高橋優、新アルバム『HAPPY』は“矛盾を受け入れる”が最大のテーマ「矛盾を楽しめたら人は絶対幸せに」
ORICON NEWS / 2025年1月22日 7時0分
シンガー・ソングライターの高橋優が22日に9枚目のアルバム『HAPPY』をリリースする。本作は、高橋がこれまで歩んできた道のりやライブを通じて「幸せ」について模索し続け、様々な視点から今描くべき「幸せ」の形を表現したドラマチックな作品に仕上がっている。ORICON NEWSは高橋にインタビューを行い、『HAPPY』と名付けた新作への思いや曲作りのこだわりを聞いた。
【写真多数】幻想的なショット…カメラ目線で凛々しい表情の高橋優(撮影:KOBA)
――『HAPPY』というテーマはいつ頃に浮かんだのですか?
去年の春ころです。2023年12月から去年の7月上旬まで、47都道府県を弾き語りで回るツアー「ONE STROKE SHOW~一顰一笑(いっぴんいっしょう)~」をやっていて、その最中、去年の1月に初めて声帯炎になったんです。声が全然出なくなって。そういう経験をしながらも歌う日常を過ごさせてもらう中で、「幸せ」っていうキーワードが浮き彫りになっていったんです。
――高橋さんはそれまでも、日常の中での幸せに光を当てる曲を歌っていましたが、さらにそこにフォーカスが絞られた感覚ですか?
そうですし、なぜそれが今なのかと考えたんです。そうすると、昨年の1月1日に起こった能登半島地震であったり、それこそウクライナやアフガニスタンで起こっていることや、視点を広げればコロナ禍もそうだし、改めて「今日はハッピーだったな」と思える瞬間って何なのか、それをみなさんに聞いてみたいと思ったんです。例えば、僕は眼鏡を新調しようと眼鏡屋さんに行くと、ちょっとワクワクするんですよ。そういう身近なところから、もっと大きく、日本が平和なことにも幸せを感じるけれども、「本当に平和なのか?」と思うところもあって。戦争こそ起こってないけど、言葉尻だけを取り上げて人の短所をなじり合うような今の日本は健全なのだろうか、って。
そういう投げかけと同時に、現状における幸せをみんなに聞いてみたかったんです。子どもの頃って、列車や変わった車が走ってるのを見るだけでもワクワクしたじゃないですか。でも、大人になると「もう子どもじゃないんだから」となってしまう。でも、そういう小さなことにでも無邪気に幸せを感じて欲しくて。それと同時に、能登半島地震が起こって、被害に遭わなかった人も「自分にも何かできないか」って漠然と陰る気持ちになっていると思うんです。そこも幸せを考えるうえで目を逸らしてはいけない部分であって、すべて含めて「幸せを感じてほしい」ということにフォーカスを当てたい気持ちは常に持っています。
――曲作りに関しては、何か変化はありましたか?
メジャーデビューした15年前は、とにかく自分から出てくるものをそのまま書くことで感情を吐露していました。そこから、例えばタイアップのように自分にはなかった視点で曲を書く機会もいただいて。それが2周か3周して、今はまた15年前と同じようなことをやりたいと思ったんです。高橋優がやるべきことをやり、自分の色をもっと濃く出す。この店じゃないと食べれないものを作って、不味いと思う人もいるだろうけど、ハマった人に「この店でしか食べたくない」って言わせるくらいのものを作りたいという意識がありました。それって図らずも15年前にやってたことと非常に近い感覚だったんです。しかも、Aメロ、Bメロ、サビじゃなくてZメロまであっていいんじゃないか、歌詞も別に韻を踏まなくてもいいんじゃないかって、今までで一番自由に曲作りができたんです。もしかしたら、自分の中で新しい扉を開けたかもと思うくらい、伸び伸びと、何に縛られることもなく。
――「リアルタイムシンガーソングライター」の曲構成はその典型ですよね。フォーク調の雰囲気から、いきなり極悪なギター・リフが轟くとは(笑)。
僕の中の“破壊願望”をふんだんに取り入れました(笑)。実は去年、たくさんのフェスに出させていただけて、せっかくだからお客さんとしてもフェスを楽しんだんです。その時に、例えばロックバンドを観ていて「ここでいきなりアコギ1本になったらどんな雰囲気になるんだろう?」とか、逆にフォークのステージで「急にエレキになったら?」っていう、自分の中の危険思想が出てきて(笑)。もちろん、日常生活でやっちゃダメなことはやりませんけど(笑)、曲の展開なら何をやってもいいじゃないですか。既成概念を覆すというか、予定調和を遠ざけるというか。
――楽曲のバリエーションだけでなく、歌い方、声色の表現も多彩ですね。
今は本当に「歌っていいな」と思っていて。僕は「喉」という楽器、つまり自分の身体で演奏していて、その考えを広げていけば、「身体って面白いな」ということになって。僕はよくジムに行くんですけど、そこでいろんな筋肉の話を聞くのが好きなんですよ。喉も縦長の声帯と下声帯というのがあって、それをまんべんなく無理なく使うことで2時間半のライブを歌い切れるわけです。僕って、「信じて歌えば大丈夫だ!」というような精神論はあまり響かないんですけど、フィジカルは嘘をつかないし、フィジカルとメンタルの関係性もすごく面白い。そういう点でも、今は歌がすごく面白いし、「こういう声で歌ったらどうなるんだろう?」と考えてやってます。声は奥深いですからね。その人のメンタルまで見えてくるので。
――しかも歌詞が、聴き手の気持ちに寄り添ってくれるものであって。
最近、いろんな取材でそう言っていただけて、僕なりに考えてみたんです。そうすると、僕は普段から人を励ますと言うよりも「自分はこう思うからこうしている」という話でとどめようとしていて、そういうスタンスで歌詞も書いて。しかも、親と話してる時も友達と喋ってる時も、良くも悪くもあまり変わらないんですよ。だから、人と会って話をしているのと近いテンション感で歌詞を書いているのかなって思います。ただそれは無意識で、意識しているとすれば、背伸びした言葉を書かないということ。普段は言わないことを歌うと、それはバレるし、違和感になる。「オレの言う通りにすればいい」みたいな歌詞って、僕のどこを絞っても出てこないんですよ。みかんを絞ってもレモンは出てこないのと同じで(笑)。だから、もし僕の歌に汚い言葉が出てきたら、それは僕に汚い部分があるからであって。でもそれをリスナーのみなさんにどう味わってもらえるか、そこはリスナーの味覚に委ねようという気持ちですね。
――歌詞はどのように書いているのですか?
最近は、誰かに読んでもらうかもしれないという気持ちで、ノートとペンで、したためるように書くのが好きです。その歌詞からメロディが浮かぶこともあるし、2ヶ月くらいずっとメロに悩んでいた曲を一旦横に置いて、即興でギターを弾いて歌ったら「明日から戦争が始まるみたいだ」ができたり。メロディに関しても、「青春の向こう側」はすごく時間がかかりましたけど、「リアルタイムシンガーソングライター」は楽しんで作れました。あと、「BRAVE TRAIN」みたいな曲をやる時は、どの程度ロックにするかということを考えて。ギターを歪ませすぎると自分のイメージと違うんじゃないかって考えていた時期もありましたけど、今回は振り切って90年代から2000年代に聴いていたロックにリスペクトを込めたサウンドにしようと、レコーディング・メンバーとリファレンスを共有して。
そういうやり方は今回が初めてだったかもしれません。「WINDING MIND」もそう。70年代に流行った「ジンギスカン」って曲があるじゃないですか。あのグループのアルバムをドライブしながら聴くのが好きで、その感じをリファレンスに作った曲なんです。
――「どんどど」という秋田弁の繰り返しが、意味がわからずとも口ずさみたくなるし、意味を知ると、とても深い歌詞で。
「矛盾を受け入れる」っていうことがこの曲のテーマで、『HAPPY』というアルバムの中でも最大のテーマだと思っているんです。「矛盾を楽しめたら人は絶対幸せになれる」っていう、高橋優的幸せの哲学があるとしたら、これが最終ページの結論だというくらいに大切なメッセージ。人は矛盾を恐れて「何でそんなこと考えるの!」と戦争まで行ってしまう。でも、人間ってお互いに矛盾だらけで、「何で?話を聴かせて!」って、その矛盾を受け入れられたら恐怖が消えて、「へぇ、そうなんだ!」と、代わりに喜びが増え、幸せになれる。そう思っているんです。
でも、40過ぎたおっさんがそれを歌ったら説教くさいし、伝わるかと言うと、難しい。それならもっと何を言ってるのか訳のわからない曲にしてやろうって。「どんどど」って、秋田弁で「勢いよく」という意味なんですけど、この曲を聴いて、矛盾がどうこうって話は1000人中1人に伝わるかどうかだと思うんですけど、「どんどど」って言葉は、1000人いたら、ほぼ1000人に残るじゃないですか。
――確かにそうですね!
そういうことが出来るのが、音楽、音の楽しさだよねっていうメッセージにして、曲の中に込めた想いは、この記事を読んでくれた人だけが「へぇ!」と思ってくれたら、僕はそれでいいかなって思っているんです。なぜなら、僕は音楽家でありたいから。論文を書くのが得意な人は論文家になるのがいいと思うし、言いたいことだけを伝えたい人は、演説家や政治家になった方がいいかもしれない。だけど僕は音楽家でありたいし、だから音を楽しもうと、そう思っていますし、そういう気持ちで作ったアルバムが『HAPPY』なんです。
(取材・文:布施雄一郎)
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