金子雅和監督『光る川』7~25歳のユース審査員が選ぶ最優秀長編映画賞受賞
ORICON NEWS / 2024年11月25日 12時38分
『アルビノの木』(2016年)、『リング・ワンダリング』(21年)などの金子雅和監督の最新作『光る川』が、来年(2025年)3月に東京・渋谷のユーロスペースほかにて公開されることが決定した(配給:カルチュア・パブリッシャーズ)。スペインの「第62回ヒホン国際映画祭」(11月15日~23日)でワールドプレミアを迎え、現地時間23日には、7~25歳の若者で構成されるユース審査員11人が選ぶ最優秀長編映画賞を受賞した。
【画像】「第62回ヒホン国際映画祭」ユース審査員最優秀長編映画賞を受賞した金子雅和監督
金子監督は、川や山といった圧倒的なロケーションと民俗学・美術等に裏打ちされた世界観により、現代人が忘れかけている自然への畏怖や人間の根源にある生命力を描き出す作風で知られている。初長編となった『アルビノの木』は9つの国際映画祭で20受賞、『リング・ワンダリング』はインド国際映画祭で『あにいもうと』の今井正監督、『鉄道員(ぽっぽや)』の降旗康男監督に次いで日本人史上3人目となる最高賞(金孔雀賞)を受賞している。
『光る川』の舞台となったのは、高度経済成長の始まった1958年。大きな川の上流、山間の集落で暮らす少年ユウチャ。父は林業に従事し、母は病に臥せっていて、老いた祖母と暮らしている。まだ自然豊かな土地ではあるが、森林伐採の影響もあるのか、家族は年々深刻化していく台風による洪水の被害に脅かされていた。
夏休みの終わり、集落に紙芝居屋がやってきて子どもたちを集める。その演目は、土地にずっと伝わる里の娘・お葉と山の民である木地屋の青年・朔の悲恋。叶わぬ想いに打ちひしがれたお葉は山奥の淵に入水、それからというもの彼女の涙があふれかえるように数十年に一度、恐ろしい洪水が起きるという。
紙芝居の物語との不思議なシンクロを体験したユウチャは、現実でも家族を脅かす洪水を防ぎ、さらには哀しみに囚われたままのお葉の魂を鎮めたいと願い、古くからの言い伝えに従って川をさかのぼり、山奥の淵へ向かう。
無垢な少年の眼差しに映る、自然への畏怖と現代化への分岐点。少年が目撃する里の娘と木地屋の青年の関係性には、支配的な社会制度から解き放たれた世界へ向かおうともがく様が描写され、疲弊する現代人への原点回帰的なメッセージが秘められている。
物語の根幹を支える女性・お葉を演じるのは、Netflix映画『シティーハンター』のくるみ役で注目を集めた華村あすか。お葉との悲恋の相手・朔に、連続テレビ小説『舞いあがれ!』の章兄ちゃん役などで俳優としても活躍の場を広げているモデルの葵揚。
物語の眼差しとなる少年・ユウチャとお葉の弟・枝郎を金子監督の師である瀬々敬久監督の作品『春に散る』にも出演した子役の有山実俊が一人二役で演じている。
また、足立智充、堀部圭亮、根岸季衣、渡辺哲といったベテランから、金子作品に欠かせない山田キヌヲ、そして『リング・ワンダリング』に続いて安田顕らが出演している。
原作は岐阜出身の作家・松田悠八氏の『長良川 スタンドバイミー一九五〇』。金子監督にとっては長編映画で初めての原作ものとなったが、長良川流域の土地・民話・伝承からインスピレーションを受け、物語を大きくふくらませていった。
撮影は2023年9月、全て岐阜県内で行われ、監督自身が数十回にわたるロケハンを敢行。深く引き込まれそうな水辺、近寄りがたさすら感じさせる洞窟や滝、悠久の時を刻む山々の情景など、CG一切なしの神秘的な自然が物語を彩る大きな要素となっている。音楽は、細田守監督作品や瀬田なつき監督『違国日記』などを手がけてきた音楽家・高木正勝が担当した。
このたび吉報が届いた「第62回ヒホン国際映画祭」は、スペインで最も歴史ある映画祭のひとつであり、過去にアキ・カウリスマキ、ツァイ・ミンリャン、ペドロ・コスタ、ホン・サンス、鈴木清順、塚本晋也、小栗康平、諏訪敦彦、濱口竜介といった名だたる作家映画の数々が上映されてきた。今回、「普遍的な感情を繊細かつ美しく描き、時間や距離を超えて物語に共感出来る作品に仕上げたこと」を高く評価され、ユース審査員最優秀長編映画賞の受賞に至った。
金子監督は「62年もの長い歴史があるヒホン国際映画祭で『光る川』のワールドプレミアを迎えられたことを、大変光栄に感じています。この映画は、複雑で困難な状況にある現代の世界中の人、特に若い人に対し、かつて私たち人類の誰もが持ち備えていた『自然と人間の関係への思慮』からヒントを得て、未来に向け希望を抱いて生きてほしい、というメッセージを込めて作りました。ですので、若い人たちの心に最も残ったのであれば、この作品の監督として最大級の喜びです」とコメントしている。
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