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戸川純のパンクスピリットに驚くライヴアルバムの大傑作『裏玉姫』

OKMusic / 2021年8月18日 18時0分

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(okmusic UP's)

ヤプーズの3rdアルバム『ダイヤルYを廻せ!』と4thアルバム『ダダダ イズム』が8月18日、初めてアナログ化され、LPでリリースされた。というわけで、今週はヤプーズの作品を取り上げる。本来ではあれがその3rdか4thを紹介するのが筋だろうが、ここは問答無用で彼女らのデビュー作とも言える『裏玉姫』で行くことを独断で決めた。いろんな意味で衝撃的な、ライヴアルバムの傑作であることは間違いない。

■ドラマ、CMのイメージを一変

今、聴いても“バンドやりてぇ”とムズムズしてくる。収録時間はわずか30分余りと、今となっては平均的なCD作品の半分に満たないほど短い音源であるのだが、“ロックやりてぇ”“パンクやりてぇ”と思わせるに十分なほどの熱量が詰まったアルバムと言っていいと思う。ライヴアルバムとしては理想的な作品とも言えるのではないだろうか。

サウンドはシンセサイザーが多用されているので、パンクロックというよりはポストパンク、ニューウェイブと分類されてしかるべきものであろうが、その精神はもろにパンク、もっと広義に捉えればそのフリーダムな表現手段はロックそのものと言えよう。まず、これは『裏玉姫』というよりは、それに先んじること3カ月前にリリースされた戸川純のデビューアルバム『玉姫様』の話にもなるけれども、その内容が自由そのものである。『玉姫様』に関しては3年前の当コラムで取り上げているので、詳しくはその拙文を参照していただければと思うが、改めて紹介すると、『玉姫様』のタイトル曲「玉姫様」は月経という生理現象に伴う不快な症状を歌詞にしている。

《ひと月に一度 座敷牢の奥で玉姫様の発作がおきる》《中枢神経 子宮に移り/十万馬力の破壊力/レディヒステリック 玉姫様 乱心》(M1「玉姫様」)。

当時、リアルタイムで聴いた時にも相当衝撃を受けた覚えがあるが、今、改めて聴いても“よくこれを歌詞にしたものだ”と惚れ惚れする。少し前に映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』が話題になったり、“生理の貧困”が多くのメディアで報じられたりしているものの、現在でもまだタブー視される傾向の月経。今から35年以上も前にそれをテーマとした楽曲を作り、表現に禁忌がないことを天下に示したアーティストとしての姿勢は、実に天晴れなことであったと大いに称えたいものである。

しかも、それを行なったのが戸川純という女優であったことで、パンクスピリットのようなものをより強く感じさせたような気がする。戸川純のデビューは『玉姫様』の約2年前、1982年のビートたけし主演のドラマ『刑事ヨロシク』であった。警察署で働く事務員の役で、傍目にも陰キャな感じで、おどおどしながらお茶を出す度にたけしに弄られていた役柄だったと記憶している。ドラマの中身はさっぱり覚えていないが、そのビートたけしと戸川純の絡みはやけに印象に残っている。一般的に彼女の知名度がグッとアップしたのは、同年9月のTOTOの「ウォシュレット」のCMだろう。“おしりだって、洗ってほしい”というCM史に残る名コピーと共に登場。見た目は『刑事ヨロシク』よりかなりポップになっていたが、どこかたどたどしい語り口は、ドラマでの役と地続きではあったと思う。

■公演中にキャラが豹変!?

そんな戸川純が、「玉姫様」を作り、自身で歌うだけでも相当に衝撃的だったわけだが、アルバム『裏玉姫』に収められたパフォーマンスはさらにインパクトの強いものであった。『玉姫様』に収められた「玉姫様」、つまりスタジオ録音版は歌い方がわりと淡々としており、ある意味その無機質な感じであったり、少女っぽい感じであったりが独特の雰囲気を醸し出していたが、本作収録のライヴテイクは豹変と言ってもいいほどの変貌ぶりを見せている。ヴォーカリストとしての戸川純が、彼女がドラマやCMで見せたキャラクターとは別物であることは当たり前と言えば当たり前なのだが、それにしてもそのギャップには程があると言っていいほどの落差を感じた。

とりわけ、それを強く感じるのは《十万馬力の破壊力/レディヒステリック 玉姫様 乱心》と《神秘 神秘 神秘の現象》の箇所。歌ってるんだか叫んでるんだかよく分からない。どこか投げやりでもあるような、歌詞を強調しているような、とにかくすごいのである。M4「踊れない」の《アンチョン イイイイイイイイ ヤッハ》や《私のためのロボットのためのロックンロール》であったり、M5「涙のメカニズム」の《切ないもの それはわたしの言葉よ》であったりも、如何もパンクっぽい。M4は、1970年代後半に存在したパンクバンドのカバーであり、戸川はこのバンドの追っかけをしていたというから、いわゆる“お里が出た”というところだろうか。また、“ヤプーズの演歌をお送りいたします”紹介されたM5にも、こうしたパンクっぽいパフォーマンスを入れる辺り、彼女の中にしっかりとパンクが染みついた証拠と言えるかもしれない。

その、ある種エキセントリックとも言えるヴォーカリゼーションと、それまでブラウン管で彼女が見せていたキャラクターとのギャップに驚くなり萌えるなりするのは当然として、本作の中での彼女のギャップも少なからず驚くところである。M2でパンク然としたパフォーマンスを聴かせていた彼女が曲の終わりのMCでは、そこまで何もなかったかのように素に戻る。“どうも。皆様、こんばんは。ありがとうございます。それでは、1曲目は「玉姫様」という曲でした。2曲目は「ベビーラブ」という曲を聴いてください”。こうして文字に起こすと何でもないようだが、“どうも! 皆様! こんばんは~!”ではない。あくまでも淡々と話している。ドラマやCMに近いとまでは言わないけれど、聴いている側にしてみれば、先ほどまでの激しさが嘘だったように、しれっとしている感じなのだ。

その「ベビーラブ」のあとでは“どうも「ベイビーラブ」でした。ツアー中なんですけど、各地によっていろいろ違いますね。それでは”とM4「踊れない」へ進んだり、M7「ロマンス娘」のあとでは“ありがとうございます。私はあんまり汗をかかないんですけれども、汗びしょです。それで、あの…あの暑いですね。暑い国の人の歌を。「隣の印度人」という曲を聴いてください”とM8「隣の印度人」へつないだりと、観客への礼も失してないし、それなりに話もしている。だが、先ほどまでのワイルドさはどこへやら、人が変わったかのようになる…というか、歌になるとモードが変わるのである。冒頭で“バンドやりてぇ”“ロックやりてぇ”“パンクやりてぇ”と言ったのはそこである、正直言ってリアルタイムで本作を聴いていた1980年代半ばにそれを明確に言葉にできていたわけではないけれども、日常とは180度異なると言っていいキャラクターを放出している様子にはシビれた。魂の解放というとかなり大袈裟かもしれないが、本作での戸川純のパフォーマンスにはそれを感じるし、引いてはロックやパンクといったものはそういうものであることを体現しているかのようである。

前述した通り、『玉姫様』においても彼女はタブーを破っており、それだけも十分にロックでパンクなのだが、『裏玉姫』での表現方法はさらのその上を行ったようでもあった。雑誌のインタビューで彼女は、[自分とは違う人物になりきることが出来る点に芝居の魅力を見いだしている。また、ライヴでの一見奇抜な衣装も、作品世界の様々な状況における人物になりきりたいという変身願望に基づいている]という主旨のことを語ったというから、それが音楽ライヴにおいても発揮されたのだろう([]はWikipediaからの引用)。

■ポップでカラフルな世界観

さて、そうしたライヴのおける豹変ぶりを強調すると──しかもエキセントリックとかワイルドとか形容してしまうと、まったく知らない人はかなり凶暴なロックライヴと思われかもしれないので、補足しておくと、『裏玉姫』はポップな作品である。そこは推しておこう。M2「玉姫様」こそ、歌メロに派手な抑揚がなく、比較的淡々と続いていくが、M3「ベビーラブ」はいつの時代のアイドルが歌ってもおかしくない感じのポップロック。M4「踊れない」もまたリズムが淡々と進み、歌も抑揚に乏しい印象ではあるが、シンセサイザーが奏でるメロディのループがそれを補っている印象ではある(…と、ここまで書いて、M2「玉姫様」とM4「踊れない」での彼女のパフォーマンスは抑揚の乏しさを補ったものかもしれないなぁ…)。

M5「涙のメカニズム」は、“ヤプーズの演歌”とは言うものの、そこまでの演歌っぽさはなく、どちらかと言うとロシア民謡風で、一風変わった感じのメロディがアルバムのバラエティーさを強くしているようでもある。M6「電車でGO」はハルメンズのカバー(ハルメンズとは、パール兄弟のサエキけんぞうの他、上野耕路、泉水敏郎(Dr)らが在籍していたバンドで、上野はゲルニカのメンバーで戸川と創作活動を共のする人であり、泉水はまさしくヤプーズのメンバー)。歌メロはアイドル歌謡…というと若干語弊があるかもしれないが、テクノポップ風のサウンドと相俟って可愛らしい印象ではある。

M7「ロマンス娘」はグループサウンズっぽいというか、どこか昭和な雰囲気もあるナンバーで、バンドサウンドはR&Rの基本のようでもある。そして、M8「隣の印度人」。タイトルからして奇怪な感じではあるのが、アラビア音階を使った歌の抑揚といい、何とも説明の仕様がない歌詞世界といい、まさにニューウェーブではあるし、個人的にはこの時期のヤプーズの真骨頂とも言えるナンバーではないかと思う。と、中盤の楽曲をザっと紹介しただけでも、そのサウンド、パフォーマンスにおいて好みが分かれるところはあろうが、決して分かりにくいものではないことを確認した。そのバラエティーに富んだ様子は、ライヴハウスという閉鎖空間での演奏を収録したものではあるが、むしろ開かれたものであるような印象を強くするところである。

続くM9「昆虫軍」はテクノ風味が強めではあるものの、バンドサウンドがグイグイとドライヴしていく様子はまさにロックでパンクだ。パンクと言えば、続くM10「パンク蛹化の女」は、まさしくそれである。「蛹化の女」はヨハン・パッヘルベル「カノン」に歌詞を付けたもので、アルバム『玉姫様』においてもラストに収録されたもので、『裏玉姫』が『玉姫様』と対を成す作品であることをはっきりと表している。タイトルに“パンク”とあるだけあって、「蛹化の女」よりもテンポが速く、しかもバンドサウンドである。曲紹介のMCも“それでは、やります…1、2、3、4!”と、高揚感を抑えられなかったのか、ここでのカウントはわりと大声モードだ。でも、そこがいいと思う。歌も全体に粗く、ぜいぜいと肩で息をしている感じもライヴっぽい。真のアンコールといった感じだ。バンドサウンドがアウトロでノイジーに密集してく様子には大団円感もある。やはりライヴパフォーマンスの熱を実によくパッケージしたアルバムであることは疑いようもない。

この『裏玉姫』はカセットのみで発売され、1993年のCD化まではカセット以外では流通されなかったのだが、本作のこの仕様もとても良かった。ネットを介して手軽に映像作品を見ることができる今となってはほぼ笑い話だが、ビデオテープすら世間一般には普及していなかった時代、アダルトカセット(エロカセット)と呼ばれるものがあった。知らない人でより詳しく知りたい人はググってもらえれば…と思うが、要するにアダルトビデオのサウンドオンリー版である。『裏玉姫』にはあれに近い匂いがあった。いけないものを聴くようなアングラ感覚もまたロックであり、パンクであったような気もする。…かなり強引に結びつけた気もしないでもないが、それはそれとして、こういう試みというか遊び心は、フィジカルが売れなくなった今、捻り方次第ではイケるんじゃないかと思うので、最後に記しておく。

TEXT:帆苅智之

アルバム『裏玉姫』

1984年発表作品



<収録曲>
1.OVERTURE
2.玉姫様
3.ベビーラブ
4.踊れない
5.涙のメカニズム
6.電車でGO
7.ロマンス娘
8.隣の印度人
9.昆虫軍
10.パンク蛹化の女




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