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【新作アニメ捜査網】第五回 映画「涼宮ハルヒの消失」

おたくま経済新聞 / 2010年2月23日 22時27分

【新作アニメ捜査網】第五回 映画「涼宮ハルヒの消失」

新作アニメ捜査網

新作アニメ捜査網皆さん、こんにちは。コートクです。本連載では今までテレビアニメをご紹介してまいりましたが、今回は、アニメ映画を取り上げたいと思います。今回取り上げるのは、現在公開している映画『涼宮ハルヒの消失』。尚、本文中では映画のストーリーに触れる部分も明記されております。その点をご了承の上、ご覧戴ければ幸いです。

映画『涼宮ハルヒの消失』は、2006年及び2009年に独立UHF局等で放送されたテレビアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』の続篇に当たります。
テレビアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』は、兵庫県西宮市の高校を舞台にして、皮肉屋な主人公の少年・キョン(声・杉田智和)、型破りな行動力を持つヒロイン・涼宮ハルヒ(声・平野綾)、宇宙人・長門有希(声・茅原実里)、未来人・朝比奈みくる(声・後藤邑子)、超能力者・古泉一樹(声・小野大輔)の5人が巻き起こす騒動を描いたものです。
ただ、その劇中世界において宇宙人・未来人・超能力者という超常現象的存在は本来、自明のものではありませんでした。
というのも、劇中世界で超常現象が発生するようになったのはキョンが高校に入学して以降のことだからです。テレビアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』第2話(2009年版では第1話)でキョンは、「俺は心の底から宇宙人や未来人や幽霊や妖怪や超能力者や悪の組織が目の前にふらりと出て来てくれることを望んでいたのだ。(中略)未来人、超能力者?そんなのいる訳ねぇ!でも、ちょっと、いてほしい・・・みたいな。」と語っています。
即ちキョンが高校に入学する前、劇中世界に超常現象は存在せず、キョンは超常現象の発生を願っていたということです。
そんな中、高校に入学した途端、宇宙人・未来人・超能力者が現れたのでした。という訳で、テレビアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』では一貫して超常現象が存在する世界が描かれています。

これに対して映画『涼宮ハルヒの消失』で描かれた世界では、長門、みくる、古泉はただの人間になっています。世界は宇宙人・長門有希によって改変されてしまったのです。同時に長門は、世界を元に戻すプログラムをも残していました。そしてキョンは、世界を元に戻すプログラムを起動させるか否かの決断を迫られるのです。

この映画には象徴的なシーンがあります。それは、決断を迫られたキョンの思考を表わしたイメージ映像です。イメージ映像では、画面の左右両端に文芸部への入部届と栞が浮かんでいます。
入部届は、ただの人間となった文芸部員・長門有希がキョンに渡したもの、栞は、宇宙人だった時の長門有希が、世界を元に戻すプログラムの起動方法のヒントを書いたものです。このイメージ映像は即ち、平凡な少女と一緒に部活動をする世界と、宇宙人・未来人・超能力者が騒動を巻き起こす世界のどちらを望むか、という二者択一をキョンに迫るものです。

私はかつて、このような二者択一を迫るアニメ映画を観たことがあります。それはテレビ朝日系列で放送されているアニメ『クレヨンしんちゃん』の劇場版第9作『嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001年公開)です。
『オトナ帝国の逆襲』に登場した秘密結社は、1970年の大阪万国博覧会会場や、昭和の下町といった、大人にとって懐かしい風景を作り出し、大人達を魅了します。この秘密結社の目的は、21世紀を迎えることを拒否し、自分達のみならず世の中の人々をも昭和の風景に留めさせることでした。
しんちゃんの父・野原ひろし(声・藤原啓治)もまた、秘密結社が作り出した昭和の風景に魅了されてしまうものの、決然として結社の計画を阻止すべく行動を開始します。
その時の台詞が「21世紀に行ってくる」でした。
21世紀最初の年に公開された映画だからこそ生きてくる台詞であると言えますが、ひろしが、結社の計画に魅力を感じつつも、計画を阻止しようとした理由は何であったか。それは、妻子との生活を守るためでありました。

『オトナ帝国の逆襲』でひろしが迫られたのは、①現実世界での家庭と②もはや現実世界には存在しなくなった昭和の風景の二者択一です。
一方『涼宮ハルヒの消失』でキョンが迫られたのは、①超常現象の存在しない世界で少女と部活動する日々と②宇宙人・未来人・超能力者という、高校入学以前には存在しなかった非日常的存在が騒動を巻き起こす世界の二者択一です。
両作品の二者択一には、共通点が見られると思います。即ち、①は現実、②は理想を表わしているのです。
ひろしは、現実からは失われた昔懐かしい昭和の風景を求めながらも、温かい家庭を守るために昭和への回帰を拒否しました。
一方キョンは、少女と部活動をして過ごす現実的な環境を拒否し、本来であれば現実にはあり得ない超常現象が発生する世界で過ごすことを選んだ訳です。
つまり、ひろしとキョンは正反対の選択をしたことになります。
それは、所帯を持った30代男性と遊びたい盛りの男子高校生の違いでもあると同時に、2人の世界観、哲学、価値観、生き方の違いでもあったと言えます。理想と現実のどちらを優先するか、という問いは、映画を観に来た観客にも投げかけられていたのではないでしょうか。

■関連URL
▼涼宮ハルヒの消失、京都アニメーション公式
http://www.kyotoanimation.co.jp/haruhi/movie/

■ライター紹介
【コートク】
戦前の映画から現在のアニメまで喰いつく、映像雑食性の一般市民です。本連載の目的は、現在放送中の深夜アニメを中心に、当該番組の優れた点を見つけ出して顕彰しようというものです。読者の皆さんと一緒に、アニメ界を盛り上げる一助となっていきたいと考えています。宜しくお願いします。

Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By おたくま経済新聞編集部 | 記事元URL https://otakuma.net/archives/2010022301.html

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