[社説]被団協ノーベル平和賞演説 「核のタブー」を今こそ
沖縄タイムス+プラス / 2024年12月11日 4時0分
「『核のタブー』が崩されようとしていることに限りない口惜しさと怒りを覚える」
ノーベル平和賞授賞式がノルウェーの首都オスロで開かれ、世界に被爆の実相を伝えてきた日本原水爆被害者団体協議会(被団協)に平和賞が授与された。
授賞式の演説で被団協代表委員の田中熙巳さん(92)が強調したのは、今まさに世界は現実的な「核の脅威」にさらされているとの強い危機感だった。
結成から68年。被団協はこれまで、二つの基本要求を掲げて運動を展開してきた。
一つは、原爆被害は戦争を遂行した国が償わなければならないということ。そして二つ目は、核兵器は非人道的な殺りく兵器であり、人類とは共存させてはならないということだ。
核兵器で被爆した当事者として「ノーモア・ヒバクシャ」を合言葉に核廃絶を訴える草の根の活動は、核兵器は二度と使われてはならないという「核のタブー」を世界に広める役割を果たした。
一方、なおも世界には1万2千発の核弾頭が存在する。
ロシアのプーチン大統領は先月、核攻撃に踏み切る際の軍事的脅威の条件を拡大する「核抑止力の国家政策指針」(核ドクトリン)の改定を承認した。
イスラエルはパレスチナ自治区ガザに攻撃を続ける中、閣僚が核兵器の使用を口にした。
戦争が広がり「核の脅し」はより現実味を増している。
■ ■
田中さんは13歳の時に長崎の爆心地から3キロ余り離れた自宅で被爆した。爆撃機の音が聞こえると真っ白な光に体が包まれ、強烈な衝撃波が通り抜けたという。1発の原爆は身内5人の命を奪った。
「その時の死にざまは人間の死とはとても言えないものだった。たとえ戦争といえども、こんな殺し方、傷つけ方をしてはいけない」
広島や長崎への原爆投下から来年で80年となる。
しかしいまだに被爆者への補償は十分とは言えない。
特に長崎には国が定める被爆地域の外にいたため「被爆者」と認められず「被爆体験者」と呼ばれる人たちが多くいる。被爆者の認定制度を巡って今も司法の場で争われているのである。
国は全面救済へ速やかに動くべきだ。
■ ■
日本は米国の「核の傘」への依存を強め、唯一の戦争被爆国でありながら核兵器禁止条約に署名・批准していない。
それどころか石破茂首相は就任前に寄稿した論文で、米国の核を日本で運用する「核共有」や核の「持ち込み」について議論する必要性に言及したのである。
これでは政府が主張してきた「核軍縮」にも逆行することにならないか。
地球上に存在する核弾頭のうち4千発は即座に発射可能とされる。廃絶こそを目指すべきだ。
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