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「感性による相互理解は言語以上の繋がりを生む」“奏でる”ことで音楽の本質に触れる 山野楽器 山野 政彦×オリコン 小池 恒 対談

ORICON NEWS / 2024年7月30日 9時10分

音楽への想いを語り合った株式会社山野楽器・山野 政彦社長(向かって左)とオリコン株式会社・小池 恒社長(向かって右) (C)oricon ME inc.

 “音楽の聖地”として130年以上に渡り東京・銀座四丁目に店を構える山野楽器 銀座本店。創業以来、東京の中心地から音楽文化を発信し続けている。音を奏でる楽しさはもちろん、レコードやCDなどを店頭販売にてユーザーに提供し続けてきた同社。他方で「ヒットの可視化」を推し進めてきたオリコンとは60年にも及ぶ深い関係値を構築してきた。家族ぐるみの付き合いもあるという株式会社山野楽器・山野 政彦社長と、オリコン株式会社・小池 恒社長が、音楽における「価値の創出」と「価値の本質」について語り合う。

【写真】音楽業界への想いを語り合う山野楽器・山野 政彦社長とオリコン・小池 恒社長

■音楽ランキング誕生秘話、「反対の声もある中、オリコンさんは情熱で音楽業界を牽引した」



――まずは、お2人の出会いからお話を伺いたいと思います。小池社長は先代の山野政光氏とも懇意にされていたと伺っていますが、どのような経緯があったのでしょうか

【小池 恒】確かに政光先代社長は僕もよく存じ上げていたのですが、どちらかと言えば先代同士、『オリコン』小池聰行と『山野楽器』山野政光氏が親しかったのです。先代・聰行が1967年ごろ、当時専務だった政光氏に「本当の人気をデータ化し、ランキングを作りたい」と情熱をたむけ、政光氏が2代目・省三社長に進言していただいた。この情熱に省三氏も心をうたれ全面協力をしていただくことに。全国のレコード店を組織化し、それが「太陽会」という調査店組織となりました。また、当時『山野楽器』は芸能事務所「山野音楽興業」を持っていて、オフィスを持っていなかったオリコンに事務所の一角を貸していただき、そこでランキング作成を行わせてもらうなどの支援もありました。そういう意味で弊社と『山野楽器』さんとは約58年前にまで遡るお付き合いなんです。

【山野 政彦】私たち2人が初めて顔を合わせたのは約30年前ですね。私の父親の政光に連れられ、初めて紹介していただきました。たしか小池さんが副社長になった頃でしたよね。しかも同い年(1965年生まれ)だったという…。

【小池 恒】そうですね(笑)。つまり「太陽会」会長を省三社長、政光社長、そして現社長の山野政彦さんと3代のお付き合いを経て、まさに家族ぐるみのお付き合いをさせていただいております。

――お2人のお付き合いも30年ということですが、ビジネスパーソンとして、お互いをどのように見ていらっしゃいますか。

【山野 政彦】昔から全く変わりません。すごく誠実で社会正義のために戦っていらっしゃる方という印象です。例えば、さまざまなランキング化にしても、なかには快く思わない方々もいらしたはずです。ですが、その勢力に負けることなく、「世の人のために重要な情報だ」と勇気を持って発信し続けてきた。

【小池 恒】正義と言っていただきましたが、『オリコン』には正しいデータを出していくというフィロソフィーがありまして、そう言っていただけるのは大変光栄です。僕から見ての山野さんはまず「情熱の人」です。東京・銀座という地価の高い場所でCDなどのソフトを売り続けて来られた。CDというのは値段が全国共通ですから、地価が高い土地でも値段は変わらない。そこでCDを売り続け、楽器や音楽教室なども展開していくのは、音楽産業にとって大きな貢献、功績だと思います。これは相当の情熱を持っていないとできないことです。

――トレンドやプラットフォームの移り変わりも激しい業界ですが、改めてコロナによるパンデミックからアフターコロナに至るこの5年間、音楽ジャンルにおいてどのような変化を実感されていますでしょうか?

【山野 政彦】まずコロナ禍ですが、ネットからではなく直接お店にいらっしゃって弊社の販売員たちとのコミュニケーションで情報を得ていた年配の方々のご来店は激減しました。結果、演歌や歌謡曲のCD売上は大打撃を受けました。これに関しましてはアフターコロナでも回復せず。といいますのも、コロナ明けで家族旅行をするなど、アウトドアな活動をする方が増えたんですね。お年を召した方々も同様で、演歌や歌謡曲を購入されていた方々のライフスタイルが変わってしまったことが見て取れます。

【小池 恒】一方でK-POPがトレンドになったり、ステイホームでライブもオンデマンドで閲覧する方が増え、サブスクサービスを登録する方の加速度も増しました。その流れから音楽の聴き方も大きく変わったと言えるでしょう。あと、これはコロナとの関連性は定かではありませんが、アニメ主題歌からのヒットも大きくなっています。またAdoさんのようなネット発の歌い手の流れもありますが、顔を見せずに売り出していくというのは過去にZARDもありましたし、これはコロナというよりは彼女のボーカリストとしての力量の凄さ、またそれに対するユーザーからのレスポンスが起こした現象として見たほうがいいと思います。

【山野 政彦】『鬼滅の刃』をはじめとする、アニメとのコラボレーションは増えましたよね。実は僕も『鬼滅の刃』は世の中が騒ぐ前からハマりまして(笑)。また、トレンドの流れで見れば、2022年の『SOFTLY』、『ユーミン万歳』、『いつも何処かで』の発売など、山下達郎さん、松任谷由実さん、桑田佳祐さんをはじめとする大御所アーティストの変わらぬ輝きを実感しました。あと日本の70年代シティポップブーム。竹内まりやさんの「PLASTIC LOVE」が再評価されたことも大きかった。コロナと音楽での最も大きな相関という意味では、イベントやコンサートの復活により、ライブ配信などでは感じることが出来なかった現実の感動がどれほどのものだったのかをファン、アーティストが再認識した5年間だったと思います。

―― 一方でコロナによる“おうち時間”の増加により、音楽との向き合い方にも変化が生じました。YouTubeなどの影響もあり、「楽器を演奏する」というマインドがより強まったと思います。

【山野 政彦】おっしゃる通りです。星野源さんのステイホームのギター演奏動画などもあり、アコースティックギターや、ウクレレ、電子ピアノなど、自宅で一人で演奏できる楽器の売上が爆増しました。YouTubeもコロナ禍で非常に活性化し、マイクやオーディオインターフェイスなど音響機器、同時に防音室も併せてお求めいただきました。ただ、管楽器は飛沫が飛ぶということで売上が激減しました。ギターと電子ピアノとの売上で相殺されましたが、コロナ禍で管楽器を製作していた方々の仕事がなくなり、その技術が違う方面へと流れるという現象も起こりました。これはアフターコロナでも改善しておらず、管楽器自体の需要は戻ってきても製作する職人がおらず、需要と供給のバランスが崩れている状況です。管楽器の消失を防ぐためにも、早急な対応が必要です。

――先ごろ、今年の7月いっぱいで山野楽器 銀座本店でのCD、DVD/Blu-rayの販売を終了すると発表されました。各メディアでも記事化され、中にはネガティブな記事もありましたが、ある種の英断との声も多くありました。改めて、今回の発表についての真摯な想いをお聞かせください。

【山野 政彦】正直に申し上げて、コロナ禍以降銀座本店におけるCD販売事業は赤字が続いておりました。しかしながら、例え赤字でもCDをお求めになるお客さまに喜んでいただきたくて、CDの商売を続けてまいりました。それだけでなく、以前、この社長室に竹内まりやさんと山下達郎さんが来訪された折に「お2人が歌う限り、ここでCDを売り続ける」とお話したことがあったんです。その際お2人には「じゃあ私たちも山野さんが銀座でCDを売り続ける限り歌い続けます」と仰っていただきました。その気持ちに応えたくてCD販売を銀座で、できる限り続けていきたいと思ったりもしました。ですが、これ以上は経営上、続けていくべきではないと判断いたしましたので、断腸の思いで銀座本店におけるCD販売をやめる決断をいたしました。その結果、僕たちは社員含め、皆、「できるところまではやった」と胸を張っています。悔いはない。社内からも「もっとやりましょう」の声がないほど、「やりきった」という想いです。

【小池 恒】繰り返しになりますが、そもそも銀座四丁目という立地で、ここまでCDを販売し続けられたのは、とてつもなくすごいこと。おそらくレコード店というくくりで見た場合、坪単価や賃料が最も高いのが山野楽器 銀座本店になる。つまり、最も音楽やCDの売上に貢献してきたとも言えるのです。山野社長から事前に販売終了のお話を伺った際、「とてもすごいことだった、こんなに大きな貢献はない」とお伝えしたことを覚えています。

【山野 政彦】その言葉がとてもうれしく、ホッとしました。これからも双方、音楽業界で仕事をし続けるわけですから、次のフェーズへ進むためのプラスに捉えることができた。また、ユーザーの方々からも音楽パッケージの販売を長く継続してきたことに感謝の言葉を多くいただけました。アーティストの方々からも「あこがれの場所であり思い出の場所」といった言葉をいただきました。多くのアーティストがレコードデビューをした際、銀座本店でイベントを開催していたからでしょう。

――創業以来、130年以上に渡り、日本を音楽の喜びで満たすために事業を継続されてきました。その思いは今秋に山野楽器 銀座本店にオープンする「Ginza Guitar Garden」にも大きく反映されていると思われます。また、今年で55回目を迎える「ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテスト」を筆頭とした各種の主催音楽イベントも同様です。それぞれのお取組みへの思いを改めてお聞かせ下さい。

【山野政彦】「Ginza Guitar Garden」はワークショップがいつも開催されているような体験型のフロアにしたいです。これからは音楽を聴くだけではなく、自分で奏でる喜びをより多くの方に伝えていきたい。ギターに精通している方だけでなく、これから演奏を始める初心者の方に向けても広く展開したいな、と。楽器を演奏することで教養を得ることができ、それがさまざまな出会いにも繋がっていくと思います。

【小池 恒】専門の楽器店だと敷居が高いですが、「Ginza Guitar Garden」のような試みで、そのようなハードルを取り除いてあげるのはとても正しい向き合い方だと思います。おそらく多くの方が、潜在的に自己表現として楽器を弾きたいと思っていらっしゃるはず。山野さんが仰るように、古代ギリシャ時代から教養としての音楽の演奏や知識は存在していました。それは現代にも生きており、日本の楽器演奏人口が増えることで、文化的に日本がさらに向上していくはずです。

【山野 政彦】感性による相互理解というのは言語でのつながり以上のものがありますから。また、現在もたくさんのメロディがありますが、アレンジ次第で聴かれ方も変わってくる。アレンジにおいても楽器は重要です。毎年開催している「ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテスト」は学生ビッグバンドの甲子園と言われ続けてきていますので、やめるわけにはいかない。また実際、さまざまな業界で「ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテスト」に参加した方々にお会いできるのも感慨深いです。

【小池 恒】「ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテスト」に出演した方々が、その後に音楽業界や放送業界などに歩を進める。エンタテインメントの登竜門としても、すごく重要な場を提供されていると思います。

【山野 政彦】これからも音楽人口を増やしたい。音楽で喜んでもらいたい。そんな時にオリコンさんといろんなことができたらうれしく思います。

【小池 恒】こちらこそ。弊社が正確なデータを出し続け、過去のデータで現状を俯瞰できるよう、山野楽器さんとは今後も協力体制を構築していきたいと思います。お互いに来年還暦になりますので、メモリアルになるようなことができたら嬉しいですね。

(取材・文/衣輪晋一)

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