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マスメディアと選挙報道

沖縄タイムス+プラス / 2024年11月24日 15時0分

衆院選の投票が終わり、票の集計作業を始める那覇市職員ら=10月27日、那覇市民体育館

西江昭吾・編集局次長

 今月17日に投開票された兵庫県知事選は、パワハラなどの疑惑告発文書問題で失職した斎藤元彦氏(47)が再選を果たした。当初「劣勢」とみられていたものの、次第に「接戦」へ変わり、結果は投票が締め切られた午後8時に“ゼロ当確”が出る「圧勝」。SNS(交流サイト)から発信される情報が選挙情勢を劇的に変えていくさまは、既存のマスメディアの在り方を問いかけている。

 9月に全県議の全会一致で不信任決議が可決され、とても再選できないと思えたが、徐々に風向きが変わり始める。昨今、SNSを使いこなすのは若者に限らず、シニア層でも珍しくない。幅広い年代に影響を与えたとみていいだろう。

 有権者はSNS情報を「妄信」したわけではないはずだ。何が真実で、何が誤情報なのか判然としない中で選挙を迎え、「知りたい」情報が既存メディアに見当たらず、SNSにはあった、ということだと思う。

 斎藤氏を応援するとして知事選に立候補した政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首が、街頭で「メディアは真実を隠している」と訴えると、聴衆から拍手が起こったという。「知りたい情報」にSNSで接した有権者は真偽を自分なりに吟味し、「メディア不信」の高まりと相まって、斎藤氏を支持する方向に傾いていったのではないか。もちろん、斎藤氏の1期目の実績や人柄への評価も少なからずあったはずだ。

 テレビや新聞には知りたい情報がない―。そういうネガティブな見方が広がっている。「オールドメディアの敗北」という論評も目に付く。人々がそういった認識を抱くに至ったことは、マスメディア側は真摯(しんし)に受け止める必要がある。

 先日、ある福祉事業所が突然閉鎖した記事を巡り、沖縄タイムス読者センターにこんな意見が寄せられた。「知りたいことを知ることができない新聞は、購読する意味がない」

 匿名の情報提供を元に取材し、初報では事業所名を伏せた。意見を寄せていただいた読者は、事業所名が書かれていないことに苦言を呈してきたのだ。

 取材で事実関係の確認はできたものの、まだ公的機関などによる公表がされておらず、明記を控えた。その後、運営会社の破産が公表され、続報で事業所名を書いた。

 初報時に明記していれば、意見を寄せていただいた読者の期待に応えるものだっただろう。逆に「書く必要があったのか」という指摘が来る可能性もある。

 真偽不明な情報は、当事者や関係者から話を聞き、裏付け取材を行い、プライバシーや人権に配慮しながら、得られた情報を取捨選択して記事を書く。特に選挙であれば、紙面の露出・扱いについて各候補者の公平性に注意を払う。

 マスメディアがこれまで培ってきた原則や常識が、有権者(読者)に響かなくなっているのか。従来の原則に従えば従うほど、選挙中になると途端に当たり障りのない記事があふれ、「知りたい情報がない」と有権者が感じるというジレンマに陥る。

 裏付けもそこそこにプライバシーを度外視して、読み手に刺さる刺激的な記事を書けばいいのかというと、そうではないはずだ。

 何をどう書き、何を書かないか―。万事に通用する絶対的な答えは思い浮かばない。「真実を隠している」という疑念は払拭しなければならないし、読み応えのある記事で信頼を取り戻す努力は欠かせない。

 まずは、これまでの選挙報道で足らざる点、改めるべき点がないか、虚心坦懐に顧みたい。そして、普段から新聞を読んでくださる人、そして、読んでもらえていない人、それぞれの話に耳を傾けたいと思う。

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