「自責は精神的リストカット」……生きるって、大変だけど悪くもない
おたくま経済新聞 / 2017年8月27日 0時0分
「自責は精神的リストカット」……生きるって、大変だけど悪くもない
人間、生きていると色んな壁にぶち当たったり、ちょっとした事が思いもよらぬ事態を引き起こして自責の念に駆られたり、自身の存在自体についても自問自答したり、楽しい事ばかりではなかったりします。たった一つの自分の間違えが、情状酌量の余地もないくらいまでに自分を追い込んでしまう事もあります。分かってもらえない辛さ、もどかしさはしばしば自分自身を精神的に追い詰めます。
ツイッターユーザーである ADHDの専業主婦さん(@ADHD73888136)の「主治医に言われた『自責は精神的リスカなんですよ。痛みが伴うから、生きている実感が得られる上に、思考停止の良い言い訳になる、中毒性の高い行為です』っていうのが、今になってボディブローのようにキいてる。自責は命綱にもなるけど、その命綱を手放す理由にもなる、諸刃の剣なんだな……。」というツイート。共感のリプライがたくさん付いており、この世界で生きていく事にしんどさを感じている人が多い事を思わずにいられませんでした。
主治医に言われた「自責は精神的リスカなんですよ。痛みが伴うから、生きている実感が得られる上に、思考停止の良い言い訳になる、中毒性の高い行為です」っていうのが、今になってボディブローのようにキいてる。
自責は命綱にもなるけど、その命綱を手放す理由にもなる、諸刃の剣なんだな……。
— ADHDの専業主婦 (@ADHD73888136) 2017年8月23日
■リスカ、とは
そもそもリストカットという行為は、死を目的としている事よりも生きている事を実感するためについやってしまう、体の一部(主に手首)を切り付けるという行為です。中高生の10人に一人は経験しているとも言われています。
その行為の背景には精神的な不安、葛藤、生きる事に対する不安や迷い、怒りなどの感情があるとされています。負の感情からの精神的な閉塞感からとっさに行ってしまう行為の中に、リストカットという行為が含まれます。
体を傷つける事で、その時感じている不快感から逃れる事ができるというのがリストカットを行う人の理由のようです。痛みよりも、血を見る事で自分が生きている事を実感したり、傷つける行為そのものが不快感からの逃避行動となるのです。
そしてこの行為は誰にも助けを求める事ができない、孤独の中で行われます。孤独の背景には様々な要因がありますが、周囲の人間を信用できない、自尊心が低く「自分なんかが助けを求めたってどうせ……」という感情が大半のようです。
物理的に自傷行為を行うのがリストカット、いわゆるリスカですが、ここで言われている精神的リスカとはどういったことなのでしょう。
■精神的に自分を傷つける行為
「主治医に言われた『自責は精神的リスカなんですよ。痛みが伴うから、生きている実感が得られる上に、思考停止の良い言い訳になる、中毒性の高い行為です』」という先のツイートの内容ですが、物理的な自傷行為の代わりに自責という形で脳に対して行っているという事なのでしょう。
自分を責めるという思考が、手首を傷つける行為と同じというのは頷けます。何も解決にならない事を自分に対して行うのが、物理的であるか精神的(思考へのダメージ)であるかの違いだけで、根本的には同じなのです。
■自傷行為をしやすい人
自傷行為を行いやすい人の特徴は、自尊心が低く自分に自信が持てない人、周囲に対して警戒心が強く心を開く事が難しい人、常に孤独を感じている人、相談下手である人、といった感じの人が多い傾向にあります。虐待やいじめなどで心の傷が大きい人にもこの傾向が大きいといわれています。
とりわけ、自責というのは体は傷つける事はないにしても脳に対してのストレスを自らかける行為である為、孤独感が強く相談下手である人が過剰な自責の念にかられる傾向が強くあります。
自分を責めることで得られる解決策は、あるのでしょうか?
看護師であり精神疾患の患者さんにも関わってきた経験がある筆者は、ないと思います。
自分を責めるという事で負の感情だけが堆積していく、苦しく思う、その「苦しい」という感情自体が精神的な「痛み」であり、生きている実感に繋がるのですが、それは実感だけであり解決策ではないからです。度の過ぎた自責は認知を歪め、自殺企図に結びつきかねません。
では、どうしていけば解決へ導けるか。
解決策の一つとして、自分の思考パターンや行動パターンを客観的視点で観察できるようになることが大事なのですが、そこに至るまでに必要なのが「誰かに相談する」というプロセスです。
この、相談するという行為は自責の念にかられやすい人にとっても自傷行為をする人にとっても非常に困難なことであるかもしれません。
何故ならば、「誰に相談していいのか分からない」という気持ちや「相談しても無視されたり見てみぬふりをされるかも知れない」という恐怖心がどこかにあるからなのです。「どうせ自分なんて」という自分に対するイメージが低い人ほど周囲に自分を出すのが怖いため、相談する事が困難になるのです。
しかし、何らかのきっかけで自分の心を閉ざしてしまい、自己肯定感が低い故に他者への攻撃性が高くなってしまった人でも、あるいは完全に自分の殻に篭ってしまって何も受け付けない状態になってしまった人でも心のどこかには他者への関心や何かに対する興味というモノがあるはずです。
完全に心を閉ざしてしまっている人でも何かをきっかけに心を開けるようになる事はままある話で、一人暮らしで荒れた生活を送っていた中高年男性に対しケースワーカーが粘り強くアプローチをしていった結果、きちんと自分や病状と向き合いケースワーカーを信頼して社会生活を送れるようになった人も外来勤務時代に実際に見てきました。
もし、自分が相談下手で自責の念にかられやすいという人は、いきなり相談できるようにならなくてもまず「この人なら大丈夫かも知れない」と思える人を探してみてください。親、友人、病院の医師やカウンセラー、顔は知らないけど何となく話せるSNSの仲間など……。
どうしてもいなければ、メールを活用したメンタルヘルスケアというものもあります。直接誰かに相談するのに抵抗感が強い人はこういった援助を活用してみてください。
そしてもし、自分の近くに酷く自分を責めているよう様に感じる人がいたら、それとなく寄り添いながら耳を傾ける姿勢をとってあげてみてください。言語的な言葉だけでなく、表情や雰囲気、態度もその人の「言葉」として受け止められるのです。その「言葉」から信頼できるかどうかが変わってくると思います。誰かが悩んでいたら、全身で聞いてみてください。
自分の体や精神を傷つけないようになると、きっと世界は違って見えてくると思います。生きるって、悪くないかもって思えるように。何かが辛い人に、届くといいなと思います。
<参考文献>
自傷の背景とプロセス
<参考サイト>
厚生労働省 みんなのメンタルヘルス総合サイト
<記事化協力>
ADHDの専業主婦さん(@ADHD73888136)
(看護師ライター・梓川みいな / 画像・イラストAC)
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