ジャンルに特化することが吉? アイドルの個人SNS炎上で浮彫になる「生」で発信する難しさ
ORICON NEWS / 2024年6月2日 8時40分
今やアイドルの活動においても必須となっているSNS。インスタ、X、TikTokなどでさまざまな発信がされているが、これまで一定を保っていたファンとの距離感が一気に詰まる現象が発生。これにファンが喜ぶこともあれば炎上やコミュニケーションの齟齬といった弊害も起き、SNSでの発信の難しさをあらためて浮き彫りにしている。ネガティブな要素を最大限におさえるには、どのような戦略が必要なのか?
【写真】詳しすぎる美容知識に会場ざわつく…千賀健永、初プロデュースのフェイスパック
■アイドルたちの“個人SNS”が続々解禁、図らずも起こる炎上
メディアの多様化により、芸能人やアイドルらとSNSとの親和性は必要不可欠になってきた現在。これまでインターネットと距離をとっていたSTARTO ENTERTAINMENTのタレントたち、過去に事務所に所属していたタレントたちも“個人SNS”を徐々に解禁し、ネットメディアでも「解説○日間で○○フォロワー」などと話題になり、ファンらが一喜一憂している。その多くは、“国民的なタレント”であり、崇拝していたアイドルが市井に降りてきた衝撃や「こんなに近い存在になってくれているんだ」という期待を寄せるものだった。
だがその“距離感”が多く火種のもとにもなっている。タレント側としては、これまで一定の距離感を保ってきたが、ファンとの距離が一気に詰まることで、例えば作り上げてきたイメージから逸れた発信をすると炎上の対象になってしまう。ファン側においても、距離感が近くなった半面、これまで作りあげてきた強固なイメージがあるため、その枠から外れた印象を受けた際のショックが大きい。「こんな人だったんだ」と冷める瞬間が確実に増えている現状があるのだ。
「互いにその距離感がつかめないのと同様に炎上後の対応にも慣れていない印象」と話すのは法律事務所への取材やネットの誹謗中傷やインフルエンサーらの実情などに詳しいメディア研究家の衣輪晋一氏。「生田斗真さんや平野紫耀さんらも炎上しましたが、そのハレーションはあまりにも大きく、想像を超えて叩かれ続けたのも記憶に新しいところ。
これらの背景について、過去にひろゆきさんにお話を伺ったところ、『最初の炎上は小さい。それを様々なメディアが取り上げ、大きくしている』と解説されていました。また炎上ネタを解説するYouTuberもおり、様々な視点で言葉尻をとらえて拡大解釈する投稿も。昨今はXでも収益化できるようになりましたから、さらに炎上しない発信が求められることになります」
そもそもSNSとは、個人の主義主張を自由に発信する場であり、いわば独り言をつぶやく場。タレント側には自らの脳内を明かすなかで「本当の姿を見てほしい」「受け入れてほしい」葛藤もあるだろうし、ファンとしては、距離感が近くなったとしてもアイドルはアイドルだから相応の振る舞いをしてほしい、理想の姿から逸脱した姿は見せてくれるなという想いもあるだろう。
■ジャンルに特化することで炎上を阻止? 影響力をいかに理解しているかが問われる
では炎上はどうしたら防げるのか。衣輪氏はインフルエンサーたちに取材したなかで「炎上はある意味、止められないと誰に聞いても答える」とし、「SNSでの侮辱罪も厳罰化されましたが、弁護士によればそれだけでは抑止力としてはまだ足りないと嘆かれている」と話す。つまりSNSでの立ち回りは非常に難しい。
とはいえ、戦略的にうまくSNSとつき合っている事例もある。旧ジャニーズで初のインスタアカウントを開設した山下智久は、ファンから質問を受け付けるというコミュニケーションをしていない。質問箱なども設置しておらず、「脳内は明かさない」ことでうまくいくという一つの例を示している。逆にSNSを使いこなしているのが菊池風磨(timelesz)。質問箱の返信速度がえげつないと言われるインスタストーリーが話題であり、独り言としてのつぶやきも、自身の影響力を理解した上で立ち振る舞っているように見える。
そんななか、特に話題になっているのは千賀健永(Kis-My-Ft2)だろう。そのInstagramのストーリーはもはや“美容垢化”しているといわれ、美容というジャンルに特化して主義主張を述べている。ニキビや毛穴の治療について、エビデンスも備えた治療法の提示。「ダイエットのモチベになるような言葉ください」という声には「あんたまだ他人頼りのダイエットしてるの?」と厳しい言葉を放つなど、その知識から“エビデンスモンスター”との異名すら生まれた。
「もともと千賀くんが美意識が高いことは有名で、本人も自覚。本業のアイドル業とは似て非なるものですが、それを“個性”として魅せてきた経緯があります。その千賀くんはストーリーでアイドル論を語るわけでなく、むしろしっかり距離を置くスタンス。フォロワーも彼の美容発言を供物としてとらえてくれている状況であり、特化したジャンルを発信することで炎上を回避できていると言えなくもない。また千賀くんとしても美容についての自身の熱量や知識を語れるし、これまでにこだわってきたことの証明にもなる。根底にエビデンスがあるので、発信側の“脳内”が見えるわけでもない。ジャンル特化をしているうちはユーザーとWin Winです」(衣輪氏)
■フィルター越しではなく「生」で発信できるからこそ、今まで通りとはいかない
日本の芸能界は海外などのエージェント制とは違い、プロモーションやプロデュースなどをすべて事務所に「任せてきた」歴史がある。イメージについても事務所が守り続けてきたが、SNSによって、その「脳内」が見えるようになった。アイドルとしての姿を貫くこと。それがこの現代、どこまで通用するのだろうか。
「遠くで見るから美しくもあり、偶像として受け入れられるという歴史が続いていた。苦労や大変な裏側など、人間の生としての部分は見せない、または見せてもファンの動向を考えた発言をする。…これに関しては、旧ジャニーズ時代、私もテレビ雑誌などで彼らのインタビューを数多くこなしてきましたが、やはり“内側”を語ったコメントは喜ばれる。事務所チェックもありませんでしたが、だからこそファンがどのような言葉で喜び悲しむかは、ライターも編集も徹底的にリサーチした上で大丈夫であるものを発信していました。つまりオフショット的コメントであってもフィルターはしっかりかけていたのです。
これをSNSで「生」で発信すればファンがより喜ぶことも、より悲しむことも、その両面がむき出しになってしまう。ゆえに山下さんのように、内面を「神秘」とするのも得策。千賀さんのように自身が培ってきたプライベートの知識をジャンルに特化して、アイドルとはやや違う地平線で語るというのも新たな形として有効のように思います。いずれにせよ、FRUITS ZIPPERなどのヒットを見ても、“人としての部分は見せない”というアイドル本来の姿への原点回帰の機運は感じられます」(衣輪氏)
とはいえ、「SNSをやらない」という選択肢はもはや難しくなっている。「Z世代の俳優などからは、むしろSNSを利用して趣味である音楽や特技の歌ウマなどを披露したオールマイティーな芸能人が今後強くなるという話も(衣輪氏)」あるそうなので、その上でエビデンス盛り盛りのジャンルに特化することも当然アリだろう。同時に自身の影響力を理解した上で立ち振る舞うことができるなら、そのテンションを維持するべき。SNSの発信を戦略的に練ることは今後、どんな人にとっても大切になる。
(文/西島亮)
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