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「インフラの状況は想像よりも深刻」貧困格差が社会問題化している、ベトナム山岳地域の現状

ORICON NEWS / 2024年9月2日 20時10分

ベトナム山岳地域の子どもたち

 日本では独自の給食文化が発展し、質の高さ・価格の安さ・食育の面で世界から高く評価されている。ベトナムでは、近年国全体の急速な経済成長を続ける反面、都市部と農村部で格差が広がっており、特に貧しい山岳地域の子どもの2人に1人が栄養不良の状態にある。幼稚園給食の設備が整わず、給食を食べなければその日の食事をとることすら難しく、子どもの健康や様々な問題に直面している。山岳地域のトアンザオ郡トアンザオ地域で、直接的な健康・栄養に関わる支援活動に取り組む、森永乳業 海外事業本部の齋藤千文さんは「水は十分でなく供給が不足していますし、トイレの状況も悪い。インフラの状況が想像よりも深刻であることに衝撃を受けました」と現地の状況を振り返る。同社が海外において支援先まで帯同し、直接的な健康・栄養に関わる支援を行うのは“社内初”のことだという。



【写真】ベトナム仕様となった、脂肪ゼロヨーグルト、育児用ミルク、栄養補助飲料

■社内でも例のないプロジェクト、現地の知見から「新しい事業を生み出す可能性」

 森永乳業の育児用ミルクの本格的な海外進出の歴史は40年以上前に遡り、パキスタンやインドネシアへの輸出事業から始まった。その他にも乳原料事業、菌体やプラントベースの輸出、現地に合わせた商品の開発など、今や世界各地で事業を展開しているが、齋藤さんが海外事業本部に着任したのは2015年。育児用ミルク事業、欧州での乳原料BtoB事業がメインとなっていまいしたが、海外事業をさらに飛躍させるため、“BtoC事業の強化”を進めていこうとしている時期だった。

「国内での主要BtoC事業を海外でも成功させるために、代理店を通じての現地販売だけではなく、現地の会社を子会社化して、当社が主体となって事業を強化していこうという方向転換がありました。そこで海外事業を注力する重要国ベトナムでは、子会社化を進め、現在は現地に3社子会社があります。育児用ミルクが中心だったところから、現在は多様な日本での長年の実績、研究成果、技術、独自性を活かし、ベトナムにおいて企業価値の向上、森永乳業ブランドの商品を海外で販売・製造し、健康栄養を重視した商品を通じて生活者への貢献を継続していこうと進めているところです」

 同社ブランド商品の製造・販売が検討されていく最中、より注視すべきと同社が考えたのが事業展開国ベトナム山岳地域の子供の健康・栄養に関する社会課題だ。ベトナムは近年、国全体の経済的発展が著しい一方、都市部と地方との格差が広がっている。子どもたちの栄養源は幼稚園で提供される1日2回の給食が頼りで、調理施設の衛生環境や栄養に関する知識においても課題が山積みの状況だという。

 そこで昨年5月から同社が取り組んでいるのが、ベトナム山岳地域における幼稚園給食の支援(プロジェクト名:Smiles & Health for Children)だ。その事業地となるディエンビエン省トアンザオ郡は、首都ハノイから北西へ570kmの場所に位置し、貧困率は50%と高い。子どもたちの健康的な食と栄養の確保や、教員・保健スタッフの栄養・衛生に関する知識向上やスキル強化は急務であり、直接的な支援が必要だと現状を判断した斎藤さんのチームは、同社では初となる海外での健康・栄養改善支援の取り組みを実施するため、社内外の調整に奔走。当初は多くの資金を投資して支援することに疑問を呈する声もあった。

「もちろん企業というのは事業主体であり利益を生み出すところですし、『やる意味があるのか』という声もありました。しかしベトナム現地の社会課題に目を向け、生活に寄り添い、当社の事業範囲を超えて社会へ貢献する中で得た知見が、地域社会から支持を受け、事業の発展につながること、また当社の新しい事業を生み出したり、イノベーションを促進していく可能性もあります。現地の人々にブランド全体の信頼感高めていける取り組みです。当社にとって社会価値があり、中長期視点で重要な取り組みであることを説明し続けて、ゴーサインをいただきました」

■現地を訪問し沸き上がったモチベーション「日本の本社にいても、現地の状況がどうなっているかは分からない」

 取り組みが始まった当初、現地の支援先幼稚園にはガスコンロもなく薪を焚いて給食を作っていた。そこから給食を作る施設、食べる場所を整え、お皿などの備品も新しいものに刷新。学校のスタッフや保護者向けに、基礎的な栄養・衛生に関する知識をまとめたハンドブックを作成し、配布するなど栄養教育の活動にも取り組んだ。そして今年4月、給食施設が出来上がったタイミングで齋藤さんを含めた日本とベトナム現地関係会社から役員を含め当プロジェクトメンバーが初めて現地を訪問し、給食支援の寄贈式典を挙行した。帯同することで、支援への意義やモチベーションが上がり、現地の人々のニーズも知り得ることができた。

「トアンザオ郡の人々は本当に子どもを大切にしていて、宝だと思っているんです。その日の式典、子供たちとの交流会にも多くの子どもたちの他、家族の方も参加くださり、事業を展開する国であっても都市部では感じられない、地域でが抱えている課題を如実に感じることができました。ただ厳しい状況の中にも子どもたちや親御さんの幸せ、喜びを感じる無垢な優しい笑顔がとても心に響き、この支援取組を継続し広げていくことに意を強くしました。

 日本の本社にいても、現地で何が起こっているのかとか、生活者の嗜好、実際の商品や市場がどうなっているのかってわからないんですよね。だから現地で働いている人の視点だったり感想はすごく重要なんです。本社の中でも地域の人々から得たことをメンバーで共有しながら、ただプロジェクトを走らせるのではなくて、本当に現地に必要なこと、課題解決に取り組んでいこうということはよく話しています」

 施設が完成したとはいえ、まだまだ課題が残る現状にショックを受けた部分もあったという。

「水の供給は十分ではなく、トイレの状況も悪い。写真や動画で状況を把握していたつもりでいましたが、インフラの状況が想像よりも深刻であることに衝撃を受けました。それにトアンザオ郡には電気のインフラは十分でなく、チルド製品を流通させる手段がないので、チルドの牛乳やヨーグルトといったものを入手することは難しく、食べる機会がほとんどないのが実情です。ですので、幼稚園の子どもたちも日本の子どもに比べたらかなり小さい。そこにもたいへん驚きましたし、これからも支援を続けていきたいと強く感じました」

 海外事業本部としてはサステナビリティ活動だけでなく、事業としても好調に推移。2019年に掲げた「2029年3月期までに『海外売上高比率15%以上』を達成する」という目標も今年3月期の決算では11%まで到達した。

「当社の海外事業は、事業展開国、事業範囲を着実にを拡大しています。やはりどの国でも同じ商品が売れるわけではないので、当社のブランドのそもそもの豊富な商品展開と、発売してからもその国のニーズに合わせた商品設計や風味などを調節する細かい改良の継続が結果に繋がっていると感じています。今後も当社の独自性を活かし、健康・栄養に貢献する商品ラインナップをお届けすることで、今後の成長が見込めるベトナム市場における事業の強化を目指しています」

取材・文/原智香

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