【無所可用】第12話 1羽の鳥を待つこと8時間
おたくま経済新聞 / 2010年5月13日 17時14分
1羽の鳥を待つこと8時間
不定期連載の「エドガーの無所可用、安所困苦哉」。エッセイの様なコラムの様な読み物です。第12回目となる今回は、バードウォッチングのお話し。
鉄道写真を撮りに北海道に通っているうちに、いつの間にかバードウォッチングをするようになってしまいました。
鳥なんて見分けられね~!と言っていたのに、メボソムシクイとエゾムシクイ(どんな鳥かはググってください……おいそれと撮影できるような鳥じゃないんで)を見分けるために目を凝らしたりしていました。
バードウオッチは、「我慢との戦い」な面があります。ローカル線の撮影で、待つことには慣れていましたが、鉄道と鳥の違いは「待っていても来ないことがある」ということです。
鉄道なら、時間になればやってきます(少なくとも日本では)。しかし、鳥は、「運」というのも入ってきます。
前述のムシクイ類は、とてもおおきな声で囀るので、結構離れていても声が聞こえます。しかし、じっと藪の中にいて、ひらけた場所には出てきません。ウグイスも同様で、声はすれども藪の中ということが多いです。なので、声はさんざん聞いているのですが、姿が見えない。おまけに小さいので、藪の中を目を凝らして、あっ、動いた、あれじゃない?と、これで見たと言えるのか??と自分でも疑問になるような見え方しかしていません。
そんなある日、何度目かの北海道行き、羽田から千歳へ飛び、千歳から夜行列車「まりも」に乗って釧路に着き、すぐに快速「ノサップ」に乗り継いで、早朝の道東を目指しました。目的地は霧立布岬、目指す鳥は「エトピリカ」です。
直接釧路空港に飛ばなかったのは、このルートで行くと早朝の霧立布に着けるからです。朝寝坊なワタシには、釧路でホテルに泊まるよりも確実に乗り継げるという気もしていたので。
時期は6月。道東には夏鳥が多くやってきて、繁殖の季節です。冬の間海で過ごしたエトピリカも、繁殖のためにやってきます。
さて、霧立布岬に着いたのは朝7時すぎ。食料・飲み物も十分に用意しています。400mm望遠レンズの付いたカメラをセットします。
ちなみに、霧多布のバス停から岬までは、1kmほど原野を歩きます。この間も結構鳥がいるので、バスターミナルで撮影の準備をし、途中で目に付いた鳥を撮影しながら歩きます。
岬の周囲はカモメの仲間でいっぱいです。カモメだらけの中、エトピリカが来ると言われている小島のほうを見張ります。
見張ります。
見張ります。
見張ります。
……
昼になったので、ちょっとパンでも食べましょう。
見張ります。
見張ります。
見張ります。
……
今日の宿には、夕食はいらないと言ってあります。というか、夕食の時間までに戻れる確証がないので、そうしただけですが。
見張ります。
見張ります。
見張ります。
……
7時すぎから見張ること8時間。
午後3時になって、カモメとは違う黒い鳥が、海の上を低く飛んでいるのが眼に入りました。黒いと言ってもカラスでもありません。
来た!来たよ!
エトピリカです。
きれいでした。だけど、なかなか止まってくれません。飛んでるところの撮影は、ちょっと無理です。
登場から十分以上が経過し、ついに小島に降り立ちました。
いそいでカメラを向け、撮影します。
このために……今日と言う日はこのために来たのです。
ちなみに、これは二回目の挑戦でした。
前回は5時間待ちましたが来ず。ちなみに前回というのは、前年の同じ季節。エトピリカは繁殖期以外はほとんど海で過ごすので、見れるチャンスは少ないのです。
前回と通算してよければ、13時間待っての対面でした。
しかし、エトピリカが小島に止まっていたのはほんの数分。また海上へと消えてゆきました。
わずかな時間でしたが、来てみてよかったと一日でした。
繁殖地の減少が伝えられているエトピリカ。今でもあの場所で繁殖しているのか、気になるところですが、確かめに行かれることのないままです。
■ライター紹介
【エドガー】
鉄道、萩尾望都作品、ポール・スミス、爬虫類から長門有希と興味あるものはどこまでも探求し、脳みその無駄遣いを楽しむ一市民。そのやたら数だけは豊富な脳みその無駄遣いの成果をご披露させていただきます。
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