ただの娯楽としてではなく歴史的資産として残す、NPO法人「ゲーム保存協会」の取り組み
おたくま経済新聞 / 2017年12月2日 11時8分
![ただの娯楽としてではなく歴史的資産として残す、NPO法人「ゲーム保存協会」の取り組み](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/otakuma/otakuma_20171201_07_0-small.jpg)
NPO法人「ゲーム保存協会」提供
スマホアプリのソーシャルゲームのリリースが絶えない昨今、データのみのゲームは消えていくだけなのかという話も出たことがありますが、1990年代のホビーパソコン全盛期にはかつて多くのPCゲームがリリースされていました。
しかし、そのほとんどが磁気ディスクという媒体。今では骨董品扱いとなっているフロッピーデスクに代表されるこの磁気ディスクはCDなどの光学ディスクの普及によって姿を消していきました。また、磁気ディスクは磁力やホコリなどの汚れに弱くカビてしまうこともあるなどの弱点も多く、磁気ディスク全盛期のPCゲームは今や失われつつあります。
人は生きていく中で色々な遊びを発明してきましたが、中でもビデオゲームの発明は革命的でありました。当時の先端技術をふんだんに用いた『ファミリーコンピュータ』が任天堂から発売された当初、それまでのゲーム観を全く覆すものとして社会現象にまでなりました。そこから、コンピューターゲームの歴史も大きく動き始めていきます。
こうしたゲーム史を学術的な歴史資料としてとらえる時、どのようなゲームが当時流行り、どれだけの種類・ジャンル・数・メーカーがあったかなどを記録して保存していくことは重要。
今回はその「ゲーム」に特化した膨大な資料を保存し、次世代へと繋げていくための取り組みをしているNPO法人「ゲーム保存協会」が11月に保存ゲーム類のアーカイブを公開したということで同協会の方に話を伺いました。
■2011年の設立から現在に至るまでの間、収蔵活動が大変だったかと思いますが現在はアーケード基板、PCソフト、コンシューマー機用カートリッジ類、雑誌書籍等の資料はそれぞれどの程度のタイトルが集まっているのでしょうか?また、ゲームに関連した音楽ソフトやサウンドトラックなどの音源、派生漫画作品等も収蔵の対象なのでしょうか?
ーー実は、NPO法人ゲーム保存協会自体が資料を購入することはございません。NPOはあくまでも、ゲームを保存したいと願う市民が集まって活動をする場所ですので、団体としてソフトを購入することはなく、現在団体が保有している全資料は、NPOに参加している個人個人のコレクターの善意によってNPOに管理を任されている資料です。例えば今回公開している等々力本部のアーカイブは、理事長のルドン・ジョゼフ個人のコレクションと参加メンバーから借り受けていた資料、そして活動内容にご賛同いただいた方からの寄贈資料です。
現在、レトロゲームの売買価格は高騰し、0から資料を集めることはほぼ不可能な状況です。ゲーム保存協会では設立当初から資料のコレクションはせず、その代わり、活動趣旨に賛同し共に資料の保存のため最善の策を考え行動するコレクターのネットワークを作ることに力を注いできました。自分たちが集めた資料を未来に残し、愛してやまないゲーム文化を多くの人と共有し引き継いでいく気持ちを持つたくさんの仲間がいたおかげで、他では達成しえない大規模なコレクションを維持することができるのです。
参加しているコレクターらは、90年代からコレクションをはじめており、それぞれ収集対象に専門があります。
どのような資料も大切な文化財ですが、特にNPOとして力をいれているのが、PCソフトのコレクションです。日本にしかない国産PCソフトは、発売数など情報も多くて集めている人が多いコンシューマー資料より収集が難しく、劣化や保存にも様々な問題がありますので、そうした散逸しやすく脆弱なものを優先的にアーカイブし資料情報を整理しています。
コレクション数については、現在協会がアクセスできる協力者らのコレクションの数で、同じソフトを複数所持しているものもありますので、大まかにタイトル数だけで考えると、以下のようになります。
・アーケード基板:残念ながら現時点で数を把握しておりませんが、大規模なコレクションを持っている方と協力しアーカイブ事業を計画中です。今後、計画がまとまり次第、発表いたしますので今しばらくお待ちください。
・PCソフト:ウィンドウズまでのすべての国産PCソフト(約18000本存在)が収集の対象で、現時点で1万本弱を収蔵しています。
・コンシューマー:現在まで販売されている全タイトルの90%以上を収集し終わっております。
・雑誌書籍 攻略本やゲーム雑誌、アドベンチャーブックなど:すべて合わせて約34000冊あり、ゲームに関連した漫画もコレクションに含まれます。
・音楽ソフトやサウンドトラック:80年代に発売されたものはほぼすべて収集が終わっておりますが、現在、資料のアーカイブ化を待っている状態で正確な数字がわかりません。今後の発表をお待ちください。
この他に、各種ハードウェアや周辺機器もございます。また、これから電子ゲームのコレクションにも力をいれてアーカイブ化を目指しますので、コレクション内容はさらに充実していく予定です。
コレクションはただ数を集めれば良いというわけではなく、実際にどんな資料がどのような状態で収集されているのかデータベースとして整理しなければなりません。ゲーム保存協会では、アーカイブ化事業として、実際の資料を一つ一つ検品しながら詳細を入力する高精度なデータベースの作成を続けておりますが、現時点でもデータベース上には40万件以上の作品(ソフト、ハード、雑誌や書籍、CDなど)が登録されています。
■11月にアーカイブを一般公開するにあたり、一般の方の利用として想定されるソフトの複製や著作権などに関わる問題が発生しうるかと思いますが、その辺りはどのようにクリアされましたか?協会施設内での利用のみで貸し出しは不可という形となるのでしょうか?
ーー著作権についてですが、まず当協会ではソフトの貸し出しや複製の譲渡は、展覧会など一部例外を除いて、しておりません。
アーカイブ内の資料を使うには、利用目的の明示が必要で、研究やプロジェクトの内容を事前にお知らせいただいておりますので、その内容を見てこちらで権利の問題がないかどうか確認したうえでご利用いただいております。
利用の内容によっては、権利の問題がないこと、閲覧して得た情報を悪用しないことなど、署名捺印をいただくようにしております。
基本的には、学術研究のため、記事など執筆にあたって必要な調査のため、あるいは著作権を持っている方からの依頼であれば、問題なくご利用いただけます。
■資料として現物の現状保存が原則かと思いますが、エミュレータを使ったソフトの公開なども今後展開として考えられているのでしょうか?テープやフロッピー類だとどうしてもカビていたり劣化していたりということもあるかと思います。データの保存という観点では実機で動かすことが困難なソフトもデータがあればエミュ上で走らせることができますが、こういった保存での資料も公開していく方向なのでしょうか?
ーーNPO法人ゲーム保存協会は、もともとゲーム保存に必要な技術を開発したことから法人として立ち上げた団体です。2011年の立ち上げ以前より、理事長のルドンはSoftware Preservation SocietyのKryoFlux、あるいはフロッピーハードエミュレータHxCなど、高精度のデータ・マイグレーションとリマスタリングの技術の開発に協力してきました。フロッピーディスクであればクラッキングやハッキングをせずディスクの全情報を正確にマイグレーションできるこれらの技術は、現在、大英図書館、フランス国立図書館など海外のアーカイブ機関で運用されており、ゲーム保存協会の保存作業にもこの技術を使っています。
コピープロテクトを壊した一般のコピーでは、ゲームのすべての情報を正しく保存することはできませんし、コピープロテクト自体も当時のゲーム文化を語る大切な部分です。当協会には、正確にすべての情報をマイグレーションして実機で動作可能な特殊リマスタリング技術がございますので、今後の劣化消失に立ち向かうべく、この方法で貴重なソフトの保存を続けております。
ちなみに、アーカイブ室の一般公開でも、ソフトの実機動作が必要な場合、オリジナルのマスターディスクは使いません。いくら丁寧に扱っていてもディスクを実機で動かせば、損傷や劣化の原因となります。アーカイブの閲覧依頼でソフトの動作が必要な場合は、上述の通り特殊な保存技術で保存したデータを利用し実機で動かす形をとります。当協会の技術を使えば、オリジナルのディスクを使って動かすのと全く同じ動作(フロッピーの読み込み時間なども実際にフロッピーで遊んでいただく時と同じように再現されます)が、実際の資料をい傷めることなく再現可能です。
なお、こうした特殊な保存技術と同時に国産PCの公式エミュレータを開発するプロジェクトが取り組みの中にございます。ただしこちらは開発費がネックとなりまだ今後の展開に関し検討中の段階です。
当協会の保存技術は、今後世界のアーカイブ機関のスタンダードになると予想されます。すべての基礎となるフィジカル・アーカイブ(現物資料保管)ができましたので、今後は、こうした高い技術力を駆使したデジタル・アーカイブを作りたいと考え、活動中です。実現すれば世界初、最大規模のゲーム・デジタル・アーカイブになりますが、特殊技術を駆使する保存には時間と人手、予算が必要です。今はデジタル・アーカイブ実現にむけ、多くの人からのご支援ご協力を募っている段階です。
■全国にレトロゲームバーなどが点在しており、それぞれが所有しているハードとソフトを店内で利用できるようにしている業態をとっているところも多くありますが今後そういった店舗等との連携はとっていく可能性はあるのでしょうか?ハードは各店舗が所有しておいて、ソフトの店舗への貸し出しというのも考えられるかもしれないと素人ながらに思いました。
ーー私たちの第一の使命は資料の保存です。劣化や損傷から貴重な文化財を守るために活動しておりますので、資料の外部への貸し出しには資料の安全が守られるかどうかなど確認が取れない場合一切お受けしておりません。ですので、一般の店舗への貸し出しは行いません。そうした古いソフトを楽しめる場が増えることは、文化振興の面で非常に喜ばしいことですが、私たちNPOは営利を目的とせず、きちんと資料を残すために活動する機関として取り組みを続けてまいります。
ただ、マシンの修理に関するノウハウや技術は共有できます。ゲーム資料をお持ちの方々から、機器の故障などでお問い合わせがあれば、修理修復のご協力ができます。
アーカイブの公開ができたのは、2011年から今まで変わらぬご支援ご協力をくださったサポーター会員の皆さまのおかげです。
私たちは私利私欲と離れ、できる限り中立公平な立場で、ゲーム文化とゲーム資料のために活動を続けます。
無償で作業にあたるボランティア、善意からコレクションを共有するコレクター、そして劣化と戦うために技術開発をするスタッフなど、力を合わせてこれからも世界一のアーカイブが作れるよう真摯に活動を続けます。
大きな目標を達成するためには、まだまだ力が足りませんので、ぜひこれからもたくさんの方にサポーターとして参加していただけたらと願います。
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ゲームというとどうしても営利的な事柄と結びつきやすい側面がありますが、公平性を期するためにもできるだけ多くの方と協力し、文化のために活動を続ける団体でありたいということです。劣化はどうしても避けられない事象。できる限りの最高の保存状態を維持するためにもこうしたデータのすべてをバックアップして、コピーしたものを資料として活用していくことが必要不可欠となるのですね。
レトロPCといわれている、80~90年代のパソコンも製造終了やメーカー撤退などで修理する技術や部品も限られてきているのが現状ですが、全国に点在している愛好家たちがこうして努力しているおかげで実機の保存もできている、ということです。こうした膨大なデータベースを学術的な研究に活かすべく、今回のアーカイブ公開となったわけですね。
昔遊んだ懐かしいゲームたちを後世に伝えていくためにも、多くの人にこの活動を知ってもらい、力を分けてもらえればと思います。
<協力>
NPO法人ゲーム保存協会
(梓川みいな)
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