電子コミック20年の歴史、厳しい黎明期に端緒を開いたのは本宮ひろ志『サラリーマン金太郎』だった
ORICON NEWS / 2024年8月13日 9時10分
8月16日は電子コミックの日。手元のデバイスでマンガを読むというライフスタイルは今や当たり前となり、マンガ市場の7割を占めるまでとなった電子コミック。しかしかつては「電子コミックはマンガ文化を壊す」と危ぶむ声もあった。その突破口を開いたのは、とある大御所マンガ家だった!? 電子コミックとマンガ業界が、いかにして共存共栄の道を歩んできたのか。業界の草分けであるコミックシーモアの立ち上げメンバーに、電子コミック20年の歴史を証言してもらった。
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■docomoのiモード、3G携帯、パケホーダイ…、「ケータイでマンガを読む」障壁なくなった2000年代
日本人はマンガが大好き。スマホに複数の電子コミックサービスやアプリが入っている人も少なくないだろう。とはいえ、老若男女がより日常的にマンガに親しむようになったのは、「スマホでマンガを読む」というライフスタイルが定着してからのようだ。
事実、1995年をピークにマンガ市場は長らく微減が続いていた。回復し始めたのは2014年のことで、これはスマホの急激な普及と重なる。その後は年々プラス成長を遂げており、2020年以降は4年連続で過去最高を更新。その7割を電子コミックが占めている。
そもそも、人はいつからマンガを紙ではなく電子で読むようになったのか。今年で20周年を迎えるコミックシーモアに、電子コミックの黎明期について聞いた。
「世界で初めてマンガのダウンロード販売が行われたのは1995年1月。現在は、国内である電子書店がPC向けにマンガを扱うようになったのがその始まりです。当時すでに携帯電話(ケータイ)は普及していましたが、マンガは画像が細かく、ページ数も多いため、通信速度の遅いケータイにマンガをダウンロードするというのは現実的ではありませんでした。当時はパケ死(※)というワードも時事用語になりましたね」(コミックシーモア・奥田茂さん)
一方、携帯端末でマンガを読むトライアルは少しずつ始まっていた。
「当社では最初、街頭に設置した『Foobio(フービオ)』という端末からPDAにコンテンツを配信するという事業にトライしていましたが、PDAの普及低迷もあってかうまくいきませんでした。しかしゲームや音楽、テキストといった配信コンテンツの中でもマンガに対するユーザーの反応はよく、『手元の端末でマンガを読む』というニーズは確実にあると実感しました。そのプラットフォームとなり得ると考えたのが、1999年2月に始まったdocomoのiモードです」(コミックシーモア・多田知子さん)
2002年には、ケータイの通信速度を飛躍的に高めた世界初の3G携帯がdocomoから発売。2004年6月には定額通信料サービス・パケホーダイが始まり、ケータイでマンガを読むことへの障壁はなくなった。そして2004年8月、いよいよコミックシーモアの前身サービス「コミックi」が始まる。
※従量課金制の携帯電話でパケット通信(メールやネットなど)を使いすぎ、料金が高額になってしまうこと。現代の「ギガ死」とは異なる意味のネット死語。
今や業界最大級のラインナップを誇るコミックシーモアだが、サービス開始当初に配信されていたのはわずか22作品だった。
「当初は作品配信を許諾していただくために出版社さんを1社1社回ったのですが、反応は芳しくありませんでした。紙のマンガが主流だった時代、出版社さんとしては電子コミックに慎重にならざるを得ない事情もあったと思います」(奥田さん)
そんな難しい状況の中で、電子コミック躍進の端緒となったのが、マンガ界の巨匠・本宮ひろ志先生。当初の配信作の半数以上が、『サラリーマン金太郎』や『俺の空』、『男一匹ガキ大将』といった、本宮ひろ志先生作品だったという。
「本宮ひろ志先生は、Foobio事業の頃から電子コミックに興味を持ってくださっていたんです。そんな中、あるイベントで本宮ひろ志先生のプロダクションの方と出会い、配信に向けて前向きな話が進みました。初期の配信タイトルの多くは、本宮先生がご紹介してくださった作家さん経由で配信許諾していただいたものでした」(奥田さん)
■「見開きをコマにカットするなんて」、反対よそに地道な手作業
一方、出版社の許諾が進まなかった要因の1つは、ケータイの仕様にもあった。
「電子はまだしも『ケータイのあの小さい画面でマンガが楽しめるわけがない』と思われたようです。実際、ケータイの画面は限られていますから、コミックiではコマを切り分けて1コマずつ見せる方法を取っていました。しかしこれも、見開きのマンガをコマにカットすることを理解していただくのには時間がかかりました」(奥田さん)
もちろん、ただ闇雲にコマをカットしていたわけではない。コミックシーモア内で専門の職人集団が手作業で切り分けた“ケータイマンガ”は、1コマずつでも読みやすさや効果音など作品の醍醐味が存分に味わえるよう工夫されていた。そこに溢れるマンガ愛は読者も感じ取ったはずだ。
「売上も少しずつ上がるようになり、それと共に出版社さんも少しずつ理解を示してくださるようになりました。小学館の『闇のパープル・アイ』など少女コミックや『北斗の拳』などアニメ化作品の配信も始まり、爆発的に売上が伸びました。この頃からコミックi公式サイトは、iモードやEZwebのランキング1位の常連になり、iモード公式サイト79ヵ月連続1位、EZweb302週連続1位と大きく成長しました」(多田さん)
サービス開始2年後には累計5000万ダウンロード、5年後には5億ダウンロードを達成している。それまでなかった電子コミック市場がわずか数年の間に飛躍的に成長した要因には”秘匿性”と”気軽さ”もあったようだ。
「最初期には『金瓶梅』『すんドめ』『ふたりエッチ』『罪に濡れたふたり』といったセクシャルな要素を含んだ作品が売れていました。紙の本では手に取りづらいけれど、個人所有の端末なら気軽に読める、そうしたニーズとマッチしたところもあったと考えられます。また、それまで主流だった紙のコミック雑誌とは異なり、電子コミックでは、気になった作品を気軽に読めるので、ジャンルの垣根を超えて作品単位で多様なマンガを読めるのも電子コミックがユーザーに歓迎された理由でした」(多田さん)
やがてデバイスはスマホに変わり、電子コミック市場はさらなる成長を遂げた。画面が大きくなり、表現の自由度も高まったことから、電子コミック発のヒット作も続々誕生している。電子コミックがマンガ文化を壊すどころか、マンガ文化の発展にも寄与することが証明された形だ。今や出版社と電子コミック業界は、共存共栄の道を歩んでいる。その道なき道を開拓したコミックシーモアの功績は大きい。
(文:児玉澄子)
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