1万円超の「おもちゃ」なぜ売れる? “完全シークレット”を貫いたメーカーの葛藤、子ども惹きつけた“玩具を愛でる”という原点回帰
ORICON NEWS / 2024年11月26日 9時10分
11月も半ばとなり、そろそろ子どもへのクリスマスプレゼントはどうしようか…と頭を悩ませる親御さんも多いだろう。そんな中、10月の発売まで完全シークレットで、予約すら受け付けなかったあるおもちゃが、ここに来て躍進しているという。世界で大ヒットしたシリーズの新作『うまれて!ウーモ アライブ』だ。ただ愛でるだけ、というおもちゃとは一線を画し、子どもの心に大きな影響を与えそうな本作。「おもちゃ業界では珍しい」「特殊な売れ方」だという本作について、タカラトミーに話を聞いた。
【画像】たまごから孵化!? かわよ…ウーモの中身はコレ!
■『君たちはどう生きるか』的な試み? 『おもちゃショー』でもメディアにも秘密のおもちゃ
おもちゃ業界にとって、1年のうちでもっとも力を入れるのが12月。クリスマスを見据え、8月末から行われた国内最大規模の玩具展示会『東京おもちゃショー2024』でも、全国の関連企業がさまざまな商品を展示していた。『おもちゃショー』はメディアや流通・販売業者はもちろん、一般客も入場できるとあって、展示ブースは各社が力を入れまくり。いかに自社商品をわかりやすく、魅力的にアピールできるかを競うように、デジタルからアナログ、知育玩具まで、豪華なブースが並んでいた。
おもちゃメーカー大手、タカラトミーのブースもいわずもがな。ロングセラー商品からロボット玩具、液晶を使ったトレンド商品も並ぶ。だが、ブース最奥に鎮座していた“たまご”は謎だった。おもちゃとしては“中身”がメインになるだろうに、殻に覆われたたまごからは微塵もそれが見えない。
実はこれ、『うまれて!ウーモ』という過去にも大ヒットした商品だったわけだが、担当者に聞くと「発売まではシークレットです」とのこと。せっかくの大々的なお披露目の場なのに、しかもヒットシリーズ新作なのに…そんな悠長なことして大丈夫? という疑問が残った。もしかして、公開前まで事前情報がほぼシークレットだった『君たちはどう生きるか』的な展開を期待して?
そもそも、『うまれて!ウーモ』とは、カナダのスピンマスター社が2016年に発売した玩具。日本でも同年からタカラトミーが販売しており、世界累計販売個数は1,420万個を突破している大人気シリーズだ。たまごをお世話することで、中にいるウーモが孵化する瞬間に立ち会えることから、「誕生の瞬間の感動を味わえる」「親になったような気持ち」など人気を呼んできた。今回は、5年ぶりの新作が10月4日に発売されたわけだが、その日までは『おもちゃショー』はおろか、自社HPやメディア、販売店でも詳細を明かさず、予約すら募らなかったという。
そこまでシークレットを貫くことに、メーカーとしては不安もあったのでは?と聞くと、「正直、ありました(笑)」と率直な答えをくれたのは、タカラトミー・マーケティング課の荒川瑞穂さん。同課長の武田誠さんも、「おもちゃ業界では珍しい」と明かす。
「重要アイテムですし、プレッシャーはありました。ですが、実際に動物が生まれるときと同じように、ウーモの孵化体験は1度きり。どんな子が生まれてくるのかドキドキとワクワクでいっぱいの誕生の瞬間を驚きとともに楽しんでいただきたい。なので、皆様のお手元に届くまでなるべく情報は出さないよう考えました」(武田さん)
最新作『うまれて!ウーモ アライブ』は以前よりさらに進化しており、本物のたまごを孵化させるように抱っこしたり揺らしたりと愛情を注ぐことで、中にいるウーモが自ら殻を割って生まれてくる。殻の割れ方もよりリアルに再現され、本物の動物の誕生さながら。子どもにとっては特別な瞬間となるだろう。
「はじめは一抹の不安はありましたが、必ずヒットすると確信はあって。発売して実際に目にしていただいたことで、確信は現実に変わりましたね」(武田さん)
■1万円超なのにどんどん売れる、200ヵ所以上の体験会で見えた子どもたちのリアル
狙いは、見事的中。発売後、「こんなにリアルだったのか!」という驚きの声とともに、情報が一気に拡散したことによって週を追うごとに販売数は増加。その反響は「予想以上だった」と、武田さんも驚きを隠せない。
「自信はあれど、価格が税込1万1998円とおもちゃとしては高め。クリスマスシーズンでも、よく買われるおもちゃの価格は5000~6000円ですからね。イベント時期でもない10月に1万円を超えるおもちゃの販売数が週ごとに上がっていくのは、市場においてかなり特殊な売れ方だと思います」(武田さん)
では、実際ウーモを手にしたユーザーの反応はどんなものだったのか。発売日以降、全国200ヵ所以上で実施した孵化体験イベントで、親子づれのリアクションを見てきた荒川さんはこう語る。
「抱っこしたり、トントン叩いたりとお世話することで、殻の中から心音が聞こえ、孵化の準備が始まります。子どもたちが愛おしそうにたまごを抱きしめる様子や、耳を傾けて中を確かめようとする姿がとても印象的でした。愛情を注いで生命を育む気持ちを味わえるという、ウーモの魅力がしっかり伝わっていると実感しました」(荒川さん)
自らの手の中で愛情を込めて育てたたまごから、生命が誕生する――おもちゃとはいえ、その体験はどれほど子どもたちを惹き込むものだったか。ウーモが殻を割って生まれようとする瞬間には、多くの子どもたちから「頑張れ!」という掛け声が飛んだ。
「アライブには、ユニコーンを模した『パフィコーン』とドラゴンを模した『ドラグル』の2種類があり、それぞれカラーは2通り。どちらが生まれるかは孵化するまでわかりません。実演で、『パフィコーンの紫の子が絶対可愛い』と言っていた子にドラグルのたまごのお世話をしてもらったことがあったのですが、孵化後、その子はもう生まれてきたドラグルに夢中(笑)。自分が愛情を込めて大切に育んだ子が『一番可愛い!』となっているところに、ウーモの意味を感じました」(荒川さん)
このように、「生まれるまでの楽しみ」と「生まれる瞬間のドキドキ、ワクワク」があることによって、生まれた後にウーモを慈しむ気持ちが増すことも、大きな特徴だろう。
昔から、人形やぬいぐるみを使った“ごっこ遊び”はあったが、通常は長い時間をかけて遊ぶことで愛着が増していくもの。しかしウーモの場合は、「たまごから愛情を注ぎ、誕生に立ち会い初めて目を合わせた瞬間に何かが芽生え、より愛おしさが増すのだと思います」と武田さんも語る。
その意味では、物も情報も溢れ、昔のように子どもが一つのおもちゃを大切にし、愛情を注ぎ続ける行為が希薄になっている現代において、ウーモは原点回帰のおもちゃとも言えるかもしれない。
「生命誕生の場に立ち会うことは、そうそうありません。特にデジタル機器に慣れた今の子どもたちにとって、リアルに目の前で起こる体験はインパクトがあると思います。それを目の当たりにし、家族が増えたような感覚になるという点においても、ウーモは従来のおもちゃのステージを超えるものなのではないかと。それは大人も同じで、実演イベントではご家族も子どもと同じ目線で楽しみ、感動してくれていて。子どもの変化や成長を発見しながら、家族一緒に体験価値を共有してもらえたと思います」(武田さん)
芽生えたウーモへの愛情を大切に育むべく、生まれた後も長く遊べる工夫が施されていることも最新作の特徴だ。
「ごはんを食べてゲップをしたり、おならをしたり、大人もクスッと笑ってしまうようなリアルな動作が入っています。また、『いないいないばぁっ!』やおしゃべりも。そんなコミュニケーションがとれることも、お子さんから良い反響を得ています」(荒川さん)
外国製のキャラクターというと、日本の“カワイイ”とはひと味違うビジュアルであることも多いが、最新ウーモは目がクリクリの二頭身。これまでのウーモを知っていた人たちからも、「予想以上に可愛くなっている」と高評価なのだそう。
「日本の有名なキャラクターたちが世界で活躍していることからも、どんどん外国と日本のおもちゃのビジュアルの垣根はなくなっているのかもしれませんね」(武田さん)
モノよりコト消費が注目されている昨今。ウーモはモノでありつつコトも体験できることが、大きな違いなのかもしれない。
(文:河上いつ子)
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