二度と戦争起こさない 記憶たどり実相伝える 沖縄タイムス編集局長・赤嶺由紀子
沖縄タイムス+プラス / 2025年1月1日 14時0分
[鉄の暴風吹かせない 戦後80年]
いまほど、想像力が求められる時代はないと感じている。
戦後80年の節目にどう向き合うか-。自問自答する中、あらためて『鉄の暴風』を手に取った。
住民の4人に1人が犠牲となった沖縄戦の様相を住民目線で書き下ろした戦記は、沖縄タイムス社が戦後間もない1950年に出版した。
幾たびの改訂、版を重ね、これまで多くの方に読んでもらったが、昨年6月、筑摩書房からちくま学芸文庫として出版された。
おびただしい量の砲弾や爆弾が打ち込まれ、あらゆるものを破壊したさまを住民側から表現したのが「鉄の暴風」である。いまでは沖縄戦を形容する言葉として定着しているが、そのさまをどれだけ想像できるだろうか。
戦争の渦中にいた新聞人が見聞きした一つ一つの記録・描写は、驚くほど鮮明だ。凄惨(せいさん)さだけではなく、壕や山中、海岸に漂う空気、ごう音、声、においまでもが伝わってくる。
「この戦争において、いかに苦しんだか、また、戦争がもたらしたものは何であったか」(まえがき)がリアルに想像できる。
いま戦争の準備が急速に進んでいる。南西諸島への自衛隊配備の強化、有事を想定した住民の避難計画、日米の軍事一体化-。
戦後80年たったいまなお米軍による事件事故が起き、県民の尊厳と命が脅かされている。住宅地には不発弾が眠り、戦没者の遺骨収集は続く。
戦後処理も終わらない沖縄で、「新たな戦前」を迎えるわけにはいかない。いまこそ共有すべきは沖縄戦の教訓、「戦争は民間人を巻き込み、軍隊は住民を守らない」である。
沖縄タイムス社の「魂」「原点」ともされる『鉄の暴風』を本土の大手出版社に託すことになったのは、二度と戦争を起こしてはならないとの強い思いを、全国に届ける意義があるとみたからだ。
本紙は同書のタイトルをことし1年の報道のテーマに据えた。「鉄の暴風 吹かせない」。多くの悲しみ、苦しみ、痛みへの想像力を働かせ、記録をたどり、人々の記憶を刻んでいきたい。
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