[社説]韓国 一時「非常戒厳」 大統領の責任は重大だ
沖縄タイムス+プラス / 2024年12月5日 4時0分
新聞を広げ、初めてこのニュースに接した読者は、目に飛び込んできた1面の見出しに驚いたのではないか。
「韓国で非常戒厳宣言」
韓国国民でさえ事態がのみ込めないような、あまりに唐突な戒厳令。一体、何が起きたというのか。
韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は3日夜、緊急の談話を発表。「国政がまひ状態にある」と指摘し、「憲政秩序を守るため、非常戒厳を宣布する」と表明した。
これを受けて戒厳司令部が「布告令」を出し、一切の政治活動を禁じるとともにメディアも統制を受けると明らかにした。
4月の総選挙で与党が大敗し、尹政権の支持率も17%まで落ち込む中、国会では、最大野党「共に民主党」と尹氏との対立が深まっていた。
共に民主党は議席の過半数を握る国会で、政府官僚の弾劾訴追案を相次いで発議し、主要な予算を削減するなど攻勢を強めた。
これに対し尹氏は、打開策が見いだせないまま、非常戒厳を宣言したのである。尹氏は野党の国会戦術を「反国家行為」だと主張し、北朝鮮に従う「従北反国家勢力を撲滅する」とまで言い切った。
戒厳令布告直後に急きょ開かれた国会で戒厳令の解除要求決議が全会一致で可決され、尹氏は約6時間後の4日未明、憲法の規定に基づいて戒厳令を解除した。
韓国社会に根付いた民主主義の政治を国家暴力で踏みにじろうとした尹大統領の責任は重大である。
■ ■
現在の状況が戦時や暴動などを想定した非常戒厳に当たらないことは誰の目にも明らかであり、与党からも厳しい批判が相次いでいた。
武装し銃を構えた兵士は国会敷地に入っており、もし解除要求決議が可決される前に軍隊が国会を制圧していたら、全く違った展開になっていたはずだ。
1980年5月、軍事クーデターに抗議する学生や市民を鎮圧するため戒厳令が敷かれ、多くの死傷者を出した光州事件は今も記憶に残る。
共に民主党を含む野党6党は、非常戒厳の宣布は憲法違反に当たる、として弾劾訴追案を提出した。国会の判断と尹氏の出方が最大の焦点になる。
求心力の回復はもはや不可能に近い。検事出身の尹氏は今、政治生命すら危ぶまれている。
■ ■
長い闘いの末に勝ち取った民主主義が再び葬り去られようとしている-この危機的な事態に立ち上がったのは、市民や国会議員だった。
だが、尹氏が突然、非常戒厳を宣言したことは、民主主義の価値を共有する日米欧に大きな衝撃を与えた。
「従北反国家勢力を撲滅し」という表現に、尹氏の独断政治の危険性を見る識者もいる。
石破茂首相は来年1月、日韓の国交正常化60周年の節目に韓国を訪問する予定だったが、先が見通せなくなった。
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