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認知症があっても心は乙女。あるツイートから認知症とのかかわり方について考えてみた

おたくま経済新聞 / 2017年9月24日 14時0分

認知症があっても心は乙女。あるツイートから認知症とのかかわり方について考えてみた

話題となったツイート

いつものようにツイッターを見ていたら、認知症の祖母を持つお孫さんのツイートが流れてきました。筆者、看護師として病棟勤務から始まり老人保健施設やデイサービス、グループホーム、有料老人ホームなどを渡り歩いてきており認知症を患う人とその家族の方とも向き合ってきた事も数知れず。こういったツイートにはつい反応してしまいます。
そこで、とあるツイートからの認知症についての筆者なりの考えをまとめてみました。

そのツイート、2万回以上リツイートされておりいいねも8万回以上とかなりの共感を呼んでいます。
「認知症の祖母にマニキュアを塗ったら何歳になっても女の子ととても喜んでくれた。孫としての私は忘れてしまったみたいだけど、おばあちゃん専属ネイリストとしてよろしくね。」といった内容。

ツイートには爪にマニキュアが綺麗に塗られた写真が添えられており、その手の綺麗さにも、ツイートの内容にも心惹かれるものがありました。このツイートには「きれいな手をしていらっしゃる」「素敵な話」という反応や、「色々忘れちゃってもいくつになってもキレイや可愛いは嬉しいみたい」と自身の介護の経験を重ねていらっしゃる反応、「私も同じような事をして喜ばれました」といった反応や感動して涙を浮かべる人などたくさんの共感の声が寄せられています。

■認知症って?

ひと口に認知症といっても原因は様々で、原因によりその症状の出方も違ってきます。皆さんもよく名前を知っているかと思う「アルツハイマー型」と、脳卒中などで脳の機能が損なわれる事に起因する「脳血管型」と「レビー小体型」の3種類に大きく分かれます。認知症の約60%がアルツハイマー型で、女性に多くみられがちです。記憶障害などが最初に出始めるのもアルツハイマー型なので、一般の人のイメージは認知症といえばアルツハイマー型を思い浮かべる人が多いかと思います。

また、アルツハイマー型の認知症は体には特に大きな変化がなく、元気でありながらも記憶が迷子になってしまうため、現在の自身の状況を把握する事ができなくなり昔の記憶が混在してしまうために徘徊といった行動に出てしまう事が多いようです。
実際に徘徊している認知症の方に「どこへいくの?」と聞くと、「今からうちに帰る」「会社に出勤する」「子どもを迎えにいく」など、現在の状態からは遠い記憶の世界の中へ迷い込んでいる事がほとんどです。

■現在と昔の記憶のはざまに生きる認知症患者

アルツハイマー型の認知症で最も顕著なのは記憶障害ですが、今の状況や今やっている仕事の手順、いつも通る道や買い物の仕方、更には服の着替え方すらも忘れてしまうのが特徴であり、おかしいと思った時には発症していたりします。
記憶障害が出始めると、何かを忘れているがそれが何かが分からない、覚えておけない事に対する恐怖や強い不安が行動となって現れ始めます。
アルツハイマー型は進行性の病気であり、早めに気が付いた時点で薬を飲むなどの治療を開始すると進行を遅らせる事が出来うるのですが……進行していくと最終的には排泄や食に関する行動といった命に関わる行動すらも記憶から消えていってしまいます。
大好きでしっかりしていた人がいろいろな事を忘れ始め、少しずつできることが減っていくのを間近で見守り介護する家族の辛さは計り知れないものがあります。

認知症により「今」が失われ始めて出てくるのは「昔」です。ひとしきり「今」の状態を脳が処理しきれなくなり失われてしまうと、昔の記憶が出始めます。適切に声を掛ける事で「今」を認識してもらう事ができても、それは僅かな時間に過ぎず、「昔の記憶」が「今」にとって変わってしまいます。この記事を読んでくださっているであろう現役世代の皆さんですら、自分が輝いていた学生時代や青春時代を思い起こして懐かしむ気持ちがあるかと思います。その懐かしい記憶の中にすっぽりと入り込んでしまい、現在を見失っている状態が認知症の状態なのです。だから、前述のような徘徊のやり取りが出てしまうのです。

■認知症であっても感情はボケていない

このようにして主に記憶の障害により様々な行動を引き起こす認知症ですが、心はちゃんと生きています。先のツイートのおばあちゃんも、顔も忘れてしまっている孫に爪のおしゃれをしてもらえた、そんな嬉しい気持ちが「何歳になっても女の子」という言葉と嬉しさを表現しています。
この感情の記憶は人の脳に強く残るといわれており、マイナスの感情ほど大きく残りやすいようです。一方、嬉しい、楽しいといったプラスの感情は一時的であれどその人の心の健康に大きく良い影響をもたらします。
マイナスの影響を極力抑え、プラスの影響を多くする事で認知症の症状があっても社会性が保たれるというのも今まで筆者が働いてきた中で見て体感してきました。
自治会長を長く続けてきた町工場の社長さんですら認知症にかかります。しかし、認知症を抱えていても昔の得意分野の話を振ると目を輝かせて語りだし、その時にあった感情と一緒に当時を振り返っていました。
また、昔好きだった流行歌をみんなで歌ったとき、「懐かしいね」「この歌が流行った時は戦後すぐであんなことがあったね」と認知症の方同士でも連帯感を深めていて、それがお友達同士になるきっかけとなってデイサービスへ行くのが楽しくなった、という人も何人もいました。
生きている限り感情も生きています。誰かが怒ると反発したり萎縮したりというのは認知症があってもなくても同じですし、嬉しい事や楽しい事を分かち合うとその嬉しいや楽しいが何倍にもなって共有できるのもまた、同じです。

■認知症を正しく理解する事でもっと優しくなれる

認知症とは何か、が明らかになり社会に浸透しつつある現在ですが、やはり未だ偏見は残り隠したり言い出せなかったりする人も多くいます。記憶と感情は一人ひとりの個人の特有のものであり、また共有できるものもあります。
認知症の個々人の記憶とその世界の背景を知る事で認知症の人が何故そういう言動をするのか、徘徊するのかが理解できて対応もしやすくなります。
実際、筆者の勤めていたデイサービスでもやはり徘徊する人がいました。その人に対して始めのうちは頭ごなしに「今はそんな事をする時間じゃないから」と説き伏せていましたが、その人の生きる世界の背景を紐解いていくと、工場に働きに行っていた時の記憶と徘徊の行動が一致している事が分かり「今はもう工場で働いていないしここはみんなで談笑するサロンみたいな所だから安心してお喋りしてていいんですよ」と声をかけてみました。その時に出た反応が「あぁ、私は工場勤めは終わっとったんだっけね。すっかり忘れとったわ」という言葉と笑顔でした。度々このやりとりは繰り返されましたが、頭ごなしに「違います」と否定していた頃に比べてその認知症の人の行動はだいぶ落ち着いてきたのを今でも覚えています。

今は隠す時代ではなく、声を上げていく時代だと思います。認知症の当事者が講演会をする事も増えてきましたし、当事者や家族の会も各地で形作られています。
いま、私たちにできる事は、正しい知識と自分の体験をなるべく多くの人に知ってもらい、共有する事だと考えます。実際、町内単位で「ウチの人、認知症があるから一人で見かけたらよろしくね」と声を掛け合えるコミュニティは少しずつ増えてきており、小さい単位での認知症に対する取り組みも広がってきていますがまだまだこれからといった所です。
この先認知症の当事者になっても当事者の家族になっても落ち着いて対応できるように、みんなで声を掛け合って、みんなで見守るコミュニティが出来上がっていくことを切に願っています。

さいごに、認知症についての参考になるサイトをご紹介しておきます。
もし近くで悩んでいる人がいたら、声をかけてあげてくださいね。

画像提供・投稿者

<記事化協力>
ツイッター投稿者

<参考>
政府広報オンライン もし、家族や自分が認知症になったら 知っておきたい認知症のキホン
国立長寿医療研究センター 認知症ついて知りたい方へ

(看護師ライター 梓川みいな)

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