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「中国ウルトラマン」問題の複雑な事情 中国での新作映画製作に円谷プロ抗議

おたくま経済新聞 / 2017年7月20日 12時10分

「中国ウルトラマン」問題の複雑な事情 中国での新作映画製作に円谷プロ抗議

株式会社円谷プロダクションプレスリリースより。

2017年7月10日、中国の北京で、映像プロダクション広州藍弧文化伝播公司による2017年10月公開予定の新作映画『鋼鐡飛龍之再見奧特曼(ドラゴン・フォース さらばウルトラマン)』製作発表会が行われました。

『鋼鉄飛龍(ドラゴン・フォース)』は、全編3DCGで製作されている中国の人気アニメーションシリーズ。主人公たちは警察の特務部隊という設定で、あえていうなら日本で1990年代に放送された『機甲警察メタルジャック』のような作品。変形シーンなどは『勇者警察ジェイデッカー』のようなロボットアニメ的な演出もあります。

ここで公開された予告映像を見ると、過去のウルトラマン作品からの映像や、バンド「科楽特奏隊」のPV映像が「歴史資料」として切り貼りされ、本編を思わせる映像は最後の30秒程度という感じ。

また、特番としてテレビ放送された製作発表会では、元々作品がCGで製作されているために着ぐるみが存在しないウルトラマンが、ボディペインティングにマスクをつけた状態(この姿で映画に登場する訳ではなく、マスクの造形については「単に出来が悪かった」だけでしょう)で登場。その様子が紹介された日本に衝撃を与えました。

これに対し、円谷プロダクションはプレスリリースを発表。当作品について円谷プロダクションは一切関知しておらず、製作発表を行った企業及び、制作に関与しているものに対し法的措置を含む断固たる対応を取ることを明らかにしました。

ところで、海外でのウルトラマンに関しては、色々と複雑な事情がある……というのは特撮ファンには知られた話。1970年代に、当時の円谷プロダクション社長、円谷皐氏(故人)がタイのソムポート・セーンドゥアンチャーイ氏に「日本国外でのウルトラマンに関する権利」を譲渡した、という話を巡って、ソムポート氏のチャイヨー・プロダクション(のちに日本のユーエム株式会社に権利を譲渡)と円谷プロダクションは、各国の裁判所で争っているのです。

中国においては、最高人民法院(最高裁)において2013年9月29日付で円谷プロダクションが敗訴しており、『ウルトラマンタロウ』以前に製作されたウルトラマン作品、そして『ジャンボーグA』に関しては、チャイヨー・プロダクションから権利を譲渡された日本のユーエム社が映像化権や商品化権などの利用権を有していると認定されました(日本でも同様の結果が出ています)。この件に関しては「ウルトラマンと著作権 -海外利用権・円谷プロ・ソムポート・ユーエム社」(青山社)という本が2014年に出版されています(訴訟の資料そのままなので、読み解くにはかなりの法律知識が必要になります)。

著作権自体は譲渡できる権利ではないので(著作権のうち「財産権」は譲渡できます)、プレスリリースにある通り、ウルトラマンシリーズの著作権を保有しているのは円谷プロダクションです。また「新作」に関しても、権利は円谷プロダクションが有しています。

ここで問題となるのは、この作品に出てくる「ウルトラマン」は、はたしてどのようなウルトラマンなのか、という点です。ウルトラマンの中国語表記は、今回の作品に示された、音をそのまま写した「奧特曼」のほか、内容を翻訳した「鹹蛋超人」という表記もあります。ウルトラマンシリーズだと「鹹蛋超人系列」となります。小中和哉監督によって映画化された『ULTRAMAN』(2004年)は、中国語で「鹹蛋超人奧特曼」と訳されているので、「奧特曼」は、特に初代ウルトラマンを指す場合に使われているようです。

となると、今回問題となった『鋼鐡飛龍之再見奧特曼』に登場するのは、初代ウルトラマンということなのかもしれません。そうであれば、中国での確定判決もあり、円谷プロダクションと広州藍弧文化伝播公司との間に見解の相違が生じ、事態は複雑化します。もともと『鋼鐡飛龍』シリーズは人気作品であり、わざわざリスクを冒してウルトラマンを無断で使用する必要もないように思えるので、広州藍弧文化伝播公司に対し、中国での権利を有するユーエム社、その海外エージェントとなっている香港のTIGA Entertainment社がウルトラマンの使用を許諾した可能性があるからです。

現在のところ、ユーエム社、および香港のTIGA Entertainment社はこの件についてなんの反応も示しておらず、詳細は判らないままです。

映画の公開予定は2017年10月。CGアニメーション作品なので、現段階でもスタジオではかなり制作が進んでいることが考えられます。円谷プロダクションが中国において法的手段に訴えても、公開日までに差し止めが間に合わない可能性もあり、場合によっては「中国における権利を円谷プロダクションは有していない」として、請求が棄却されることも考えられます。

現在のところはっきりしているのは、予告編に使用された映像の一部に『ウルトラマンタロウ』以前のウルトラマン作品だけでない映像が使用されていること、そして科楽特奏隊のPVが無断使用されている点です。これについては円谷プロダクション、科楽特奏隊が権利侵害を主張し、使用差し止めや損害賠償の請求は可能でしょう。

しかし映画本編での「ウルトラマン」については、一概に無断使用と中国の司法当局に認められるかは、過去の判例もあり、先行きは不透明です。円谷プロダクションにとっては、また新たな訴訟に頭を悩ませることになりそうです。

※画像は株式会社円谷プロダクション2017年7月19日発表のプレスリリース画面のスクリーンショットです。

(咲村珠樹)

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