移住20年のマーティ・フリードマン、日本の音楽シーンの特異性を語る「J-POPに誇りに持ったほうがいい」
ORICON NEWS / 2024年7月23日 8時40分
世界的メタルバンド・メガデスの黄金期に活躍したギタリスト、マーティ・フリードマンが日本に移住して今年で20年目となる。何の当てもなく単身移住した彼は、いまでは日本遺産大使も務めるほどに。日本の音楽シーンの特異性やJ-POPを愛してやまない理由、訪日外国人旅行客に対する思いも語った。
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◆訪日外国人には観光を楽しむだけでなく、日本の良さを自国に持ち帰ってほしい
──何の当てもなく日本移住を決めた20年前、当時はカルチャーショックも多かったのではないですか?
【マーティ・フリードマン】 トイレ専用スリッパに慣れるのに、10年くらいかかったかもしれません(笑)。アメリカではトイレでわざわざ履き替えたりなんかしないですからね。何より僕の場合、それまではスタッフがすべてお膳立てしてくれるような生活だったんですよ。銀行口座を開く、保険に入る、マンションを借りるとか、そういった“大人の世界の面倒くさいこと”をイチから自分でやるのは戸惑いの連続でした。
──しかも日本語で?
【マーティ・フリードマン】 はい。日本に住んでいる外国人って、だいたい自分の国の人とばかりつるむじゃないですか。でも僕は日本人としか付き合ってこなかった。それもあってか今では、日本語で夢を見るくらいですが、まだまだ日本通とは言い切れません。いまも毎日のように新しい発見があるし、日本は何年住んでいても飽きない国です。
──昨今は訪日外国人が非常に増えています。日本遺産大使も務められているマーティさんから日本の魅力を伝えるとしたらどんなことですか?
【マーティ・フリードマン】 世界中をツアーしてきた僕が確実に言えるのは、これほど治安の良い国は唯一無二だということ。僕は東京のいわゆる歓楽街に住んでいますが、夜中にコンビニに行くのに一切危険を感じたことがない。こんなに幸せなことってないですよ。訪日外国人には観光を楽しむだけでなく、日本がなぜこれほど安全なのかを考えてほしいですね。そして日本の良さを1つでもいいから自分の国に持ち帰ってほしい。世界平和の第一歩はそういうことだと思うんです。
◆世界でも類を見ない音楽ジャンルのJ-POPに、日本人はもっと誇りに持ったほうがいい
──マーティさんは20年にわたってJ-POPシーンで活動されていますが、日本と世界の音楽シーンにギャップを感じることはありますか?
【マーティ・フリードマン】 1990年代以降、HIP HOPやダンスミュージックがメインストリームになり、いまやアメリカのヒットチャートからは完全にギターの音色が消滅しました。アメリカは歴史の浅い国なので、音楽でも何でもトレンドに流されやすいんです。一方でJ-POPは、どんなにアレンジが現代的に進化しても、そこにはしっかりとギターのサウンドが息づいている。これは僕の持論ですが、三味線やお琴など音楽的にも歴史の深い日本人には、弦を激しくアタックする音色を好むDNAが組み込まれてるんじゃないかと思います。
──とはいえ、アメリカの音楽が世界中で聴かれている中、J-POPがグローバルで成功するのは難しい。K-POPアーティストが世界で活躍する一方、日本の音楽シーンは、他国と異なる音楽市場を生み、それ故にガラパゴス化しているように感じます。この違いはどこにあるのでしょうか。
【マーティ・フリードマン】 それはJ-POPがあまりにも音楽的に豊かな要素が詰まったジャンルだからです。例えば、Official髭男dismさんの「Cry Baby」は、本気で分析するとしたら学者が必要です。にも関わらず、日本人はごく自然に楽しんでいる。ビートに歌詞を載せただけのヒットチャートばかり聴いているアメリカ人だったら、頭がオーバーロードすると思います。これほどの音楽情報量を当たり前に処理できる「日本人の脳みそはどうなってるんだ!?」と驚きますよ。
──日本のものづくりは良くも悪くもこだわりが強いと言われます。先ほどマーティさんからトイレの話が出ましたが、ウォッシュレットも日本だから発明されたのではないかと。
【マーティ・フリードマン】 確かに流行る音楽には、その国の国民性が出ます。だけど日本には両極端あると思うんですよ。都会が世界一情報過多で忙しない一方で、田舎に行くと信じられないほどピュアで美しい風景が広がっている。だから日本人は複雑でハイカロリーな音楽も味わえるし、シンプルなメロディーのバラードも好むんじゃないかと思います。そんな両極端がきちんと共存しているのが、僕がJ-POPを愛してやまない理由です。とても奥深く、世界でも類を見ない音楽ジャンルであるJ-POPを、日本人はもっと誇ったほうがいいですよ。
◆ギターを奏でる楽しさと幸せを、1人でも多くの人に味わってもらいたい
――YOASOBIのように日本のアーティストが海外チャートでも活躍するにはどうしたら良いのでしょうか?
【マーティ・フリードマン】 とても難しい質問です。日本のアーティストが海外で成功するには、「運」に左右されます。かつてニルバーナが発掘した少年ナイフ、レディー・ガガがBABYMETALを、ピンク・マルティーニが由紀さおりさんのレコードを見つけたこと…これもすべて「運」です。一方でアニメ主題歌からの広がりはあると思います。ですが、日本語の壁がやっぱり大きいでしょう。
──昨年はメガデスの東京・日本武道館公演で、マーティさんとの競演がありました。日本のロックファンについてはどう感じますか?
【マーティ・フリードマン】 J-POPとギターサウンドの親和性が高いように、日本は世界的に見てもロックの土壌がしっかり根ざした国です。『ROCK FUJIYAMA』みたいなロック魂を思い切りセレブレートする番組なんて、世界中どこに行ってもない。それが実現したのも、日本人がどんな年齢になってもロックキッズのような若い心を持ち続けられる国民だからなのかなと思います.
──ロック界の大御所もたびたび出演してきた『ROCK FUJIYAMA』(テレビ東京系)は、世界のロックキッズからも評価が高いそうですね。
【マーティ・フリードマン】 そうなんですよ。テレビで放送されていたのは2006~2007年だったんですが、関連動画がYouTubeにアップされたことで世界中から「復活してくれ」というコメントが来るようになって。日本語もわからないのに、いかにこの番組がユニークかということがわかりますよね。2020年からはYouTubeチャンネルで配信しています。テレビバージョンから一緒にやってるROLLYさんや鮎貝健さんとは、ロックという共通言語でジョークも言い合えるし、真面目な音楽の話もできる。僕にとっては最高の居場所ですね。
──番組から派生したオンラインサロン『ROCK FUJIYAMA CLUB』ではファンとどのような交流がありますか?
【マーティ・フリードマン】 最初はみんなシャイですが、回を重ねるごとに「こういう企画をやってほしい」とかストレートな意見を言ってくれます。かと思えば「いつもは黒いロックTシャツなのに、なんで今日は黄色を着てるんですか?」みたいな意外な質問も飛んできたりして面白いです(笑)。YouTubeのコメント欄に書いてくれるのもうれしいのですが、全部は読めないですし、マンツーマンで語り合えるのがサロンのいいところです。まだ始まったばかりですが、今後はもっとファン同士の交流も活発になっていったらいいなと思っています。
──マーティさんが日本でタレント的な活動をされていることも、世界のロックファンを驚かせています。最後にこうした活動を通して伝えたいことを教えてください。
【マーティ・フリードマン】 僕の人生を変えたロックとギターの素晴らしさをたくさんの人に伝えたいというのが、タレント的な活動をしている何よりものモチベーションです。もしも僕にインスパイアされてギターを始める人がいたら、こんなにうれしいことはないですね。ギターを奏でる楽しさと幸せを、1人でも多くの人に味わってもらいたいです。
(文/児玉澄子)
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