「なあに、かえって免疫力がつく」ってホント? パリ五輪“セーヌ川・大腸菌問題”を例に内科医に大真面目に聞いた
ORICON NEWS / 2024年10月31日 9時10分
少し前になるが、パリ五輪のトライアスロン会場となったセーヌ川の大腸菌汚染が取り沙汰されたことを覚えている人もいるだろう。選手の身を案じる声が集まるなか、中には“レース前からトイレで手を洗わず、大腸菌に慣れておくという珍妙な対策をした選手もいたようだ。こうした状況に日本のSNSやWEB掲示板では、「なあに、かえって免疫力がつく」などと揶揄された。この言い回しはネットミームのように使われる言葉だが、実際そうしたことはあり得るのか? 大真面目にクリニックフォア内科専門医に聞いてみた。
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■まったくの嘘ではない? だが「セーヌ川で大丈夫でも道頓堀に飛び込んで無事とは限らない」
――「なあに、かえって免疫力がつく」というネットミームは、不衛生なことなどをした場合に無理にポジティブに肯定する、わかっていて揶揄するように使います。たとえば「1週間経過したカレーを食べる⇒なあに、かえって免疫力がつく」など、「それはないだろ!」というツッコミ待ちのような…。ズバリお聞きしますが、「なあに、かえって免疫力がつく」というのは本当なのでしょうか?
「これはですね、答え方はすごく難しいですけど… “やや本当”です(笑)」
──本当なんですか!?(笑)。
「感染症などにかかると、一過性の免疫がつく可能性はあるので…。ただ、もちろんネットミームをそのまま信じるのは危険です。セーヌ川を例に挙げるならば、一度その川にいる大腸菌に感染すれば、免疫がつくことはあるかもしれません。ただ、セーヌ川の大腸菌が一種類とは限らない。大腸菌も種類が多いので、次は違う大腸菌に感染する恐れもありますし、セーヌ川で大丈夫だからといって道頓堀に飛び込んで無事とは限らない。すべての大腸菌への免疫がつくわけではないという意味では、単なるジョークとして捉えるのがいいと思います。一部の菌について免疫がつく可能性はゼロではないので、まったくのウソとは言えないというだけです」
――なるほど。
「大腸菌は口から入ると胃腸炎をおこしやすくなり、嘔吐や腹痛、下痢、血便などの症状に見舞われます。また、膀胱炎など泌尿器系のトラブルを引き起こすことも。男性もありますが、とくに女性は注意が必要ですね。セーヌ川の例でも、このような曝露が予想されます」
――ちなみに素朴な質問なのですが、曝露すると免疫がつくというところで…。大腸菌は誰しも持っているじゃないですか。自分の持つ大腸菌が自分を攻撃してくることはないのですか?
「あります。腸内の大腸菌は本来は無害な種類ですが、悪さをするシチュエーションとしては、腸の病気で内壁が弱くなっていたり傷があったら、そこから入って“膿瘍”という塊を作ったり、それが血液に入ってトラブルを起こしたりもします」
――つまりは、自分の大腸菌だろうが外からだろうが、トラブルを起こすと。
「可能性はあります。自分の大腸菌だから免疫があるとか、それで常に大丈夫とは言えないです」
──免疫を過剰評価してはいけない。
「その通りです。ただ、日本の方々が東南アジアなどで生水を飲むとお腹を壊すことがありますが、現地の方は大丈夫だったりするじゃないですか。そういう例があるので、“免疫の慣れ”もたしかにありますね」
■免疫を獲得しても一生続くわけではない、腸活と免疫力の関係にも注目
――仮に一度免疫を獲得しても、それが一生続くわけではないですよね?
「そうですね。例えばマイコプラズマ肺炎は、数年に一度感染が拡大します。これは流行により集団免疫ができますが、徐々に免疫は落ちていき、また数年後に感染するという周期。免疫はつくかもしれないけれど、しばらくしたら弱まるということも頭に入れておく必要があります」
――コロナ禍で皆がマスク着用、アルコール消毒などを徹底していましたが、そうやってガードすることが有用である一方で、免疫が弱まるということもあるのですか?
「あるかもしれないですね。子どもたちは風邪を引くことは減りましたが、コロナが明けて、RSウイルスなどいつもと違うおかしな流行を見せたことがありました。現在、溶連菌感染が激増しているのも、コロナ禍が影響しているかもしれないです」
――結論としては、免疫は確かに一部つくかもしれないけれど、過信して衛生的でない行いはしないようが良いと。
「もちろんそうです。鍛えられる、免疫がつく可能性はたしかにゼロではない。また昨今は腸と免疫の関係が注目され、腸活も注目されるようになりました。腸内細菌や腸と免疫の関係はまだまだ未知であり、今後さらに腸活と免疫力の関係が明らかになるかもしれません」
【監修者】
日本内科学会認定医。東京都済生会中央病院で研修後、同院にて糖尿病をはじめとした総合診療や医学教育に従事。現在は、若い世代の糖尿病など慢性疾患管理の向上などのため、質の高く、アクセスの良いプライマリーケアクリニックの実現や医療情報の提供を行っている。
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