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山田尚子監督、新作映画『きみの色』言語化できない感情と真摯に向き合うきっかけに

ORICON NEWS / 2024年9月5日 8時30分

映画『きみの色』山田尚子監督(撮影:たむらとも) (C)ORICON NewS inc.

 数々の社会現象を巻き起こしたテレビアニメ『けいおん!』(2009年)の監督を務め、『映画けいおん!』(11年)で長編アニメーション映画監督デビュー。長編映画3作目の『映画 聲の形』(16年)は、累計動員177万人、興行収入23億円を突破する大ヒットを記録。何気ない日常を瑞々しく描く映像センスが国内外から高く評価され、手がける作品が常に注目を集める山田尚子監督の新作映画『きみの色』が、8月30日より公開されている。

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 『けいおん!』以来、山田監督が得意としてきた「音楽×青春」の物語。今を生きる思春期の少年少女が抱える秘密や悩み、繊細で傷つきやすい心を、音楽とともに丁寧に描いた。山田監督は鑑賞者に「うまく言葉にできなくてもいいので、自分で感じて受け取った気持ちを肯定してもらえるといいな」と願う。



 主人公は、子どもの頃から人が「色」で見える女子高校生の日暮トツ子。ある日、同じ学校に通っていた美しい色を放つ少女・作永きみと、音楽好きの少年・影平ルイと知り合う。それぞれ誰にも言えない悩みを抱える3人は、トツ子のひと言により、バンドを始めることに。音楽で心を通わせていく3人のあいだには、友情とほのかな恋のような感情が芽生えていき…。やがて訪れる学園祭、初めてのライブ。観客の前で見せた3人それぞれの「色」、3人にしか出せない「音」が会場を包み込む。

 本作が生まれるきっかけの一つに、「思春期まっただ中の甥っ子」の存在があったと山田監督。「思春期の鋭すぎる感受性は変わらないものの、今の若い人たちの心はより繊細で、言葉の選び方も丁寧。人への配慮の仕方とか、いろんなことをよく考えているな、と。たくさんのレイヤーがかかって、本音が見えにくくなっているように思いました」。

 SNSが普及して、所属する集団や接する相手によって、“付与されたキャラ”を演じたり、自分自身でキャラを使い分けたりすることも、当たり前のように行われている。

 「今の若い人たちは、場の空気を敏感に読み取って、見せたい自分と本当の自分とのバランスを無意識にコントロールして、やりくりしているように思いました。○○キャラとか型を作ってしまって、その型にうまくハマれない自分が嫌になったり、型にハマっていることが窮屈に思えたり。型なんてじつはどうでもいいものなのに。何者にもカテゴライズされないことの尊さ、どんなあなただって魅力的だ、といったことを伝えられたらと思いました」。

 人が「色」で見えるトツ子の世界は「色」であふれているが、その色は「絵の具の色とは異なり、混ぜると白になっていく光の三原色。言葉で言い表せないもので、トツ子の場合は“色”だけど、第六感みたいなもので感じている人もいるかもしれない。それくらい感覚的なもの」。だからほかの人に理解されないことも多く、いつしか「色」のことを話せなくなった。それが彼女の秘密であり、自分の「色」だけが見えないことが悩みだった。

きみは突然学校を辞めてしまい、そのことを同居する祖母に打ち明けられずにいた。校則を破って退学させられたわけでもなく、祖母への反発というわけでもなさそうだ。心の中のコップの水があふれてしまったということなのか、理由はよくわからない。本人すらわかっていないかもしれない。

 「きみは、自分のことを話さない、話せない子だったんじゃないかな。だから、突然学校を辞めた理由に誰も見当がつかない。きみ自身、辞めたことを周りに悟られないくらい静かに消えたいと思ったんだと思う。だから、そっとしておいてあげたいと思って、物語の中でも追及しないことにしました」。

 ルイは離島に住んでいて、母親に家業の病院を継ぐことを強く期待されている。そのための勉強もちゃんとしているが、本心では好きな音楽の道に進みたいという思いもあり、トツ子の「バンドをやりませんか」のひと言に飛びついた。

 繊細すぎる3人だが、「自分の足りない部分だったり、自分に自信がない部分だったりを人のせいにしない子たち。やわい子たちですが、芯は強くて、他人を大切にできる子たちです」。

 そんな3人が出会って、思いがけずバンドを始めることになる奇跡。互いに交わることで起きる小さな変化が描かれていく。脚本は『けいおん!』シリーズ以降、幾度となく山田監督とタッグを組んできた吉田玲子氏。「ささやかながらも幸せな作品世界にしたい、というのが通底している思い。しんどいことの方が多い日常の中で、映画を見ている時間ぐらいは、自分を許せたり、優しい気持ちになれたり。そんな作品を作っていきたい」と語る。

 鑑賞者にはレイヤーを取っ払って自分の心のままに感じてほしいと言う。「映画を観て、泣けたとか、感動したとか、共感できたとか、言語化しなくていい。何だかよくわからないけどしっくりきた、とか。あまりピンとこなかったでももちろんいいので、自分で感じたこと、受け取った気持ちを、まず自分で肯定してもらえるとうれしい」。

 本作の魅力の一つが、3人が奏でる音楽。担当したのは、『映画 聲の形』以降、『リズと青い鳥』(18年)、テレビアニメ『平家物語』(22年)と、山田監督の作品を音楽で彩ってきた牛尾憲輔氏。アニメ・実写を問わず多彩なサウンドトラックを手がけ、先鋭的にして静ひつなサウンドが高い評価を集めている。

 「牛尾さんには、楽器を始めたばかりのトツ子たちでも演奏できるようなシンプルで、なんか良いな、と思ってもらえるような嘘のない音楽を作ってもらいました。作品世界の中で嘘のない音楽になっていると思います」と手ごたえは十分。今後も、音楽を奏でる作品を作っていきいと意欲をみせる。

 「私は楽器の演奏ができないので、演奏したり、曲を作ったりしている方にあこがれと尊敬を持ち続けているんです。どうやって演奏しているのか、演奏中どんな気持ちになるのか、とても興味があります。作品の中で、ギターを弾くシーンがある…となれば、プロの方にいろいろ教えてもらう大義名分ができる。それが楽しくて、描きがいを感じます。これからも音楽とはずっとつながっていたい」と話していた。

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