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『海のはじまり』エグいせりふ&過酷描写の理由は「偽りのヒューマンドラマにしないため」識者が解説

ORICON NEWS / 2024年8月13日 13時30分

忍耐強く現実を見据える主人公を目黒蓮が熱演する『海のはじまり』

 9人組グループ・Snow Manの目黒蓮が主演を務める、フジテレビ系“月9ドラマ”『海のはじまり』(毎週月曜 後9:00)は、衝撃の展開に驚きと感動の声が寄せられた第6話を経て、第7話が12日に放送。いよいよクライマックスへと物語が大きく動く。主人公の人生の変化を丁寧に描く同作の「前半」を振り返りつつ、ポップカルチャー研究者の柿谷浩一氏(早稲田大学招聘研究員)に解説してもらった。

【写真】「泣かされっぱなし」『海のはじまり』第7話は号泣シーンも…

■「意味を一つにしない」生方脚本の真骨頂

 予期しない妊娠、中絶・出産の決断と苦悩。1話からモチーフは重苦しい。その辛苦を安直に乗り越え解決するのとは違う「昇華(消化)」で、凄まじい感銘を与えたのが6話。水季(古川琴音)の出産決意の真相を描いたラスト。お腹の子を堕ろそうとする彼女にストップをかけたのは、中絶を選んだ弥生(有村架純)が産科のノートに記した言葉だった。



 夏(目黒)の元恋人で海ちゃん(泉谷星奈)の母の水季と、現在の恋人で海ちゃんの新しい母になろうとする弥生。そんな2人の予想を超えた運命的なリンク。「子どもがいたら今の生活はないし/月岡くんとも付き合ってない」という弥生のせりふのように、彼女の中絶がなければ、水季の出産はなかった。海ちゃんもいなかった。中絶は間違いでも正解でもない。そんな強いメッセージを従えながら物語は、弥生の過去と抱え続けた想いを、別の人間の勇気へ、新たな命へ接続して導き描いてみせた。

 事実を本人同士も知らない中、それで苦しみが消えるわけではないが、弥生の生き方と運命を力強く肯定し、自他共に〈救い〉となる秀逸な描き方で圧巻だった。

 また本作の特色で、『silent』(2022年/フジ)を手がけた生方(美久)脚本の真骨頂は、意味を一つにしない場面構成。インパクトから水季/弥生ばかりに目が向くが、思い留まった水季が産む決意を固めるのは自分の母子手帳を読んで。つまり彼女に影響を与えたのは母でもあった(そしてさらにたどれば、母子手帳を手渡し読むのを勧めたのは父)。

 複数の人の想いがそっと交錯し重なって、進む道が定まる。どんな人も人生も命も、決して一人の意思でなく「誰かの想い」に陰ながら支えられ、助けられて進む。そんな世界の真理をワンシーンに凝縮して、感動が深かった。弥生の中絶の罪悪感、水季の母の不妊治療の末の出産ゆえの複雑な親心。そうした「背負うもの」にも〈光〉の差す一瞬がある。妊娠・出産をめぐる女性の宿命劇を突き詰め描きつつ、その「悲壮の中のわずかで瞬間の、だからこそ確かで力強い救い」を巧みに描く。訪れ来る〈一点の救い〉に祈りをこめるような、鋭くも思慮深い劇作りだ。それに観る側も、困難を抱えても生きようと思えるパワーを与えられ救われる感じだった。

■忍耐強く現実を見据える主人公、目黒蓮が熱演

 せりふも所々苦しいほどエグい。「夏くんは産むことも堕ろすこともできないんだよ」(水季)、「妊娠とか出産しないでも父親になれちゃう」(水季の母)、「産むのも堕ろすのもその子」(夏の母)。母親が抱きうる“グロテスクな心情”が忖度なく表現されて生々しく強烈だ。

 そんな真理をつく発言に、夏は返す言葉がない。追い込まれ残酷すぎるようにも映る。でも、その重い言葉を真摯に受け止め、忍耐強く現実を見据えていく姿が、本作の柱の一つ。

 3話ラストに浜辺で語るように、夏は子どもの認知や育児を分かったふうにして「簡単に決め」てはいけないと考える。母親目線の言葉から問われる「父(になること)の意味」。それに納得できる答えを見つける。そのために逡巡し続けることが、彼なりの責任のかたち。相手に合わせてしまう意志の弱い性格は煮え切らない面もあるが、そんな彼だからこそ、父親としての自負を確立するために自らに課す“信念”には強い芯が感じられ、それに向かう不器用で誠実さにあふれた地道な歩みが、胸に沁みる。

 夏の「父」を引き受ける消化の早さ、抵抗の少なさに疑念を抱く意見もある。でも厳密には違う。彼は法的なことを含め、まだ「父」になっていない。父親だったことが判明してスタートする作品だが、あくまで進んでいるのは「父になる前」の物語。彼が決めたのは、海ちゃんと一緒にいる(そして知らない過去を知ろうとする)ことぐらい。その中で、父親としての「練習」を一歩一歩重ねてゆく。その「長い助走」を急がず丹念に描いているのが長所。

 責任感や使命感もあるだろう。でも前半部は、何か具体的な決断をめぐる葛藤ではなく、「いろいろ考えているようです」という水季の母のせりふ通り、徐々に芽生える親心を確認しながらの試行錯誤を愚直に描いた。そのシンプルでまっすぐな長い道のり。そこで証明されてゆく、父の資質にも見合う彼の温かみや優しさ。その時間をかけた実直な展開が胸にひたひたと迫る。

 過激でキツい描写も多い。「殺した」と表現する中絶の過去語り、水季を支えた“もう一人のパパ”津野(池松壮亮)をめぐる疎外感の衝突…。そんな中、母の死から目を逸らす海ちゃんに夏が「なんで元気なふりするの?」と厳しい現実を突きつける3話の場面は、前半でも印象深い。そこでの一連の言葉は幼い子には辛辣だが、夏は要領の良い大人(父)を演じられない。本音ありのままに体当たりで心配する。そのさまに海ちゃんの心は決壊し、彼に抱きつき号泣する。要所にある「痛みを伴う描写」の多くは、身勝手な感情爆発というより、そうするしかない人間の極限の姿。テーマ・せりふ・描写シーンの強烈さは「偽りのヒューマンドラマ」にしないためだ。

 とりわけ「親子」、それも過酷な背景を持って一から構築を始める関係では、キレイ事で済まないことも多々。次第に距離を縮める親子の光景など、心温まる場面もたくさんある反面で、時に“毒”や“痛み”を伴うのも躊躇せず、父と子の絆と信頼が真正面から追求されている。その意味で、物語序盤でしんどいという印象だけで作品を離脱した人にも、ウソのない人間模様をぜひ観てほしい。

 そんな息苦しくもある物語で重要な推進力になっているのが、海ちゃんの突き抜けて明るい愛らしさ。もう一つが「回想」の質感。同じ制作陣による『silent』同様、良い意味で回想部に回想らしさがない。回顧する過去も、現在と同じ解像度の映像(美)で描かれている。

 そこで特筆すべきは、「水季の死」をめぐる悲嘆や喪失感をあまり感じない前半だったこと。彼女の遺影もしばしば映り込むが、水季は死んでいるというより、むしろ作品世界の中で、夏や弥生たちと「共存」している不思議な感触が漂った。それほど回想の生前の像が活き活きして力がある。「母の死後の物語」のはずだが、夏が父になるのも、弥生が母になるのも、どこか生者/死者を超えた共同作業のようなテイスト。その趣が、重苦しい劇を前向きに「生」の色で彩って支えてうまいのも本作の特色。

 死の実感が抑制されてきただけに、最新7話で描かれた「水季の死の報せ」と「納骨」のエピソードは悲哀を深くして、強烈で怒涛だった。

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