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顔面に“赤アザ”を持つ男性 当事者同士の関わりで見えた“課題”「親が子どもの状態を理解していない、受け止めていない人が多い」

ORICON NEWS / 2024年7月22日 8時30分

石井政之さん

 顔に単純性血管腫という“赤アザ”を持ち、1999年に、自身の苦悩とともに同じ疾患を持つ人の内面に迫った『顔面漂流記(現題:顔面バカ一代)』を刊行した石井政之さん。顔に“赤アザ”を持つ当事者として公の場に出た先駆け的存在として、同じ疾患を持つ人たちの集いの場を立ち上げる経験も。しかし、そこには想定外の“苦労”が待ち受けていたという。組織として続けていくことの難しさ、“赤アザ”で悩む当事者たちと向き合うことで生じた新たな課題について話を聞いた。

【写真】”アザをもつジャーナリスト”として、鋭く切実な目線…33歳当時、若き日の石井政之さん

■”異なる角度からの励まし” がトラウマに「思っていた以上に、問題は深刻」



――石井さんは1999年にNPO「ユニークフェイス」を立ち上げられました。実際にどんな活動をされてきたのでしょうか。

【石井】第三者を入れない当事者限定の集まる場を作りました。セルフヘルプグループといって、当事者だけの場で、そこで何を喋ってもいいかわりに、発言内容について誰も否定せずに聞くという運営手法です。きっかけは、精神保健福祉士として働くアザのある女性から「石井さんにはセルフヘルプのやり方で患者会をやってほしい」と連絡がきたからです。その手法で仲間を見つけられるなら、真似してみようと始めました。事前にアザやヤケドがある当事者か確認した上で、貸会議室を借りて5人から10人ぐらい集まった。僕はその司会進行役をつとめました。

――総じて、何人ぐらいの方がご活動に賛同されたのでしょうか。

【石井】一番増えたときは300人ぐらい。7割ぐらいは女性で、残りが男性だった覚えがあります。とにかく20代後半から40代の女性の方が多かったです。

――会員の方と関わっていく中での気づきはありましたか。

【石井】ありましたよ。もうね、みんな落ち込んでる。そのなかで、僕が一番元気だった(笑)。こんなにみんな落ち込んでいたり、絶望しているんだって、驚きました。友達がいないとか、恋人ができないとか、就職できないとか…とにかく途方に暮れている人が多くいました。精神を病んでいる人もいて、ここまでくると、もう僕の手には負えないなと。単なるコミュニティの拠り所としてではなく、期待されることも増えていきました。関われば関わるほど、僕一人の力じゃ難しくなってくるわけです。僕が思っていた以上に、問題は非常に深刻だなと思いましたね。

――運営面での苦労は?

【石井】助け合いたい気持ちはお互いにあっても、行動する人はすごく少ないことです。会を運営するなかで、この程度の活動をなんでみんな今までしてこなかったのだろうと思ったんですよ。別に僕だけじゃなくて、いろんな人がやればいいと思っていた。だけど、今でも表立て発信する人がすごく少ないのは、顔っていう問題の繊細さですよね。これが別の障害――たとえば車椅子を使う障害者となると、全然違う話になってくるんですけど、顔となると表に出て発言できない、目立ちたくない人は急激に増えていきます。その辺のことがよくわかりました。

――顔の問題をいかに繊細にとらえるか、アザがある人によっても差があるのはなぜでしょう?

【石井】一つは、育った家庭環境だと思いますね。意外にも、親がその子の状態を理解していない、受け止めていないという人は多い。「顔にアザはあるけれど、あなたは五体満足で生まれてきたんだから頑張りなさい」と、異なる角度から励ましていたりするんです。体のハンディキャップと外見の問題は全く違うものなのに、一緒くたにしちゃう。「あんたは顔のアザだけなんだから、他のことは全然大丈夫だよ」というのは、励ます方法としては間違っています。そういう言葉がトラウマになっているケースもありました。他の方の家庭事情を聞いて気づきました。

――当事者と同じくらい子どもアザについて悩む親も多いでしょうね。

【石井】子どもよりも、親が落ち込んでいるんですね。「この子はどうなるのか」と思い込んでしまうわけですよ。それが子どもに伝わり、「私、人生ダメなんだ」と思いながら生きていく。僕も経験があるけれど、誰かに相談しても「まあ顔のことなんてたいしたことないから」と言われてしまうものなんです。「世の中もっと大変な人がいるから」と。その周囲の無理解と本人の不勉強――当時は情報がないから仕方ないんだけど――によって袋小路になって落ち込んで悩んで答えが出ないと立ち止まってしまうパターンが多いです。

 そういうなかで、僕の本が書店で多少売れて、新聞でも報道されたので、ユニークフェイスに参加する人は確かに増えた。けれども、一緒に活動するのは別問題で、そんなに簡単にはいかないので、難しかったですね。結局、僕のコミュニティに来ても、本当の目的はいい病院、いい医者を教えてほしかっただけで、知らないなら次から来ないとか、そういうことは多くありました。仮に僕が名医を知っていて紹介したとしても、それがその人にとってよいなんてわからない。トラブルになって責任問題になるでしょう。でも「なーんだ石井さんとこ行っても、いい病院に紹介してくれないし、いい治療を教えてくれない」ってなってしまうんです。

■同じ接点で集まっても、露呈する“人生の差”「立場や経験を超えて喋っていくことが大事」

――ユニークフェイスによって救われた方も実際にいらっしゃったと思います。

【石井】「生まれて初めてこういう場所で親にも友達にも言えなかった自分の悩みを話せた」と非常に喜ばれましたね。「場を作ってくれてありがとうございました」とも。

 でもやはり、当事者同士のコミュニケーションは難しいです。“アザ”という同じ悩みを持つ人間が4、5人出会うと、やっぱり比較しちゃうわけですよ。同じアザという条件でも、この人は結婚できているとか、この人はいい仕事についているとか、俺は無職だとか。同じ接点で集まったはいいけれど、それぞれの人生に差はあるわけです。なかなか、大変でした。

――結局、人は他者の存在を意識せざるを得ないと。

【石井】そう。だから、そういう時に立場や経験を超えて喋っていくということが大事なんですけれども、それは僕の司会進行の力も問われるし、参加する人も頑張ってついてこないといけないところがあって。ただ席に座っていれば至り尽くせりの優しい言葉がかけられて、励まされて、明日から頑張るぞって気持ちになるみたいな、そういうインスタントな話にはならないわけです。

 アザを持っていても結婚している人もいれば、そうじゃない人ももちろんいる、全部ひっくるめて障害者なんです。だけど、じゃあ障害者まとめて全部仲良くなりましょうとはならない。みんな考え方も人生観も違うのはユニークフェイスでも同じでした。

――その後、2015年に解散しましたが、それはどういったことが背景にあったのでしょうか。

【石井】ユニークフェイスの比率は女性が多かったので、気の合う女友達ができると会に来ないんです。回を重ねるごとに来る人が減っていく。それ自体は全然いいのですが、新規の方を迎えることも難しく、簡単に増えることはないわけです。ちょうどその時にスマホの普及も始まったので、会にわざわざ参加するよりも、気の合う当事者をSNSで見つけてコミュニケーションして解決するというやり方に変わっていったんだろうなというのが僕の考えですね。

 僕自身がカウンセラー的な役割を求められることも多くなり、専門職でもない自分がどう対峙していくか悩んでいるうちに、活動するモチベーションを保てなかったこともありますね。ちょうどその頃に結婚して、東京を出て、ユニークフェイスの活動が事実上ほとんどなくなっていきました。

■「世界が広いので大丈夫」“赤アザ”当事者だからこそのメッセージ、「自分で考えて、選んでほしい」

――ご自身の“赤アザ”を通して、同じような症状で悩む当事者の方と出会い、対話してきたことを通して、一番“赤アザ”悩んでいた十代の石井さんご自身に現在のご自身がメッセージを送るとしたら、どんな言葉を送りたいですか。

【石井】「世界が広いので大丈夫」って言いたいですね。今クラスで友達がいなくても、世界は何十億人もいるから。恋人はできないって思っても、会社とか学校とか今いるコミュニティの異性にたまたまダメだと言われているだけで、世の中には何十億人も異性がいるわけだし。就職だって、世の中いくらでも会社があるし、ほとんどの会社が人手不足ですから、仕事はすぐに見つかります。全然大丈夫だからって、本当に思ってる。そういう当たり前のことをこれからも同じ疾患を抱えて悩む人たちに話したいし、伝えたいですね。

――“赤アザ”を持つ子の親御さんに対してはいかがでしょうか。

【石井】僕はいつも言うんですけど、「自分の家や会社から近い大病院三つに行きなさい」と。三つ行って治療費や、治療法を調べた上で、一番いいと思うところに行けばいい。もちろん何か副作用があるかもしれないし、傷跡が残るかもしれないけど、それも自分で考えて、選んでほしいと。顔の治療っていうのは家を探すのと似ていると思っているんです。家を買う時、予算はもちろん、将来の家族設計や利便性だったり、いろいろ吟味して決めるわけじゃないですか。顔の治療もいろんな病院で説明を受けて、何度も通って吟味した上で治療を決めるべきだと思っています。そういうことをちゃんと考えてほしい。今はレーザーや皮膚移植などさまざまな治療法があるからこそ、顔の治療をするというのは家を買うことと同じぐらい慎重であるべき。いろんな意見を聞いたほうがいいし、そこまでやってほしいです。

PROFILE/石井政之
「ユニークフェイス生活史」プロジェクトとして、ユニークフェイス当事者たちへの取材活動を行っている。自ら取材したり、原稿を寄稿してもらいながら、現在それらをまとめて1冊の本にすることを構想中。

撮影/徳永徹

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