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復職直後の半年はうつ病の再発リスクが高いが…公的支援なく福祉制度の穴に 「空白を埋めたい」沖縄の事業所が全国唯一の独自ケア

沖縄タイムス+プラス / 2024年12月5日 16時32分

 うつ病による休職から回復した人にとって、復職直後の半年間は再発リスクが最も高く、サポートが必要な時期だ。しかし、この期間は支援事業所に国の報酬が支払われず「福祉制度の穴」となっている。穴を埋めるため、沖縄県浦添市の事業所「BowL(ボウル)」は独自の有料サービスを続けて成果を挙げている。専門家は「全国でもおそらく例のない取り組み」と評価する。(デジタル編集部・新里健)

 

 復職直後は仕事に不慣れでストレスを感じやすい。私生活と気持ちを切り替えるのが難しく、不眠や食欲不振になることも。負荷がかかる状況でも心身の健康を維持して働けるような支援を必要とする人は多い。

 だが障害者総合支援法に基づき国が支援事業所に報酬を支払うのは、復職や新規就職するまでの「就労移行期」と、復職・就職して半年以降の「就労定着期」だけで、はざまの6カ月間は無報酬。BowLはこの空白期に、利用者が払う料金のみを原資にして独自の有料サービス「はたさぽ」を展開する。

 内容は3本柱でメインは月1回の復職者の集いだ。カフェのような和やかな雰囲気で「心を充電するには何をすればいいか」「周りの目を気にせずに済む方法を知りたい」「相手を気遣いながら話すこつを教えてほしい」といった悩みや対処法を、率直に語り合う。

 二つ目はスタッフとの月2回のカウンセリング。13項目のチェックシートで情緒の安定度や考え方のくせを確認する。休職中のトレーニングではできたが復職後につまずいたことなどを相談し、アドバイスを得る。

 三つ目は本人と上司、スタッフによる職場面談だ。

 開始4年で約90人が利用した。半年たった後も多くが同様の支援を受け、復職後3年の職場定着率は87%。全国平均の25%を上回る。BowLの公認心理師、大田真央香(しおか)さんは「対話と気付き、実践を経て独り立ちするまでサポートする。ぜひ使ってもらえたら」と話す。

 料金は休職中から続けて利用する人は月6600円、新規は支援メニューを組むため月1万2千円。毎週月曜に説明会を開いている。詳細はBowL、電話098(879)0167。

■「職場面談が助かった」 復職した30代男性

 抑うつ状態で1年半休職した県内の公務員の30代男性は復職後、BowLと上司を交えて定期的な三者面談を職場で開いてもらい「助かった」と振り返る。

 暗黙の了解や社交辞令など「空気」を読むのが苦手なタイプ。業務がなかなか進まずに自責感が強まり、体調を崩した。

 休職中はBowLのスタッフと一緒に、自身の課題や対処法、職場への要望をまとめた「私のトリセツ」を作成。復職後の6カ月間は毎月、職場面談を開き、トリセツの実践状況を話し合った。言いづらいことはスタッフが「翻訳」して意思疎通を円滑にした。

 面談を重ねるうちに、男性は分かりやすい業務指示を受けられるように。ミスを減らすため、報告、連絡、相談の「ホウレンソウ」に加えて、作成書類の出来栄えや締め切り日を一緒に確認する時間も設けた。

 話を聞きながら要点を整理してメモを取るのが不得意なため、職場の理解を得て、後で思い出しながら取るようにしている。一方、上司の提案を受け入れ、傾聴の姿勢を示すためノートは開いておくことにした。

 復職して1年。男性も上司も改善の手応えを感じ、言葉のキャッチボールもスムーズに。職場面談は3カ月に1度で済むようになり、男性自ら段取りする。「翻訳」の頻度も減った。「なぜうまくいかないんだろう、とずっと悩んでいた。悩みを言語化して職場で生かすサポートをBowLで得られて、空回り感がなくなった」と感謝する。

■公的機関も支援策を 島村聡・沖縄大学教授

 障がい者の就労移行支援と就労定着支援の間に、国があえて無報酬の「空白の6カ月間」を設けた理由は、就労移行を支援する事業所の自助努力を引き出すためだ。障がい者が企業に定着した割合に応じて、その後の報酬を加算する仕組みを設けた。

 その結果、この期間に障がい者の心身が不安定になっても、報酬を得られない事業所が手を差し伸べづらい状況が生まれた。「自分たちが支援の手を引いてしまったら回復途上の本人は放置されてしまう」との危機感から、事業所が努力を重ねているのが現状だ。

 この「空白の6カ月間」に、BowLは精神疾患の中でも軽症とされるうつ病に特化し、独自の有料サービスを展開している。同様の取り組みをする事業所は全国でも例がないだろう。

 企業で働く人に加え公務員や教員も対象にして、復帰への意欲が高く自腹で費用を払ってでも支援を受けたい人を、確実に復職・定着させている。目の付けどころが良い仕組みで、国の報酬に頼らず企業努力で続けている点が見事だ。公的機関も着目し、何らかの支援策につなげるべきだ。(社会福祉学)

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