖縄だからだ。両党にとってはまさに「死守した」と言っても過言ではない。立憲、国民民主が躍進した国政レベル全体の動きとの間にあるこの“ずれ”自体に実は意味があると思うのだ。この“ずれ”とは、端的に言えば、社民や共産が、立憲や国民民主とは立場を異にしている政策があるということだ。それは沖縄をめぐる諸問題で、究極的には日米安保条約廃棄を是とするかどうかという分岐点と重なる。本土ではほとんど見向きもされないこの立場に理解を示す人々が沖縄にはまだいるのだろうか。

 本土で最も多い読者を擁する読売新聞は、選挙翌朝の紙面で、今回の立憲民主躍進について次のように分析していたのが目に留まった。〈(立憲の)野田代表が、「原発ゼロ」をはじめとした非現実的な安全保障・エネルギー政策を封印し、共産党との連携に距離を置いたことが奏功したと言えよう〉(読売新聞10月28日1面の政治部長解説記事より)。ここで言われる「非現実的な安全保障」政策が何かは明言されていない。まさか、南西諸島の軍事基地化および辺野古の新基地建設に「異を唱えること」を指してはいないだろう。注視しなければならない。

 折も折、総選挙の日(10月27日)当日に、与那国島では日米共同統合演習「キーン・ソード25」が実施されていた。そして陸上自衛隊の輸送機V22オスプレイが、与那国駐屯地内で離陸しようとした際に、左翼下部が地面と接触して機体が損傷する事故が起きた(発生は午前11時38分)。陸自では原因が究明されるまで同型機の飛行を見合わせている。

 僕の知人がその事故現場を目撃・撮影していた。話を聞くと、駐屯地内で起きた事故で露見しにくく、たまたま自分たちが撮影していたので公表せざるを得なかったのではないか、という。

 防衛省の事故発生に関するホームぺージ上でのリリースは午後8時過ぎ(まさに総選挙の投票締め切り時刻)だった。

 与那国島は沖縄4区に属する。与那国町選挙管理委員会によれば、同町の有権者数は1421人、投票したのは846人。投票率は59.75%だったという。自民党の西銘恒三郎氏が圧勝(有効票の63%以上を獲得)した。近年、与那国町はすさまじい勢いで変容を遂げ続けており、島に唯一あった老人ホームが今月いっぱいで閉鎖、農家も廃業の動きがみられる。

 島に暮らすある知人が「このままでは与那国島は戦中の硫黄島のようになってしまうのではないか」と嘆いておられた。島の人口に占める自衛隊関係者の割合も増加する一方だ。そのような動きはもちろん選挙にも影響を及ぼす。

 閑話休題。総選挙の前、沖縄・国頭村の漁師・勝ちゃん、こと山城善勝さん(80)を描いたドキュメンタリー映画『勝ちゃん-沖縄の戦後』(藤本幸久・影山あさ子共同監督)をみた。勝ちゃんは、やんばるの海の誇り高き漁師だ。沖縄戦を生き延びた後、まさに沖縄の戦後を体現するような起伏に富んだ人生を経てきた。

 作品中で勝ちゃんが歌う『艦砲ぬ喰ぇー残さー』という曲がある。その意味は、沖縄戦での米軍によるすさまじい艦砲射撃の喰(く)い残し=生き残りということ。生前の大田昌秀元知事ご本人から「大好きな歌だよ」と聞いたことがある。大田さんが、若き大学教員だった頃(復帰前)、よく立ち寄ったバーにジュークボックスがあって、そこにクオーター(25セント)硬貨を入れて、でいご娘の歌う『艦砲ぬ喰ぇー残さー』を何度も何度も聴いたそうだ。その歌のさびの歌詞はこんな内容だ。何と強烈なそして哀調を帯びた反戦歌か。

 〈あなたも わたしも おまえも おれも 艦砲の喰い残し〉

 この〈二度と沖縄を戦場にはしない〉という原点が、今後の沖縄の選挙で争点から外れるようなことがあってはならない、とヤマトゥの僕は外側から勝手に思う。それは、ガザでの虐殺を外から報じる時と同じように、何を引き継ぎ、何を伝承していくか、という根源的なことがらだと思うからだ。ちなみに今回の沖縄の総選挙の投票率は、49.96%と衆院選では史上最低の数字で、初めて50%を切った。示された民意があまりにも踏みつけられたままになっていると、選挙という仕組み自体に絶望する人々が出るのかもしれない。だが、総選挙を経ても「変わらぬもの」があると、僕は思っている。(ジャーナリスト)

=随時掲載

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