年越しカウントダウン中止の渋谷区、頭悩ます“路上喫煙”は外国人観光客より日本人が問題?「苦情が減った」喫煙所整備における草の根活動
ORICON NEWS / 2024年12月26日 11時30分
渋谷駅前の「年越しカウントダウン」が、5年連続で開催を見送られることになった。併せて12月31日と1月1日には、駅前の公衆喫煙所2ヵ所を閉鎖する予定だ。コロナ禍の感染対策でこうした喫煙所閉鎖はよく行われていたが、渋谷のような繁華街、ましてやイベント時に問題はないのか。最近では非喫煙者からも「路上喫煙やポイ捨てが増えるくらいなら、喫煙所は必要」との声もある。巨大ターミナル駅を抱える渋谷ならではの対策の難しさと、解決に向けた取り組みについて渋谷区環境整備課長に聞いた。
【写真】あれ、変わった!?渋谷駅前スクランブル交差点喫煙所
■路上飲酒だけではない渋谷ハロウィン、なぜスクランブル交差点の喫煙所を閉鎖?
1日300万人、年間12億人が利用する渋谷駅。なかでもハロウィン期間のカオスぶりは全国ニュースでも報じられるほどで、近年、渋谷区ではこの時期の駅周辺の来訪を控えるよう呼びかけてきた。今年はさらなる厳戒態勢を敷いた甲斐もあって、大きなトラブルもなく終わったようだ。とかく路上飲酒がフィーチャーされがちな“渋谷ハロウィン”だが、いつも以上に人が集まるこの時期は路上喫煙対策も強化したという。
「当区では2019年に『きれいなまち渋谷をみんなでつくる条例』を改正し、分煙対策指導員及び喫煙ルール啓発員による巡回指導を強化してまいりました。分煙対策指導員は、違反をした方から過料2000円を徴収しています。喫煙ルール啓発員は、夜間帯において、通常、3人1組で街を巡回していますが、ハロウィン期間は注意した方と揉める危険性も考えて、6人1組に増員。そのほか区の職員も英語・中国語・韓国語が書かれたプラカードを持って啓発に当たりました」(渋谷区 環境政策部 環境整備課長・吉澤卓哉さん/以下同)
また、ハロウィン期間はスクランブル交差点、宮益坂交差点の喫煙所は封鎖。ゴミステーションにも「喫煙所はどこ?」との問い合わせも増えたようだが、それ以前にポイ捨てや路上喫煙は増えなかったのだろうか。
「事前告知によって来街者が減ったこともあり、目立っては増えなかったです。ただ今年は路上飲酒をかなり厳格に取り締まったこともあり、居酒屋で飲んでいた方がたばこを吸いに外に出たら、喫煙所がなかったため路上で吸ってしまった…というケースはあったかもしれません」
このような懸念がある中、なぜ喫煙所を封鎖したのか。それには、狭く人通りの多い渋谷ならではの事情もあった。
「以前、韓国で事故が起こったように、密集による将棋倒しなどを防ぐためです。この時期は喫煙所に限らず、狭い場所に人が集まらないよう対策を徹底。喫煙者には不便をおかけしましたが、ご理解いただければと思います」
渋谷駅周辺が人でごった返しているのは、何もイベント時期に限ったことではない。人の群れが縦横に行き交うスクランブル交差点は、日中から深夜まで人波が途絶えない。渋谷が魅力的な街である証拠でもあるが、そのぶん浮き足立った気分のままルールを破る人が出てきてしまうのも想像に難くない。
「区の人口の何倍もの人たちが遊びに来る場所でもあります。今は喫煙率が下がっているとは言いますが、何%かがたばこを吸っていれば、そこへの対策は必須。渋谷区では2003年に『渋谷区分煙ルール』を定めて喫煙者のマナー向上を図ってきたのですが、マナーを守らない行為が多数見られたことから、2019年に過料など罰則規定を盛り込んだ『渋谷喫煙ルール』に改訂した経緯があります」
とはいえ、スクランブル交差点を闊歩する人々のどれくらいが、このルールを知っているだろうか。
「ルールは区のHPなどにも記載されていますが、とくに区外の方への周知は難しいですね。路上に禁煙の文字があっても、楽しい気分になっている皆さんには見逃されてしまいます。周知徹底についても、今後の課題だと考えています」
■「訪れた国のルールには従う」外国人観光客の一方で、過料を出しぶるのは…
また、昨年から一気に増えた外国人観光客への対策にも頭を悩ませる。スクランブル交差点自体が観光スポットになるほど、今の渋谷には外国人が多い。
「もともとインバウンドは多かったのですが、これほど増えるとは想定外でした。今年からは街を巡回する分煙対策指導員が3ヵ国語パネルによるルール説明や、喫煙所の案内も行っていますが、まだまだ対策が追いついているとは言えません」
現在は渋谷駅周辺の至るところに、<NO SMOKING><過料2,000円>と表示された路面シートが貼られている。もちろん、ルール違反への過料は外国人にも「きっちり徴収する」とのこと。
「外国の方は、注意をすると意外とすんなり過料を払ってくださいます。『ここで吸ってはいけないのを知らなかった』『訪れた国のルールには従う』という方がほとんど。多言語での告知などでルールが届きさえすれば、解決できるのかもしれません」
一方で、過料を渋る人の多くは「日本人の若者」。なかには、「指導員のオレンジ色のベストを見ると、サッと隠れる人もいる」という。
隠れるのであれば、その人たちは「吸ってはいけない」ことを知りながら、注意や過料徴収を避けているとみられる。隠れれば逃れられるというわけではないし、そもそもルールを破った上でのこの行動はいかがなものか。ハロウィンにしても喫煙マナーにしても、とかく目立つ外国人観光客ばかりが槍玉にあがりがちだが、実態は少々異なるようだ。
このように、人が集まる、集まりすぎるからこそ喫煙対策の難しい渋谷区。ルールを守らせることが難しいのであれば、区外から来た日本人にも外国人にもわかりやすいように、喫煙所を増やせば解決への近道になるのではなかろうか。
一時期は、受動喫煙を防ぐために喫煙所を撤去する自治体も多かった。だがフタを開けてみれば、かえって路上喫煙やポイ捨てが増える結果となり、近年ではゾーニングを徹底して吸わない人を守る形にシフトチェンジしつつある。「そのへんで吸うくらいなら喫煙所に“隔離”してくれ」「自分が迷惑をこうむらなければそれでいい」と言う非喫煙者も増えた。
渋谷区もこの流れは実感しており、喫煙所整備にも注力している。
「最近、スクランブル交差点の喫煙所を外に煙が流れない仕様に変えました。もともとここは非常に狭く、外にはみ出して吸う人が後をたたなくて。車道側に囲いもなく危険だったので、改修を機にスペースも広げました。これによって喫煙所の外で吸う人は減り、吸わない方からの苦情も格段に減っています」
また渋谷区では、区の指定喫煙所だけではなく、民間に向けて喫煙所設置・維持の助成金も交付している。設置費については昨年度までの上限300万円から今年は上限900万円に大幅増額と、他の自治体と比べてもかなりの大盤振る舞いだ。
実際、この助成金を民間が活用し、かつて吸い殻の多かったクランクストリート(渋谷センター街の脇道)に加熱式たばこ専用の喫煙所が設置された。ここは以前、民間企業が期間限定で“投票型喫煙所”を設置して注目を集めた場所。形は変われど、助成金を活用した常設の喫煙所ができて喫煙者がルールを守れるようになったのであれば、望ましい流れと言える。
■渋谷区ならではの“壁”も? 32億円のたばこ税を活用し「吸う人も吸わない人も共存できるまちづくりを」
豊かな助成金、区と民間の協力があれば喫煙所問題も解決…と思いきや、話はそう簡単ではない。そこには、渋谷ならではの大きな壁が立ちはだかっていた。
「渋谷区は地価が高い上に、特に渋谷駅周辺はとにかく空きスペースがないのが悩みどころです。区からも各所に喫煙所設置のお願いに回っているのですが、断られることも多く──。今は既存の喫煙所のスペックを向上しつつ、しっかりと維持に努めていくしかないというのが現状です」
たしかに、渋谷駅周辺は隙間なくビルが立ち並び、店舗の面積も狭い。港区などは助成金がコンビニ喫煙所の増加に繋がったというが、渋谷駅周辺はコンビニすら狭く、喫煙所を設置するスペースはないだろう。訪れる人の数に対して、駅周辺の喫煙所の数は決して十分とは言えず、それがルール違反をも誘発しやすくなる。だが、今さら場所を確保するのも難しいという難題だ。
しかし、かすかな希望もあると吉澤さんは見ている。それが、現在行われている100年に一度の再開発だ。
「渋谷駅周辺に建設されている大規模商業施設には、渋谷区の条例により喫煙スペースの設置が義務付けられています。今はまだ過渡期ですが、いずれどの改札からもアクセスのいい場所に喫煙所が設置されるというわけです。こうした施設内の喫煙所にプラスして、今ある喫煙所をしっかり維持していければ、問題も緩和されるのではないでしょうか」
東京でも有数の繁華街という場所がら、渋谷区が抱える喫煙課題が多くなってしまうのは致しかたない。それでも区は、解決の道を模索してトライを繰り返している。見送られる「年越しカウントダウン」の時期も、区の職員による喫煙マナー啓発の巡回は行うそうだ。場所がなければ人力で…とは、まさに草の根活動。訪れる喫煙者にも、ぜひこうした苦労を知ってほしいものだ。
「渋谷区の32億円のたばこ税を、吸う人も吸わない人も共存できるまちづくりに最大限活用したい」と職員は口を揃える。喫煙者はもちろん非喫煙者にとっても、身近なだけに適正化が求められるこれらの対策。世界中から人が集まる渋谷区が、これからどう変化していくのか注目したい。
(文:児玉澄子)
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