映画『室井慎次』開いた扉、青島の登場が“新たなる希望”に 亀山千広プロデューサーを直撃
ORICON NEWS / 2024年12月4日 7時30分
公開中の映画『室井慎次 生き続ける者』に、「踊る大捜査線」シリーズの青島俊作(織田裕二)が登場することが公式発表された。「当初の台本にはなかった」という青島のシーン。「踊る」シリーズの亀山千広プロデューサーが、その撮影の裏側を明かした。
【動画】『室井慎次』メイキング映像に映る撮影現場に織田裕二も来ていた
1997年の連続ドラマ開始以来、それまでの刑事ドラマとは一線を画し、警察内部の縦割り社会や上下関係、人間模様を描き、社会現象を巻き起こした『踊る大捜査線』。その後、映画シリーズ化され、スピンオフ作品を含む6本の累計興収は、487億円、累計動員数3598万人を超え、「踊るプロジェクト」はまさに伝説となった。
そして、『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(2012年9月7日公開/興行収入59.7億円/動員471万人)以来、12年ぶりに公開されたのが、『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』。連続ドラマの最終回で、所轄の刑事・青島と、キャリア官僚・室井が交わした“約束”。それから27年経って、“青島との約束”を果たせなかったことを悔やみ、警察を辞めて故郷・秋田に帰った室井の“最後”の物語を描いている。
『室井慎次 生き続ける者』に青島が登場したこと、さらに「still continue」の文字。12年前の「THE FINAL」はなんだったのか。
■「室井慎次」をちゃんと終わらせたかった
――青島が登場するのかしないのか、公開前は憶測が飛び交っていましたが、やはり登場しましたね。
【亀山】あらかじめ言っておくと、今回のプロジェクトは「踊る」の“再始動”ではなかったんです。『室井慎次』のために動き出した。はじまりは、一昨年の年末、君塚(良一)さんからの一本のメールでした。普段あまりメールでやり取りしていない君塚さんから突然、「室井の終焉を書きたい。室井をちゃんと終わらせたい」と、本広(克行)監督、君塚さん、亀山の3人で仕事ができればいいなという内容でした。
『踊る大捜査線』の青島をはじめとする湾岸署は、ある種のファンタジーでした。そこに、警察組織のリアリティーを持ち込み、物語に深みを与えてきたのが、室井慎次をはじめとするキャリア組でした。『THE FINAL』で組織改革委員会に命じられたところまで進みましたが、その後、組織が改善されたのか、青島との約束は果たせたのかまでは描かれていない。室井もそろそろ定年を迎える年齢になり、このまま自分が書き続けたキャラクターが中途半端に終わってしまうことに責任を感じていたようです。
僕にもその責任はあると思っているし、本広監督も背負っている。誰よりも柳葉敏郎さんが「室井」を背負い続けていることがずっと気になっていました。柳葉さんは室井慎次という役を大切にしてきた一方で、それにしばられてきたと言ってもいい。君塚さんは、「室井を終わらせることで、柳葉さんからその重荷を降ろしてあげたい」と強く語っていました。
――柳葉さんを説得するまで大変だったという話は、すでにいろいろなところでお話されていますが、織田さんはどうだったのでしょうか?
【亀山】柳葉さんは、室井は自分にとってしんどいキャラクターだから、絶対に嫌だ。今さらなぜ室井なのか、俺を説得しろ、というので、かなり時間がかかり、途中でけんかもしました。柳葉さんがようやく前向きになってくれた時、気にされていたのが「織田くんはちゃんと知ってるんだよね」ということでした。「織田くんがNOだったら俺はやらないよ」と言われたので、それに関しては「大丈夫です」と即答しました。
なぜなら、柳葉さんを説得している一方で、過去の映像素材を使う許可取りは進めていたからです。室井の27年間の集大成を描くうえで絶対必要ですからね。いの一番の織田さんのところに連絡して、許可はもらっていました。だから、柳葉さんがどうしてもNGで、なかったことにしてくださいと言いに行く羽目になったら面目ないな、と内心ヒヤヒヤしていました。その後、作品自体にも青島を出したいという機運が高まり、織田さん本人ともお話しして、今回の出演となりました。
■撮影現場に“青島俊作”が来た!コートは新調
――織田さんの撮影時の様子はどうでしたか?
【亀山】新潟の山中で行われた撮影の最終日でした。柳葉さんは1週間前にクランクアップしていたのですが、現場にやってきて、織田さんを迎えた場面は感動的でした。君塚さんから最初にメールをもらった時には、こんな展開になるとは全く予想していませんでしたから。柳葉さんが再び室井を演じることを引き受けてくれた思いが、織田さんに通じたのかな、と思いました。
――それで「Still continue」となるのは?
【亀山】青島が登場してくれたことで、室井との絆を締めくくる形になりました。「青島と室井」という2人の物語は終わりを迎えましたが、彼らの思いや信念は生き続けます。それを「Still continue」という言葉に込めた、というのが一つあります。室井の物語に決着をつける、終わらせる、ということで動きだしましたが、今は終わらせないと始まらなかったんだろうなっていう気がします。織田さんがあのコートをまた着てくれたことで、いろいろな可能性が見えてきた。その「Still continue」でもあります。
――青島のコートは?
【亀山】『THE FINAL』の時に織田さんに記念に差し上げてしまっていたので、織田さんにどうする?と確認したところ、いまも大切に持っているとのことでしたが、新調することにしました。以前より、少し丈が長くなっています。新品だとおかしいから、撮影までコートを着て寝てほしいとお願いしました。撮影日まで、織田さんはコートを着て寝てくれていたはずです。
――コートも新調したということは…、今後については?
【亀山】私は現在フジテレビを離れ、BSフジの人間なので詳細はわかりません。ただ、「室井慎次」の企画は君塚さんから相談を受け、「踊る」のIP(知的財産)を持つフジテレビに相談する形で実現したものです。多くを狙わなかったからこそ実現できたのだと思います。逆に、欲を出して狙い始めると大変になるかもしれませんね。青島が室井の思いを引き継ぐとなると、これはしっかり考えなければならないと思います。きっとすごく大変な旅になるでしょうね。
――亀山さんにとって、「踊る」プロジェクトとは何なのでしょうか?
【亀山】「室井」というキャラクターについて言えば、ただただ「ありがとう」という気持ちです。柳葉敏郎さんには感謝しかありません。室井を私以上に深く、そして長く背負ってくださったのは柳葉さんだからです。この感謝の思いを形にしたのが、2本の映画です。作り手としてのわがままかもしれませんが、そういった思いを込めました。それを多くの方に観ていただき、泣いてくださる方もいたことは、本当にプロデューサー冥利に尽きます。
執務室には『THE FINAL』の時のメインキャスト全員のサイン入りポスターをずっと飾っているんです。ポスターに織田さんが「次なる事件、待ってます」と書いてくださったこともあり、「踊る」は常に頭のどこかにありました。「もう考えたくない」という気持ちもあり、「やるならどうするのがいいのか」と考えてしまう自分もいました。どちらにしても、どこかでずっと向き合い続けてきました。
正直に言えば、「踊る」は私にとって「過去の栄光」だと思っています。自負も当然ありますが、同時に少し卑下している部分もあります。それでも、正直、まさかまたやることになるとは思っていませんでした。『THE FINAL』でくしくも「新たなる希望」というサブタイトルをつけたのですが、あれは「スター・ウォーズ」の「A NEW HOPE」をそのまま使ったんですけど、映画『室井慎次』が遅ればせながらの「A NEW HOPE」(新たなる希望)になったんだなという気がします。
もし今後も私が関わるのであれば、さらに新しい視点やテーマを取り入れたいと思います。結局、あのコートを着た青島の姿があり、あの象徴的な音楽が流れるだけで、『踊る大捜査線』は成立します。でも、それだけではなく、どんな形であれ観客に新しい体験を提供したいと思う。そう思わせてくれる作品です。
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