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「昭和レトロ」のトレンドが漫画の表紙にまで…? 本編とは異なる価値を生む“漫画表紙”はどのように作られるのか

ORICON NEWS / 2025年2月7日 8時40分

『妖しいね☆わたしの弟ギョーメイくん』(C)Rocomi Maruo/SQUAER ENIX

 漫画を買う時の楽しみのひとつとなるのが、表紙の作り込みだ。特に好きな漫画の第1巻などでは、「どんな描き下ろしイラストで出てくるのだろう」とワクワクしたり、第2巻以降でも、「次はどんなの?」と期待が高まるのは多くの読者が経験している通り。さらに、書店に並んだ際に漫画の表紙でどれだけインパクトを与えられるのか、という部分も大きい。『AKIRA』に代表されるように、デザインが作品とともに“伝説”のように語られ続けることもある。そんななか、『妖しいね☆わたしの弟ギョーメイくん』が、BookLiveが主催する第4回マガデミー賞の「表紙インパクト賞」にノミネートされ、表紙デザインも話題になっている。漫画の単行本の表紙の“あるある”や移り変わりについて…同作表紙デザインを担当したバナナグローブスタジオ・志村香織氏と同作の担当編集者であるスクウェア・エニックスの樋口聡一郎氏に話を聞いた。



【画像】表紙インパクト賞、『雷雷雷』『シバつき物件』もノミネート…現代の優れた漫画表紙とは?

■漫画表紙が1つの“作品”として語られる時代に

 漫画の単行本表紙にもたくさんの“セオリー”や“あるある”がある。まず、往年の少年漫画のタイトルが袋文字(縁どり文字)なことだ。これは漫画の神様・手塚治虫時代から見られ、『メトロポリス』や『ばるぼら』などの例外はあれど、『鉄腕アトム』『どろろ』『火の鳥』など多くのタイトルが袋文字となっている。一方で少女漫画には「統一感のあるデザイン」が挙げられるだろう。美しいイラストを四角で囲み、その上に漫画タイトル…。これらは現在でも踏襲されている手法である。

 だが当然、“変化の兆し”はいつの時代にも、作品の作風ごとにあるものであり、そのなかの一つに江口寿史『ストップ!!ひばりくん!』がある。これはわたせせいぞう『ハートカクテル』のようなバブル時代のまばゆさのあるポップな画像プラス、いわゆる“いい女”(ひばりくんは男だが)を表紙に描くもの。今では当たり前だがエポックメイキングな作品であった。

 また別方向へと発展していくきっかけの一つに、吉田戦車『伝染るんです。』もある。こちらは主にサブカル方面での進化であり、相原コージの作品群なども同様だ。80年代のこの当時は、ポストモダン、脱構築の時代であり、これまでの“あるある”を覆すようなものが多かったように思える。

 その最もわかりやすい例が大友克洋『AKIRA』。バンド・デシネ(フランスコミック)の大家・メビウスの影響を受けた大友克洋による傑作漫画であり、単行本もバンド・デシネにならったのかA4版サイズ。そのインパクトは今も語り草になっている。

 このほかその独特のデザイン力で漫画界にも単行本表紙界にも風穴を空けた鳥山明。安野モヨコらの独特な絵で見せる表紙もあれば、大人女性が読む岡崎京子や魚喃キリコらのコミック群。浦沢直樹『YAWARA!』『MASTERキートン』で見せられたおしゃれかつ大人っぽいデザインの表紙も。

 さらに表紙に物語の主人公を登場させないというパターンも多く見られるように。例えば、『BLEACH』では、主人公が 1 巻の表紙を飾ったあとは、主人公以外の登場人物が一人ずつ表紙を飾っていく。主人公やヒロインが表紙への登場回数が多くなる“あるある”を斬新にうち破った事例だと言える。

■多様な形で進化を遂げた漫画の表紙たち…実際、どのようにして作られる?

 『週刊少年ジャンプ』をはじめ、数々の漫画表紙のデザインを手掛けるバナナグローブスタジオの志村香織氏は、漫画単行本の表紙デザインについて次のように語る。

「漫画の単行本の表紙というのは、その漫画の世界観を体現するものです。時代のトレンドに沿ってデザインを変えるというよりも、その作品ごとに表現したいものを追い求める。作家さま、編集者さま、デザイナーが漫画の世界観をいかに表現するかを考えて作られています」

 つまりデザインは漫画家の意図をいかに汲み取れるかが勝負。「作家さまがこういうテイストの表紙で行きたいとキャラクターの絵や構図まで出してくださる場合もあれば、打ち合わせで方向性が決まることもあります。デザイナー側も、編集者さまとの打ち合わせには事前準備が欠かせません。漫画の作風に合うこれまでの事例や、サンプル画像などをいくつも用意し、擦り合わせていきます。さらに作家さまのなかには、『ここを1mmずらしたい』と細部まで徹底的にこだわられたり、『こちらのほうがコンセプトに合う』と新たにキャラクターを描き直してくださる先生もいらっしゃり、表紙が作られるまではケースバイケースです(志村氏)」という。

 漫画のタイトルロゴにも、作品の世界観を体現する要素が如実に反映されている。“袋文字”、黄色・赤色といった“目立つ色使い”がセオリーだった時代なら採用されていなかったのでは? と言えるほど古風だったり、チャレンジングな字体でも、作風やジャンルが多様化した今だからこそ新鮮に。新たなトレンドとして再評価される傾向も見られる。まさに宇宙のように広がり続けるジャンル、それが漫画単行本の表紙の世界なのだ。

■昭和レトロのリバイバルだけで終わらせない、現代にマッチさせるデザインの進化

 先述したようにさまざまなパターンで単行本の表紙は作られるが、志村氏が担当した『妖しいね☆わたしの弟ギョーメイくん』は、BookLiveが主催する第4回マガデミー賞の「表紙インパクト賞」にもノミネートされるほど話題に。作者の少女漫画テイストなイラストに合わせ、“昭和レトロ”な世界観を表紙で体現している。

 「私が表紙デザインで大切にしているのは、その作品の世界観をいかに表現するかということです。まずは作家さまや担当編集さまが喜んでくださるか、ということに意識を向けています。漫画表紙では印刷の基本色であるCMYKの4色以外に“特色”といって、CMYKだけでは表現できない色をさらにプラスして制作することが多いです。例えば、キャラクターの肌色の発色を良くするために蛍光ピンクを足したりするのが一般的なのですが、今回作者の丸尾ろこミ゛先生は、キャラクターの反射光に鮮やかな緑色を使われていたので、この色を“特色”にし、より鮮やかに表現しようと考えました。その”特色”をデザイン部分にも使用したことで、レトロ風に見えるなかでパキッとした現代っぽさも出すことができたように思います」

 「特色を何種類使用するかは、作品による」と編集の樋口氏。「今回の場合はデザイナーの志村さんのご提案で、特色を2色入れています。往年の少女漫画テイストに寄せていただいた背表紙もとても好評でして…。編集部の本棚に並んでいる作品のなかで、『~ギョーメイくん』だけ時代が違う空気を出していますね(笑)」と語り、「一方で、作品全体としては「流行りの昭和レトロに寄せよう」といった意識はあまりないのかなと思います。丸尾先生にとってのかわいい絵、良いデフォルメの仕方を追求された結果が本作の懐かしくも新しいテイストであり、昭和レトロブームが来ていなくても先生は『~ギョーメイくん』を描かれていたのかなと。結果的にトレンドと上手く合致して、SNSでより多くの方に手に取っていただくきっかけになったのは嬉しく思います」と話してくれた。

 実は、詳細な打ち合わせに入る前から「『~ギョーメイくん』には昔の少女漫画風の表紙が合うかも」という共通認識が、丸尾先生、担当編集の樋口さん、デザイナーの志村さんにあったという。「自分が提案しようと思っていた表紙の案も、まったく同じ方向性で驚いたんです」(志村さん)と明かしてくれた。

■電子書籍が当たり前の時代、「愛蔵版」クラスの表紙のこだわりも重要に

 電子書籍で漫画を購入することが当たり前の今の時代だからこそ、表紙に求められるものも変わってきている。「スマホの中だけではなく、現物をコレクションしたいという想いにどこまで応えられるかが必要になった」と志村氏。

「いま漫画を読んでいるSNS世代は、とにかく目が肥えていると感じます。紙の漫画は“コレクション”の要素が強く、いかに家に置いておきたいか…という部分をシビアに見られているなと。少年漫画や少女漫画に触れる層の感性がどんどん成熟し、より洗練されたものが求められ、手元に欲しいと思えるものへのハードルが上がっているように感じます。電子書籍が当たり前の今だからこそ、ユーザーが紙に求めることは何なのかをあらためて考えなければならないと思っています」(志村氏)

 日本が世界に誇る漫画文化。電子書籍で手軽に、またワールドワイドに広がる今こそ、あえて紙での“表紙文化”をどのように作っていくのかが重要になる。読者が本棚にどんな作品、どんなデザインの本を置いておきたいか…。作家、編集者、デザイナーは今もそのために昼夜問わず、頭を悩ませている。

取材・文/衣輪晋一

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