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原宿から世界へ ユニバーサルミュージック新設ドルビーアトモススタジオ2つの大きな強み

ORICON NEWS / 2024年7月8日 12時0分

ドルビーアトモス対応の音楽制作スタジオ「Augusta Studio(オーガスタ・スタジオ)」

 立体的な音場を体感でき、作品への没入感を、映像からだけでなく音響の面でも高めてくれる立体音響技術「Dolby Atmos(ドルビーアトモス)」。映画から始まり、近年では音楽、ゲーム、スポーツなど様々な分野へと採用が進んでいる。中でも音楽は、2021年にApple Musicがドルビーアトモスによる「空間オーディオ」の配信をスタートしたことで、国内にも対応スタジオが増加中だ。そこで、このほど東京原宿にあるユニバーサルミュージック本社内に新設された、ドルビーアトモス制作が行えるスタジオを視察。ドルビーアトモス・ミックスが施された楽曲を聴き、その没入感を体験した。

【画像】音がダイナミックに…!ドルビーアトモスの仕組み



■日米同時進行での制作作業が可能 新スタジオ「Augusta Studio」他にはない大きな特徴

 ユニバーサルミュージック合同会社の本社内に、世界基準のドルビーアトモス(立体音響)対応の音楽制作スタジオ「Augusta Studio(オーガスタ・スタジオ)」が設立され、5月末、同スタジオの内覧会が開催された。昨今、国内でもドルビーアトモス規格に対応した音楽制作スタジオは増えつつあるが、新設された「オーガスタ・スタジオ」だけの他にはない大きな特徴は、次の2点となっている。

1.米キャピトル・スタジオと同じ再生環境

 米国ロサンゼルスにある世界有数のドルビーアトモスタ対応スタジオ「キャピトル・スタジオ」監修のもと、機材のメーカー/モデル(スピーカー:米国PMC IB2S XBD-AIIなど15台/パワーアンプ:米国Linea Research 88C06)や音質調整をキャピトル・スタジオと同一基準で統一。つまり、キャピトル・スタジオと同じサウンドが聴けるように、音の特性が細かく調整されている。

2.原宿とロサンゼルス、同時進行での制作作業が可能

 リモートコラボレーション・アプリケーション「Listento」によりキャピトル・スタジオとつなぐことで、スタジオ品質の膨大な音楽データが0.1秒程度のタイムラグで送受信できる。これにより、日本と米国で同一サウンドをリアルタイムに聴きながら、リモートでサウンドを細かく調整したり、アイデアを共有したりすることができる環境を実現。例えば、米国でバンド演奏を録り、それを聴きながら日本で歌を収録、そのまま遠隔で米国のエンジニアが編集作業を行うこともできる。

 「Listento」とは、英国アビーロードスタジオ傘下のオーディオムーバーズ社が開発したオーディオストリーミング・ツール。音楽制作のために作られた通信技術で、ドルビーアトモス用の音楽データにも対応している。このツールは既に映画音楽の制作現場で使われており、ロンドンのアビーロードスタジオとハリウッドをつなぎ、ロンドンで行われているオーケストラの録音を、ハリウッドにいる映画製作スタッフがリアルタイムに聴きながら、演奏に指示を出すという作業が行われているという。

■ドルビーアトモスという音楽の概念 “音源ありき”の音作りとは?

 これら2点がいかに画期的であるかを理解するためにも、ここで改めてドルビーアトモスという立体音響方式を解説しておこう。

 現代の音楽リスニングは、2台のスピーカー(イヤホン/ヘッドホンを含む)で音を鳴らす“ステレオ”方式が一般的。基本的には、歌やさまざまな楽器を左右空間のどこから聴こえさせるか、という平面的な音作りが行われる。

 一方、映画分野で主流なのが7.1chや9.1chといった“サラウンド”方式だ。ステレオの考え方を拡張させ、観客を取り囲むようにたくさんのスピーカーを配置して、背後から音を鳴らしたりすることで、音が観客の周囲をぐるぐると回るような効果を作り出せる。ただし、“スピーカーありき”の音作りであり、例えば7.1chサラウンド音声を再現するには、基本的に7台(プラス低音専用の1台)のスピーカーが必要となる(この考え方を専門用語で「チャンネル・ベース」と呼ぶ)。

 対して“ドルビーアトモス”は、水平面360度にプラス上方向の上部半球面の空間内で、「この音をこの場所から鳴らす」という位置情報を音のデータに持たせる方式。その情報を再生機が受け取ると、再生システム(スピーカーの数や設置位置)に合わせて最適な状態で音を再生できる仕組みとなっており、“音源ありき”の音作りが行える(オブジェクト・ベース)。その際、スピーカーの数が多いほど再現性は高くなるが、イヤホンやヘッドホンでも臨場感のある空間音響を気軽に楽しめる点がドルビーアトモスの大きな特徴となっている。なお、新設されたオーガスタ・スタジオは、前後左右に9台、低音専用に1組(2台で1つの役割)、さらに天井に4台のスピーカーが設置された「7.1.4」と呼ばれる構成となっている。

 ドルビーアトモス対応の楽曲は、米国では昨年のビルボード2023年間チャートHOT100のうち85%を占めるまでに普及。日本ではまだ35%程度ではあるものの、2年前より13ポイント上昇している。

「ドルビーアトモス・ミックスが始まったのが、米国では2019年、日本は実質的に2021年のスタートと、米国の方が若干早く、かつ空間オーディオ対応のサブスクリプション・サービス数が日本よりも多いことから、立体音響での音楽制作は欧米が先行しています。日本はまだ発展途上ですが、欧米を追いかけて毎年パーセンテージも上がっており、新スタジオの導入で、より広がっていくことを期待しています」(ユニバーサルミュージック スタジオ&アーカイブ部・山田忍氏)

■ドルビーアトモス対応楽曲を試聴 新たな発見と新鮮な驚き

 では、肝心のドルビーアトモス対応楽曲にはどのような新しい魅力があるのだろうか。今回の内覧会では、実際にドルビーアトモス・ミックスが施された音楽ソースの試聴も行われた。

 最初に再生されたTiesto & SevennのEDM曲「BOOM」は、ビートの基準となるキックがクラブで聴くようなワイドさで、なおかつエレクトロなサウンドが頭上を含めさまざまな位置から聴こえてくるという、空間音響が効果的に活かされたミックスとなっていた。

 SEKAI NO OWARIの最新曲「Romantic」では、従来のステレオ・ミックスとの聴き比べも行われた。ステレオでも十分に楽曲を楽しめるサウンドに仕上がっていたが、ドルビーアトモス・ミックスになると、歌をはじめとする各パートの存在感がより大きく感じられ、ステレオ方式では感じにくい細かな演奏ニュアンスや音の消え際までを繊細に感じとることができた。
 通常のステレオ・ミックスでは、2つのパートの鳴る位置(定位)が重なってしまうと、両方をきちんと聴かせることが難しく、主役と脇役を作らざるを得ない。しかし空間音響では、音の方向が重なっていても前後関係まではっきりわかるため、どちらかを脇役にせずとも、両方の音の存在をきちんと感じ取れる点は大きな違いだ。

 さらに、昨年リリースされた藤井風「Workin' Hard」のドルビーアトモス・ミックスでは、ボーカルが自分の脳内に入り込んでくる(あるいは、自分が歌の中にいる)ような音の定位感があり、King & Prince「ツキヨミ」のコーラス部分は、まるでメンバーに囲まれているような臨場感で歌が楽しめ、アーティストをより身近に感じられた。

 これら新録曲だけでなく、宇多田ヒカルの大ヒット曲「Automatic」を新たにドルビーアトモス・ミックスしたバージョンも試聴。歌はもちろん、従来のステレオ・ミックスでは聴こえていなかった(意識が向いていなかった)個々の音が鮮明に聴こえ、繰り返し何度も聴いてきた曲にも関わらず、新たな発見と共に新鮮に楽曲を楽しめた。

 また、映画『BLUE GIANT』サウンドトラック(ピアノ:上原ひろみ)や、映画音楽の巨匠、ジョン・ウィリアムズの昨年の来日公演時の演奏(Blu-ray Disc収録映像の音声トラック)では、まるでホールの客席で聴いているかのように、空間全体の響きを味わうことができた。

 前出の山田氏によると、ドルビーアトモス用に作った立体音響ミックスをオートマチックにステレオ用にダウン・コンバートするツールは存在するが、それは米国のカントリーの一部で利用されている程度で、実際の現場では、まずステレオ・ミックスを作り、それとは別モノとしてドルビーアトモス用に新たにミックスを行うことがほとんどだという。

 こうして作られたドルビーアトモス対応音源は、一般的には「空間オーディオ」と呼ばれ、現状、国内ではApple MusicとAmazon Musicで楽しむことができる。その際、ドルビーアトモス対応のイヤホン/ヘッドホンを使えば高い再現性で空間オーディオを最大限に味わえるが、例えば有線イヤホンなどの非対応イヤホン/ヘッドホンであっても、再生機となるiOS/Android側の設定により、疑似的ながらもその効果を楽しむことが可能だ。

■世界へつながり新たな可能性を探求する場 アーティストの秘密基地のようなスタジオに

 オーガスタ・スタジオに話を戻すと、同スタジオは、最先端のドルビーアトモス・ミックスによる立体音響作品を作れる環境であることに加え、キャピトル・スタジオと同じ音質を再生でき、かつ両スタジオで同時作業が可能な通信技術の導入によって、日本にいながら米国のトップエンジニアと制作が行える環境が実現されたことが、より大きな強みとして感じられるだろう。

「ドルビーアトモスは、12年にドルビー社が開発した方式で、長く映画分野で使われてきました。その技術を音楽に使えないかとドルビー社とユニバーサルグループが協力をし、今の形になった歴史があるため、今では使いやすい制作ツールが揃っていますし、商品化までのワークフローも確立しています。そうした制作面で、より現実的で使いやすい立体音響という点が、ドルビーアトモスの大きなアドバンテージだと考えています」(山田氏)

「私たちは、アーティストにとって秘密基地のようなスタジオになると考えています。ここから世界とつながり、新しい作品を生み出し、発信できるようになるからです。音楽を通じて、より広い世界と交流し、新たな可能性を探求する場として、多くのアーティストに使っていただきたいですね」(ユニバーサルミュージック プロセスイノベーション本部副本部長・那須研吾氏)

 70年近いステレオ方式の歴史と比べると立体音響の歴史は浅く、前者には多彩な技術と豊富なノウハウが蓄積されているのに対し、後者に関しては、アーティストもエンジニアも、まだまだ試行錯誤の段階と言える。そもそも、音楽をステレオ空間にまとめる作業と、立体音響で広げる作業は考え方がまったく異なるサウンドデザインであり、作る側には新たなスキルと感性が必要だ。

それでも、映像がどんどんと3D化していくのと同じように、音楽においても臨場感、没入感という側面から、リスナーは立体音響による新しい体験を求め、その欲求を上回るアイデアを実現しようとするクリエイターが生まれてくるのは、時間の問題だ。そうした創作活動を海外とリアルタイムで行える新スタジオは、アーティストの感性を大いに刺激する場となることは間違いないだろう。

文・布施雄一郎

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